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お兄様レベル50


「……何かしら、これ?」


 フランツェスカが魔法の勉強をするようになって二週間後。

 朝起きると、フランツェスカの左隣に謎の水色に光るウィンドウが浮かんでいた。それに類似したものをこの世界では見たことがないので、ウィンドウというのは前世の記憶を参照して似たようなものを探し出した名称である。

 フランツェスカが上半身を捩るとそのウィンドウも付いてきて、必ず彼女の視界の左端に映る。光っているのでわかりづらいが、そこには白抜きの文字が浮かんでいた。


『フランツェスカ Lv.5』


「うーん、なんとなく意味は解るわ! 解るけど解りたくない! レベル5って何よレベル5って!」

「おはようございますお嬢様、もう起きていらっしゃ……お嬢様!? どうされたのですか、お嬢様!」


 フランツェスカがジタバタとベッドの上で暴れていると、起こしにきた侍女のベルタがギョッとした顔で近寄ってくる。フランツェスカのウィンドウが目の前に来ても何も反応しないあたり、やはりこれは自分にしか見えていないのだとフランツェスカは確信した。

 それどころか、ベルタの左隣にも『ベルタ Lv.28』とのウィンドウがはっきりと見える。フランツェスカはジタバタするのを止めて、ひとまずベッドの天蓋を見上げながら冷静に考え始めた。


「(たぶん、これはゲームでいうステータスウィンドウ……って代物ね。表示されてるのはやっぱり魔法のレベル……? 確かにレベルで表示されれば判りやすいのに、って願ったけど、なんで急にこんなものが出てきたのかしら……?)」


 急に動きを止めて宙を見上げ始めた主人が怖くなってきたのか、ベルタが涙声になり始めたのでフランツェスカはとりあえず起き上がった。説明を求めるベルタを適当にあしらいながら、大人しく朝の支度を始める。


「(とりあえず、ステータスウィンドウが見える人のレベルを片っ端から確認しましょう。あって不便なものではないし、純粋に興味も湧いてきたわ)」


 フランツェスカはベルタを引き連れて食堂までの道を歩く。挨拶してくる使用人たちは皆レベルが10~30までの間でバラバラだった。こんなにバラつきがあるのは何故か、と考えたフランツェスカは、レベルの差がある使用人を観察する。レベル10の洗濯(ランドリー)メイドとレベル30の執事を見比べて、ようやくあることに気付いた。


「(貴族出身の使用人はレベルが高い、平民出身の使用人はレベルが低い。なるほど、平民は生活魔法しか使わないものね)」


 執事や侍女のような上級使用人は、ほとんどが男爵家や子爵家といった下級貴族の出身である。彼等は学園を卒業してから使用人として就職した者ばかりなのだから、学園を卒業できる魔法レベルがあって当たり前だ。

 それに比べ学園に通わない平民出身の下級使用人は、魔力も低く生活魔法しか使わないのでレベルがなかなか上がらない。

 挨拶しただけなのにジロジロ見てしまったことで怯えてしまった洗濯メイドに謝ってから、フランツェスカは疑問が解けてスッキリした顔で意気揚々と歩いた。そんなフランツェスカの様子をずっと見ていたベルタが、ちょっと引いたような顔をしているのには気付かないことにする。


「(だとすると、お兄様や先生のレベルも気になるところね。早く魔法の勉強の時間にならないかしら)」


 魔法の天才と呼ばれるギルベルトと、その家庭教師をしているハインツ翁のレベルは気になるところだ。朝食のスープを流し込みながら、フランツェスカは今日の勉強時間をワクワクと待ちわびた。



 ◇◆◇



 午後、ギルベルトと共に魔法を学ぶ時間。

 フランツェスカは、ギルベルトの左隣に表示されている文字を二度見どころか三度見した。なんなら三度目は凝視してしまった。ギルベルトは、そんな妹の奇行を不安そうな表情で見ている。


「どうした、ツェスカ? そんな新種の魔物でも見たような顔をして」

「な、なんでも……ありませんわ……」


 フランツェスカが新種の魔物を見たような引き攣らせた顔をするのも無理はない。何故ならギルベルトの左隣のウィンドウには、白抜きの文字ではっきりとこう書かれていた。


『ギルベルト Lv.50』


「(レベル50って何ですの!? お兄様、わたくしの10倍くらい強いじゃない!)」


 魔法の勉強を始めて二週間のフランツェスカがレベル5なのはまだ自身でも理解できた。しかし、いくらもう三年は魔法の勉強をしているとはいえ、未だ11歳であるはずのギルベルトが学園卒業レベルを軽々と超えているのは何なのか。

 ちなみに家庭教師のハインツ翁のレベルは65だった。これはこれで王家が保有する魔導師団の団長レベルなのだが、ギルベルトの衝撃が強過ぎてフランツェスカは全く意識していなかったし、そもそもレベルにおける実力をまだ実感出来ていないのだった。


「お嬢様。ここ最近、座学で魔法の基礎を学んで頂きましたが、どうでしょうか? つまらないとお思いですかな?」

「えっ、あっ、いえ、そんな。ハインツ先生のお話はいつも面白いですもの、つまらなくなんてありませんわ」


 ギルベルトに意識を割き過ぎて、危うくハインツ翁の話を聞き逃すところだったフランツェスカは、なんとか彼の不安そうな顔を解消しようと首を横に振った。実際、ハインツ翁の座学は、所々で若い頃の自分の失敗談を面白おかしく話してくれたり、魔導師団長時代の大冒険を語ってくれたりするので飽きたことがない。

 自分の復習のつもりなのか、何故かフランツェスカと一緒に基礎の座学を受けているギルベルトも『その話はまだ聞いたことがない』と目を輝かせる場面もあった。


「ほっほっほ、ありがとうございます。しかし、毎回座学ばかりでは飽きてしまいますし、魔力の流し方も忘れてしまいますからな。今日は魔法の実践を中心に行っていこうかと」

「まぁ! それは楽しみですわ!」


 座学が嫌いなわけではないが、やはり実際に魔法を使えるとなると心が踊る。浮き足立つ妹を見て、ギルベルトは懐かしそうに頬を緩めた。


「懐かしいな。僕も初めて魔法の詠唱をした時のことを思い出す」

「そういえばお兄様は、魔法の勉強をする前から無自覚で魔法を使っていたと聞いています」

「僕も無自覚というか、それが魔法だと知らなかったんだ。昔の感覚はもう覚えていないが、普通に腕を動かす延長のつもりだったかもしれない」

「魔力の高い人間が無自覚で得意属性の魔法を使ってしまう……というような事例は過去にも報告はあります。しかし、坊っちゃまのように無自覚で10種の魔法を使い分けていたというような事例は初めてでしたなぁ」

「10種類とか、そういう区別もなかったんだけどな……」

「さ、さすがお兄様……」


 11歳でレベル50なだけあって、やはりとんでもない才能ということだけは分かった。自分と血が繋がった兄の途方もない才能を浴びせられるのは若干落ち込むものの、ギルベルトの近くからその鍛錬を見ていれば、効率的なレベル上げ方法を学べるかもしれない。フランツェスカはポジティブだった。


「(レベルはユーザーが上げていくものだったから、こうして自己鍛錬によるレベル上げを見るのは初めてだわ……でも、才能の違いはあれど条件は私も同じはず! 少しずつ自分を高めていきましょう!)」


 こうしてフランツェスカの本格的なレベル上げ作業――否、魔法の鍛錬が始まる。ギルベルトに協力してもらう予定の計画を実行するのには、まだ魔法の知識も何もかも足りないのだ。レベル5では心許ないにも程があることは、フランツェスカ自身がよくわかっていた。


 ちなみに、フランツェスカが得たウィンドウは、『チートスキル・ステータス表示』というものなのだが……本人がそのスキルを使いこなすようになれるのは、もう少し先の話だ。


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