第34話 私だからこそできること
アイの二重斬空波が相殺できると知ったノーキンはひたすら斬空波を撃ち続ける遠距離攻撃スタイルに戻った。アイの恐怖状態はノーキンのスキルに備える為、安易に解除することができない。スキル対策の防御策が今やアイを消耗させ続ける毒になったのだ。
アイは斬空波をかわし続けることで、新しい活路を見出そうと粘る。
20分経過。観客もさすがに飽きてきたのか。欠伸をする者がちらほら現れ始めた。
そんな中、凡太は20分間ずっと、そして今も真剣に試合を見ていた。
「修行の成果がちゃんと出ているよ。恐怖状態での消耗状態なのによく粘っている。凄い持久力だ。本当に…本当に強くなったよ…」
感動で涙腺が緩んだ凡太は泣きかけた。
その直後、ノーキンが今までの斬空波の構えと少し違う体を脱力する姿勢をみせた。
「斬空波・乱」
突然の新技。
「斬撃を1度に10個以上!?攻撃範囲が広すぎる」
戸惑うアイ。
急だったのでかわしきれない。
そして――
「っつ!!」
右足に斬撃が命中し、出血。動かしはできるようだが表情が苦痛で歪んでいる。やはり重症のようだ。
「相手が疲れ切ったところで奥の手を出して王手をかけるって、本当に嫌な性格してるよ」
確実に相手を仕留めるため、有利な状況になるのを粘り強く待った戦略に敵ながら賞賛する。
「次で摘みだ」
そう言い、斬空波を放とうとするノーキンだったが、またも違う構えだ。“乱”の時と違い何やら溜めの動作にもの凄い気迫を感じる。そして、その溜めの動作から新たな斬空波が放たれる。
「斬空波・極!」
20mくらいある恐ろしく大きい波状の斬撃がアイに向かって飛んでいくが、少し遅い。
凡太にも目視確認できるくらいだ。しかしそれでも一般人からしたら速い。30㎞/hは出ているのではないだろうか。ただ、これなら右足負傷しているアイでも充分かわせるスピードだ。
アイは左足を使い、跳んで逃げようとする。
が、ノーキンは斬空波・乱の構えに入っている。
(“乱”か。思い切り飛び回ればなんとかかわし切れるかしら…)
跳び回ろうとした時に、ふと自分の周囲を見渡す。そして絶望した。
知らない間に角に追い込まれていたのだ。右側と後は壁。丁度壁沿いに放たれている“極”をかわそうと左に飛べば、そこを“乱”で仕留められる。
(そうか。知らない内に攻撃誘導で角に寄せられてたんだ。こんな状況で詰将棋のように私を使って遊んでいたとでもいうの?)
絶望のあまり、立ち尽くす。
「諦めたか。やはり貴様はつまらぬ」
決め台詞を言い、勝利を確信する。
対するアイは敗北を確信する。
(はぁ…頑張ったけどここまでのようだわ)
今までの修行を思い出す。
(全部やり切った、もう悔いはない)
そして、近づいてくる“極”を見て。改めて敗北を確信する。
ふと、あの男の顔が最後に見たくなり見上げた。
何やら必死で叫んでいるが聞こえない。
(こんな状態の私をみて、まだ応援してくれているの? まだ足掻けると思ってくれているのかしら)
そんな凡太の様子をみて嬉しくなる。
(でも、もう無理みたい。ごめんね。あなたを守り切れなくて…本当に…ごめんなさい)
悔しさに涙を溜める。
“極”をかわすため、左足に力を溜める。
最後にもう一度、今この瞬間も必死に応援を続けるボンタの姿を見た。
その時、ふと考える。
(ボンタだったらこんなときどうするかしら…)
凡太の今までの行動を走馬灯のようにプレイバックする。
(そんなの決まっている――)
少しの沈黙。
(最後の一瞬まで、助ける為に足掻き抜く!!)
目が活力を取り戻したかのように開かれる。
同時にまるで覚醒したかのように妙な威圧を放ち出すアイ。
その異変にノーキンはいち早く気づく。
(急になんだ? あの女の空気が変わった。あの時の男と同じような妙な雰囲気だ)
以前凡太がこの雰囲気になった時は、何か行動を起こした。
当然ノーキンはその経験もあり、アイの次の行動を警戒した。
ところがそれを裏切るように行動を起こすどころか、アイはずっと立ったままだ。
“行動しない”を続けている。
(気でも狂ったか。“極”をかわさねば死ぬぞ)
ノーキンは女が諦めて頭がおかしくなっただけだと思った。
(このままでは死ぬ…?……まずい!)
何かに気づき、慌てた。そして、すぐさま自身の放った“極”の軌道を変えようと全力斬空波を“極”に向かって撃ちまくる。
慌てるのも無理はない。この試合のルールでは相手を殺すことは禁じられている。つまり、殺せばノーキンが敗北するのだ。
「自分の命を囮に使ってまで時間稼ぎをするか!つまらぬ者め!」
ノーキンはその怒りをのせるように全力斬空波を放ち続ける。
そして、その甲斐もあり、アイの手前で“極"がそれて壁を破壊した。
「下らぬことをしおって。すぐに終わらせてやろう」
そう言い“乱”の構えに入る。
ふとアイに目をやると斬空波の構えをとっていた。
「なぜ構えられる?足を負傷していたはずだ。その状態では使えぬぞ!」
右足を見ると傷が完治していた。
(いつだ? いつ治す時間があった?)
必死に記憶を辿る。
そして――
「まさか…“極”が向かってきているあの絶体絶命の状況の時に回復魔法を使っていたというのか!?自分が死ぬかもしれないという時にだぞ?そんな状況下であるにもかかわらず、俺の行動を先読みし、次に備えていたとでもいうのか?」
アイの常軌を逸した行動と戦略に驚く。
だが、少し考えて冷静さを再び取り戻す。
「貴様の技は見切っておるわ。相殺した後。そのときが貴様の最後よ」
そう言って、二重斬空波に備える。相殺後の“乱”狙いだ。
そんな中、アイはつぶやく。
「…私は弱い」
「そんな弱い私だからこそできること…」
そう言って初撃、後続を放ち終えるアイ。
一緒だ。
“ここまでは”
「これが、その答えよ!」
次の瞬間、アイが全力の斬空波を放つ。
「まだ上の段階の斬空波を隠し持っていただと!?」
アイの最大級の奥の手に慌てふためく。
摘む側だと思っていた彼は摘まれる側だったのだ。
そして、初撃と後続に全力の斬撃が重なる。
ここに三重斬空波が誕生する。
「…まずい、これでは相殺――」
予想外の出来事の連続にパニックになる。肉体強化を使う余裕すらも無い様だ。
そして、防御や肉体強化をすることなく、直撃をくらい、もの凄い速さで壁の方へ吹き飛ぶ。
ドゴーン!!
その勢いのまま壁へとめり込む。威力も大きかったようで最初の“二重”のときより5倍以上深く壁にめり込んだ。
さすがに気絶している。
そして審判が決着を確認し、宣言する。
「勝者、ユーシア・アイ!」
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「アイのやつ。本当にやりやがった…」
凡太は知っていた。アイが隠れて三重斬空波を練習していたことを。
アイは修行前までの本気になれなかった期間が長かった為、本当の全力と仮の全力の2種類の全力の感覚を持っていた。今まで自分を抑制せざるを得なかったアイだからこそできた技である。
「馬鹿な、こんなことはありえない。あんな弱い小娘にノーキンが負けるなんて…」
そんなアークの様子を見て止めを刺すように凡太が言う。
「だから最初に言ったじゃん。“あの娘は強い”ってね」




