第75話 年貢の納め時
夜明け間近の薄暗い中、魔物との戦いを終えた戦士達がガンバール村に帰還。
全員魔力切れの為、疲労困憊の様子。
村の出入口門のところにバンガルやカレン、村人達が待っていた。
「腕はどうなさったのですか?」
「ちょっと邪魔になったのでその辺に捨ててきました」
「あの…そういうの笑えないのでやめてもらってもいいですか?」
「別に笑わすつもりはありません。事実ですから」
「はぁ…相変わらず面倒な方ですね」
ため息をつくカレンの肩をバンガルが叩き、質問者がバトンタッチされる。
「帰ってきたということは勝ったんだな?」
「はい。全員凄かったですが、中でもレオとレミさんの助力が大きな勝因となり、勝つことができました。彼らが今回の戦の最優秀者です」
聞いてもいないのに最優秀者が誰かを説明する平常運転の凡太にバンガルが呆れながらレオに聞く。
「結局あいつだろ?」
力強く頷くレオ。
「騙されてはいけません。彼は気遣いのプロ。何の活躍もしなかった私をたててくれているだけなのです!」
凡太の魂の叫び。
しかし、バンガルには通じない。
「皆さんお疲れでしょう。簡易的ではありますが、休憩スペースをつくったので自由に使ってください」
「かたじけない」「ありがとう」「ありがとうございます」
各々礼を言いぞろぞろと休憩所に向かって移動開始。
バンガルや味方全員にスルーされ、置いてきぼりにされた男は、やれやれといった顔のアイとレイナに背中を押されながら家へと向かう。
アイと別れ家に着いた途端、二人ともそのまま就寝。
再び目覚めたのは夕方だった。
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凡太が目覚めるとレイナが服を着替えていた。
「前から言っているけど、言われたらちゃんと出てくから着替えるときは言ってね」
「私は別に構わないのでお気遣いなく」
「こっちは構うので気遣わせてもらいますよ」
「それより何か変わったと思いませんか?」
「何が?」
「いえ、何でもありません」
クスクス笑うレイナを余所に家を出ていく凡太。
なぜレイナは笑っていたのだろうか?
理由を考えている内に大きな違和感があった事に気づき、それを言葉にする。
「あの美人誰?」
家にレイナの雰囲気を纏った美人がいた。傷の状態や声でいつも通りの感じでレイナと判断して返事したが、人違いの可能性も考えられる。どうしたものか悩んでいるところに先程の美人が家から出てきた。
「お待たせしてすみません、ボンタ様」
(この村で俺に敬語を使うのは一人しかいない。やはりレイナだったのか。ということは…)
「別に待ってないし大丈夫だよ」
「ボンタ様も着替えますか?」
「うん、一応着替えるよ。今更だけど呪いが解けてよかったね」
「はい。グレントンのスキルを受けた時から体が軽くなった気がしていたのでおそらくそれが要因かと」
「そっか…呪いの能力半減効果がきれたからだね」
グレントンのスキル”全解除”はあらゆるスキル・魔法の効果を消し去るもの。強化魔法だけなく呪いも消し去られた。これにより、レイナの能力が元に戻っただけでなく、火傷痕のようなひどい皮膚のただれがなくなり、本来の姿に戻ったのだ。
能力半減効果であれだけ動けたのに元に戻ったらどれほど高い能力になるのだろうか。レイナの今後の無双振りを想像し、嬉しい気持ちになる。
(レイナの呪いが解けるまでは奴隷契約を無理矢理にでも引き延ばそうとしていたけどその必要はなくなったな。これでいつ契約破棄してもよくなったわけだ)
一つ課題が減って心が少し軽くなる。
レイナに服の着替えを手伝ってもらった後、お腹がすいていたので食堂へ。
途中レオ、アイと合流。
レイナの外見の変化に二人共驚き、喜んでいた。
食堂に着くとメアリーとレミが出入口前で立っており、呼び止められた。
「タイラ君、少し話いいかな?」
「いいですよ」
個別の用事らしく、レオ達には先に食事にいってもらうように伝えた。
凡太達3人は少し人通りの少ない隅の方に移動していった。
レオ達はそのまま食堂で食事をとる。
「レイナ、ボンタの初見反応はどうだったの?」
「いつも通りでした」
「ははっ。彼らしいね」
「うーん…兄さんの言う通りなんですけど、これだけ美人になったら普通驚きません?私がその反応されたらちょっとショックかも」
「私は嬉しかったですよ。人を中身で判断していないって証拠ですし。良い主人に出会えてよかったと改めて思えました」
凡太と同じく人を内面で判断するレイナが大人びてみえたのか、アイが少し反省した表情をする。
「私は中身と外見の両方を見てもらいたかったからまだまだ子供かな。レイナや兄さんの考え方が普通なのかもね。あ、主人で思い出した…。前から思っていたんだけど、レイナとあいつのやり取りを見る限り、レイナの方が主人に見えちゃうのよ。なんかあいつだらしないじゃない?」
「それ、分かります!だから最近は毎晩寝る前に姿勢をちゃんと正すように指導しているんですけど効果がないんですよ」
「もっと厳しく言わないとダメよ。あいつは馬鹿なんだから何千回と言わないとね。なんなら私も手伝おうか?」
「是非!二人の方が効果はあると思うので良いと思います」
「内容はどんな感じにする?」
「でしたら、最近の歩き方が猫背気味な件から…」
レオは説教内容を楽しそうに決めていく二人の姿をみて微笑ましくなる一方で、少しだけ凡太が気の毒に思った。
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20分後、凡太が食堂へ戻ってきた。
「どうもお待たせ致しました。あれ…レオは?」
「兄さんならワレス兄さんの所へ行ったわ。それより、どんなことを話していたの?」
「騎士団入隊の勧誘だよ。身体能力に差があり過ぎて足手まといになるだけだからって事で断った」
「勿体無い。王国騎士団なんて戦士からしたら超一流の就職先だったのに」
「多分いつものどうしようもないところが出たのだと思います」
「だよね…。どうせ私達のことに気を遣って断ったってことでしょ?」
「ソンナコトナイヨ」
「「はいはい」」
アイ達に呆れられつつも料理を用意してもらう。
今日は殻付き貝類たっぷりの海鮮風パスタだった。
「用意してくれてありがとう。では、いただきます」
腕のないときに殻付き貝という食べづらい料理を選んでくれた2人の(困難を与え、精神の成長を促す)厚意に熱く感謝する。凡太が犬のように顔面から皿にダイブして、食べようとしたところをレイナに注意された。
「はしたないですよ。料理なら私達が食べさせてあげます」
そう言って、箸で貝の身を持ち、口元まで近づけてくるレイナ。
隣ではアイもなぜか待機中。
“あーん”の舞台が整ったようだ。
周りの村人達はその様子を遠目から微笑ましそうに見ている。
美女2人と不細工おっさんが仲良く食事する場面を想像して、愉快に思う人がこの世界にどれだけいるだろうか。美女には美男と相場は決まっており、それが万物の理である。凡太は普段は型破りというか持ち前のイカレ具合から型にはまらない感を出していたが、こういったところでは型にはまりまくるタイプであった。それ故、理に反した現在の状況に苦悩した。
そんな苦悩も虚しく、迫りくる箸。
年貢の納め時である。
次々と口元に迫ってくる幸せを具現化したもの。
それを口に入れられていく。
こうして、腕がなくなったことで受け身にならざるを得なくなり、哀れな姿になるおっさんであった。




