第22話「文学少女、卒業アルバムのコメントを本気の詩で提出する」
今回は“卒業アルバムのひとこと欄”すら詩にしてしまう詩音先輩。
感謝や思い出を超えて、“時間の重み”まで紡いでしまう彼女の言葉は、
やっぱり最後までぶれませんでした。
冬の終わりが近づき、廊下には“さよなら”の予感が漂い始めたころ。
教室では担任の先生が卒業アルバム用の原稿を配っていた。
「はい、みんな~、卒アルの“ひとことコメント”書くやつねー。
『楽しかったです!』とか『ありがとう!』とか、自由に書いてOKだよ~」
「よっしゃ、無難に『3年間ありがとう!』でいくか~」
「『一生の宝物』って書くやつ、だいたい3日後に忘れる説」
「私は絵文字で乗り切る予定です」
そんな中――
ひとりだけ、原稿用紙が足りないと職員室に取りに行った人がいた。
もちろん、詩音先輩である。
彼女の提出した“コメント”は、なんと便箋4枚。
しかも、そこに書かれていたのは……
『校舎の窓は、毎日同じように見えて
毎日、違う空を映していた。』
『廊下のすみっこで、何度も泣いた。
誰にも見つからなかった涙が、
ちゃんと“わたし”を育ててくれた。』
『さよならは、別れじゃない。
たぶんこれは、
“昨日のわたし”への卒業証書。』
「……っ、これ……卒アルのコメントに載せるには、重すぎない!?」
「感情が詰まりすぎてて、もはや“詩集あとがき”じゃん!!」
先生も困惑気味に言う。
「いや、素晴らしいとは思うんだけどね?
“ひとこと”コメントじゃなくて、これはもう“ひとだくだく”だから……」
校内では瞬く間に噂になり――
「詩音先輩の卒アルコメント、ヤバいらしい」
「っていうか読むと泣くって聞いた」
「“あの窓は今日で最後”って一文で、私もうだめだった……」
生徒たちはこっそりコピーして保存しはじめる始末。
「卒業アルバムじゃなくて、個人詩集に載せるべきレベル……」
「でも、うまく言えないけど……この文章が、いちばん“卒業”って感じがする」
そんな声が、教室中に広がっていく。
そして後日、印刷所の特別対応で、詩音先輩の詩は“別ページ”に全文掲載されることが決定。
「なんか……最後のページ、泣ける気がする……」
「アルバムの中に、ちゃんと“物語”があるんだね」
今日の一句:
「ひとことが いつしか胸の 本棚に」
次回、第23話「文学少女、下駄箱の靴にメッセージ短詩を差し入れてる」
卒業シーズンの靴箱に、名もなき言葉の花束を――!? 校内がほんのり文学迷宮に!




