第39話「文学少女、体育倉庫のマットの裏に詩を書いていた」
今回は、“転んだときに読む詩”という新ジャンル回!
体育倉庫×詩音先輩という組み合わせが、思った以上に相性良すぎてびっくりです。
心まで受け身できる詩、大事ですね。
秋の体育祭の準備でにぎわう放課後。
こよりたちは、体育委員の手伝いで体育倉庫の整理を任されていた。
「うわぁ、このマット、意外と重たいね」
「そりゃ体育祭で跳び箱の着地用だからね。何人も転がってきてるわけだし……」
ごろん、と大マットをひっくり返したその瞬間。
まなが声をあげた。
「……ちょっ!? マットの裏、見て!!」
そこには、チョークでもマジックでもなく、
布用ペンで直筆された詩がしっかりと記されていた。
『ふかふかの世界に落ちるとき
できれば誰かの言葉を抱いていたい
転んだ先に、詩があれば
きっとそれは、痛くない』
「……もうダメだ。体育倉庫にまで詩音先輩がいた……」
「しかも“転んだ人用”の詩!? やさしさが高密度すぎる……!」
さらに他のマットにも、似たような詩が見つかる。
『跳ぶ前に深呼吸
落ちる前に、少しだけ詩を思い出して』
『ふわっとした着地でも
胸の鼓動は本気だった
そのまま、そのまま、がんばれって言いたくて』
体育教師に確認したところ、去年の冬の清掃当番中、
「マットを陰干しする」と言って、詩音先輩がこっそり書いたらしい。
ゆい「もう“マット裏詩”ってジャンルが誕生してるじゃん……」
まな「“倒れたときに読まれる前提”の詩って、世界でも珍しいよ……」
こより「でもなんか……わたし、これ好きだな」
こよりはそっと、見つけた詩の隣にマジックで一行、書き足した。
『詩があったから、今日もちゃんと立てたよ』
文学はときに、柔道の受け身よりも優しい。
そして翌日、そのマットで転んだ1年生が、こうつぶやいた。
「……あれ? なんか……詩に励まされた気がする」
体育倉庫のマット裏で、今日も文学は転んだ人に寄り添っていた。
今日の一句:
「転んでも 詩があれば 大丈夫」
次回、第40話「文学少女、理科室の人体模型にこっそり詩を貼っていた」
実験準備中に発見された“詩の内臓”とは――!? ついに理系エリアにも文学の侵略が!




