第一章8 「剣士認定試験第1試合」
流れゆく風。舞う砂埃。湧き上がる歓声。
「さぁ、次の試合です!炎属性の使い手、流川 火滅!」
その刹那、歓声がどこからともなく飛び交う。そして、時は来た――
「相対するは無属性の申し子、火野氷雅!!」
氷雅は砂埃舞う舞台へと歩みを進める。しかし、先ほどとは違うのは場の雰囲気だ。その場には歓声ではなく、淀めく声が次々と聞こえてくる。
「あ?無属性?おいおい、俺もかなり侮られたもんだなぁ!無属性なんて敵になんねぇだろ!さっさと魚釣りに転身して、そのつまらない人生を全うしな。」
その瞬間、その声に賛同するかのように歓声がバッと沸き起こる。だが、氷雅はそんなことでは屈しない。
「悪いな。お生憎、そう魚釣りで人生を終わらせたくないたちでね。お前に勝って、無事剣士へと上がらさせてもらうぜ。」
「ふんッ、気に入らないやつだ。」
そう言い合って、双方共に支給された木刀を手に持つ。
試合の勝敗は、敵が参ったというか、首元に寸止めするか、胴体の防具を破壊するかによって決まる。ルール上は攻撃を胴体に技を当ててもいいらしい。この場のスタッフに聞いたところ、剣士にもなっていない者の攻撃はこのくらいの防具で防げるものらしい。だから人は死なない、と言っていた。が、正直そんなの確証はない。
「では、Eブロック第1試合!」
その声に双方とも構えを取る。そして、
「――始め!!」
「最初はこっちから突っ込ませてもらうぜ!」
木刀を両手で左に構えたまま、勢いよく突っ込んでくる敵。この構えは横に来る。だからここはカウンターを食らわすが吉。よって、
「火龍の加護刀技、煉獄!!」
「息吹式刀技、赤薔薇!!」
敵の攻撃は横へと薙ぎ払う広範囲技。打った後にはその場が炎で埋め尽くされるという追加効果付き。対して、氷雅の放った赤薔薇という技は剣先の長さが技を放った直後に瞬間的に伸び、相手を穿つという技となっている。本来はこれは敵に向かって突っ込む際や距離が詰められない時に使うのだが、
「――縦にやれば、最強の防御になるんだよッ!!」
縦に技を放った瞬間、刀身が瞬時に伸び、横払いで飛んできた広範囲技を上手く跳ね返す。そして、相手が怯んだところを狙って。
「息吹式突撃技、花車!!」
瞬時に突撃技へと切り替えて、敵の胴体へ向かって剣先を中心に動体全体をぐるっと回しながら突進をする。ドリルのように中心に力を込めて放つ一撃。だが、
「火龍の加護刀技、炎天!!」
上に持ち上げるかのような下から上への素早い攻撃。だが、それは攻撃のために使われたのではなく、花車の剣先の位置を上へとずらすために使った攻撃だ。そして敵の思惑通り、攻撃の方向は上へと伸び、無効化される。
その隙を見て、敵は態勢を整えるために一時退避。後ろへと下がる。
「おっとっと、なかなかやるじゃないか。まさか息吹式を使ってくるとはなぁ。」
「お褒めの言葉、ありがとうね。だけど、俺は手加減をしないぜ。」
「ふっ、その意気込みは結構。だが、お前はその時点でもう俺には勝てない。なぜなら·····。」
その瞬間、敵は剣先を宙へと向ける。そして、敵が放った一言。それは――
「火龍の加護特殊技、炎炎!!」
氷雅が上を見上げたその刹那、なんと空から大量の火の玉が会場を目掛けて降ってくるのが見えた。だが、玉の動きは遅い。これならば、
「息吹式刀技、向日葵!!」
頭上で刀を回転させ、上からの攻撃を無事防いだ氷雅。本来は刀を回転させたまま攻撃を行うのだが、こういった防御にも使えるところが向日葵の強いところだ。
「さすがにそれは防げるか·····。だが、お前はもう終わりだ。なぜなら、周りに植物が消えたからなぁ!!」
「――!?」
恐れていた事態が起こった。炎属性との対面で一番恐れていたのが、植物の燃焼だ。会場には少なくとも植物があちらこちらに配置されている。息吹式は植物が周りにあればあるほど強さを増すので、それがなくなってしまった今、絶望でしかない。
「はっはっはっは!!これでお前は俺の攻撃すらも流せまい!降参してもいいんだぞ?俺も弱いものいじめはしたくないからなぁ。アッハッハ!!」
――だが、
「お前は何かを見誤っている。」
「ア?何が見誤っているんだよ。だって植物は消えたじゃないか。それのとこが·····。」
「ふふっ、甘いな。では問題、俺たちは何製の刀を持っているでしょうか?」
「そりゃあ木刀だから、木に決まってんだろ。それのどこが·····ってもしや、」
「そういう事だ!」
その刹那、氷雅は勢いよく突進をし、火滅に向かって椿を繰り出す。余裕をこいていた火滅が避けられるはずもなく、攻撃を動体へともろに受ける。が、胴体の防具は破壊されない。だが、ここからだ。
「余裕をこいて、時間を持て余した過去の自分を恨むことだな!食らえぃ!」
剣全体が黄緑色に光り輝く。そして、
「――息吹式秘奥義!穿ち咲け、ハナビ!!」
突進技よりも早いスピードで敵の胴体に刀を突き刺す。その刹那、黄緑色の閃光が敵のからだを貫き通し、
「はぁぁああ!!」
その直後、閃光に乗って見えないスピードで体を貫通。貫通した敵の胴体には綺麗な緑色の花が大きく咲き、そして、爆発的に、散る。
「おおーっと!!これは秘奥義が炸裂したぁ!!火滅選手、これは一溜りもないでしょう!さぁ、胴体はいかに!!」
巻き起こった煙と砂埃に巻き込まれた敵が、数秒のときを得てその場にあらわになる。そして、そこに映った敵の胴体には――
「防具が、ありません!!よって勝者は火野氷雅!!これはすごいぞー!!」
その刹那、歓声がザッと巻き起こる。これほどにもない熱気だ。その歓声を耳に挟み、無事勝ったのだということをその時知る。だが、
「·····さすがにこれは·····刺さる、な。」
氷雅はその場で刀を地面に突き刺しながら、崩れ去るようにその場で倒れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「·····大丈夫か?」
目覚めた時、その目に最初に映ったのは他でもない逸星の姿だ。周りを見渡してみると、どうやら自分はホテルのベットにいることを周りの風景から読み取れる。
「あれから倒れちゃったのか。はぁ、情けない。」
「いや、氷雅は凄かったよ。なにせ、属性ありの七龍族に勝ったんだもん。あれは凄かったよ。」
着物姿の逸星は珍しく、落ち着いた口調で氷雅についての評価を行う。
あれに勝てたことは自分でもすごいということがわかる。なにせ、今まで軽蔑されてきた無属性が下克上を果たしたのだから。きっとこの街の人も無属性に対する印象ががらりと変わったであろう。だが、
「それではダメだ。こんなことで倒れてちゃ、あいつを倒すことは、できない。」
「いいじゃないか!今は勝てただけで十分な成果だよ。誰を倒したいのか、僕は深くは聞かないけど、とりあえず今はいいよ。」
氷雅をまるで安心させるように言葉をかける逸星。
「そういえば、逸星は土属性との戦いは勝ったのか?」
「あぁ、もちろん。流星の如く、速さで相手を錯乱させて勝ったよ。また流星が無双属性だなんていう話題がたちそうな勝ち方だったけどね。」
「そうか。それは良かった。」
無事、二人で第一試合を突破できたことに安心する氷雅。残るはあと2試合だ。
「明日も朝早い。しかも氷雅は秘奥義を使っている。早く寝たほうがいいよ。」
「あぁ、そうさせてもらう。わるいが、もし寝坊しそうになっていたら起こしてな。」
「あぁ!任せてくれ!」
その頼もしい声を聞いた瞬間、氷雅は闇の底へと落ちるように、深い深い眠りについた。