受け継がれるもの
ラナは真剣な表情を浮かべ、そこに立っていた。
その手には刃物が握られている。
「──っ!」
有無を言わせぬスピードで、目の前のものを切り刻む。
次に取り出すは鉄の器。
釜の中から生している炎によって熱せられた鉄板の上にそれを置く。
ラナは器内の温度を上げるため油を垂らす。
油が蒸発しきったことを確認したら、先程切り刻んだものを焼く。
いい感じに焼き目がついてきたら塩胡椒をかけ、皿に盛り付る。
そしてラナは野菜炒めを完成させた。
「…まあまあかな?」と日頃から行っている自己評価してから、もくもくと野菜炒め食べる。
あの面談から3日、経っていた。
連絡は未だになし…
「やっぱりカタルシスの情報を面談言ったのが悪かったかな?」
──第4部隊カタルシス
そこは一般的に市民には明かされていないアンタレスの裏の部隊。
他の隊と違い情報が公開されていない理由は取り扱う事件が特殊であるから…と教えられた。
例の糸目の変恩人から。
「特殊ってどう特殊なんだろう?」
気まぐれでうちにやってくる変恩人に具体的なことを聞いても「それはカタルシスに入ってからそこの隊長から聞いてー」とはぐらかされてきた。
「まあいっか。
入隊が許可されたらわかること…だよね?
それに──」
──ザク
フォークで最後の一口を突き刺す。
皿にフォークが少し当たり独特の音が部屋を反響する。
「どうであれ──パパを殺した奴は私が殺すだけ」
皿の上には何もなくなっていた。
「ごちそうさまでした」そう言ったラナと同じタイミングで家のドアが叩かれた。
ドアを開けるとそこには黒髪短髪の男、端的に言うと──
「よう!嬢ちゃん」
カドマがいた。
「いや〜3日間連絡もなしに悪かったな」
「いえ、問題ありません」
ラナはカドマに家にあったお茶を出す。
それにカドマは「ありがとう」といい、一口お茶を飲んだ。
ラナもテーブルを挟んで反対側…この場合カドマの正面に座り、今回の本題に入った。
「──で、配属の件はどうなったのですか?」
「えらく直球に聞いてくるな」
「個々の問答に回り道なんて必要ないでしょう?」
そういい彼女もお茶を飲む。
その姿を見たカドマは「やっぱ嬢ちゃん面白ぇわ!」と笑っていた。
「わかった。
嬢ちゃんがその感じなら俺も結果から言わせてもらう」
彼の顔が真剣な表情になる。
「ラナ・クローバーは本日付けで第4部隊カタルシスの隊員だ」
「………」
「あれあんま喜ばないんだな?」
「喜んでますよ。
17年の人生で4番目ぐらいには…」
「4番か…もうちょい喜んでほしいな」
「なぜですか?」
「結構苦労したんだからな!
俺とヴィザとで上の老人ども黙らせるの」
当時のことでも思い出しているのだろうか?
彼は額に血管を浮かばせながら、そう答えた。
「……?」
その言葉に彼女は疑問を抱く。
「どうした?不思議そうな顔して…」
「長官のヴィザルトは説得するのは分かります。ですが…なぜあなたまで説得に?」
「言ってなかったか?
──俺がカタルシスの現隊長だ」
「………えっ」
ここ最近で1番驚いた。
「カドマさん…がですか?」
「そうだ…っておいおい配属決定のときよりいいリアクションとってじゃねぇよ!」
カドマによってテーブルが叩かれる。
その衝撃で少しお茶がこぼれる。
「すいません」
「まぁ、確かに俺は隊長って柄じゃねぇからな」
「いえそこではなく…」
「ん?」
「カタルシスの隊員だったところが…」
「そこかよ!」
再びテーブルを叩く。
その後、髪を掻きむしりかながらため息をもらした。
「俺がカタルシスへ入隊した理由は兎も角…
隊長になったした理由は嬢ちゃんと似たようなものだぞ」
彼女の眉が少し動く。
無表情は変わらないがその顔には真剣さが手にとれた。
「どういうことですか?」
「セト・クローバー。
これはカタルシスの前隊長の名だ。
──そしてお前の親父の名でもあるな?」
「………」
少しの沈黙の後、彼女は首を縦に振った。
「ヴィザルトから聞いたのですか?」
「あぁ、あの後クローバーって姓が気になってな。
…勝手に詮索して悪かったな」
「…いえ、問題ありません」
彼は立ち上がり、窓を開けポケットに入っていたタバコに火をつけた。
そして父のことを…第4部隊カタルシスの前隊長のことを語り出した。
「あの人はこのアンタレスの中で1番って言っていいほどに市民を守ることを考えていた。
その癖、罪人は緊急時以外殺さず償う機会を与えていた。
上の老人どもはそれを甘えだとか偽善とか言っていたが、俺はあの人の正義を誇りに思う。
お互いに惜しい人を失ったな」
「…はい」
開けていた窓から見える景色は曇っていた。
女々しい行為と知りながら、2人とも同じ人物との記憶を巡らせているのだろう。
その重苦しい空気を打ち破るように突如、家のドアが開かれた。
入ってきたのはまた彼であった。
「おじゃまするよ。
──って、なんだいこのどんよりした空間は?
2人とも酷い顔だし…笑顔が足りないよ。
え・が・お!」
「ヴィザルト?」「ヴィザ?」
2人の困惑を置き去りにし、いつもどうり道化師のような態度で登場する糸目の変恩人。
ラナとカドマの2人は目を合わせ、ため息をついた。
しかし、重苦しい空気は綺麗に消え去っていた。
「どうしたの?
いつもは手ぶらで来るのに、今日はそんな大きなケースまで持って…」
ラナが普段とは違う点を指摘する。
「そうそう!
君にカタルシス入隊祝いを渡しに来たんだ。
このケースの中身…というかケースごと君へのプレゼントさ!」
そう言ったヴィザルトの言葉によって思い出したのかカドマが「そういえばそんなこと言ってたな」と1人呟いていた。
「──で、その中身なんなんだよ」
「それはご本人に開けてもらわないとネ!」
「お前ほんと本部にいる時とキャラ変わるよな」
「あの紳士みたいなキャラ疲れるだよ。
──そんなことどうでもいいからラナ開けてご覧?」
そう言われラナそのケースを開けるするとそこには英雄譚に出てくる伝説の聖剣ような剣があった。
まだただの一般市民の彼女ではお目にかかることもできないであろう。
しかし、彼女はこの剣のことを知っていた。
「──!」
「おい!
ヴィザこれは──」
カドマも驚く中、ヴィザルトだけがこの剣について語り始めた。
「カタルシス前隊長セト・クローバーが、君の父上が所有していた剣…
──そして、感情を司るロスト・ウェポンだ」




