11:カタコンベ②
周囲にいた死体の魔物―――アンデッドが一斉に襲い掛かってくる。その数5体。
内1体は先ほどぶん殴ったやつで、まだ地面に倒れてもがいている。その後ろから来ようとしていたやつはそれに突っかかっており、もう少しかかるだろう。
接近しているのは左右と後ろの3体。ひとまず数を減らそうと数を減らそうと簡単な術式の魔術を構築しようとして―――
「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!」
「!チッ!」
距離が近すぎたせいか発動前に襲い掛かってきた。舌打ちしながら後ろにいたやつに向き直り、突き出された腕を取り、位置を入れ替えながら合気道の要領で投げる。左右から襲い掛かってきていたやつらはいきなり私がいなくなったためぶつかり合っていて、そこに向かって投げつけたものだから倒れた上にお互いが邪魔になって立ち上がれていない。
今のうちに距離を取って魔術を使用しようとバックステップで後退して―――
「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!」
「はぁっ?!いったいどこからっ、出てきたってのよっ?!」
何もいなかったはずの後ろから奇襲された。
この場所は四角い広間になっていて、四方に通路が伸びているほかは壁と天井に囲まれていて通れる隙間なんてない。ぽつぽつと照明の魔道具が設置されている以外は光源はなく、その光量も弱いため薄暗くて見づらいが、少なくともこの広間くらいは見通せるくらいの明るさになっている。
私はその壁に向かって後退していたが、後ろを向く前に見たときは何もいなかったのは確認している。
いきなり背後から襲われて驚いたものの、叫び声(呻き声?)が聞こえたため何とか直撃を食らう前に反応し、攻撃を躱して転倒させる。そのまま追撃を―――
「!チィッ!そういうことか!」
中断して壁から離れる。
そこには壁―――に据え付けられた棺から出てくるミイラの姿があった。見れば周囲の壁からもどんどんと出てきているし、通路の向こうからも奴らの叫び声が聞こえる。
暗かったせいで棺があるのに全く気付いてなかった。
けれどこれでこの場所がどこか予想がついた。光が入らない場所にある大量の棺、おそらくは地下墓地、カタコンベだろう。ここに来る直前に読んだ呪文にも深い場所って書いてあったし。
とはいえそれがわかっても今はどうしようもない。
殴りかかってきたミイラの腕を取って投げ飛ばし、できた隙間に身を置くことで同時に攻撃されるのを避けながら近くにいたゾンビを投げて再度隙間を作る。それを幾度か繰り返し多少余裕ができたところで一度呼吸を整える。
玲奈は家の方針もあって昔からいろいろな習い事をやっていて、幼馴染の私もそれに付き合って教えてもらったことがある。あんなでも玲奈はかなり器用で大体のことはそれなり以上にこなしてしまうのだが、私はそこまで上手くできず、あまり興味を持てなかったのもあってすぐにやめてしまった。
けれど一つだけ、私が熱中して打ち込んだものがある
それが合気道などの無手の武術だ。
生憎と道場の方は性に合わなくてやめてしまったものの、今でもトレーニングは続けているし、たまに学校の部活に出入りさせてもらったり、玲奈と稽古することもあるのでほとんど我流にはなってしまっているが技自体は鈍っていない。
幸いにもそれがここで活きているのが、未だにやられずに済んでいる理由だ。
それがなければもうとっくに死に戻っていただろう。
とはいえ、あくまで攻撃を捌いているだけなので与えているダメージは本当に微々たるものだ。スケルトンはまだ脆そうなので投げた時の衝撃が多少は効いてように見えるが、逆にゾンビやミイラは思いっきり投げても全く効いているように見えない。ほんの一瞬触れた程度ではドレインタッチでの吸収もほとんどできないし、そもそもこいつらからは吸収できている感じがほとんどしないのでドレインタッチに期待はできないだろう。
であれば魔術による攻撃で削っていきたいところだが、先ほどから魔術を使用したくてもそれをやる隙がない。
とすれば逃げるしかないが、残念ながら私の足の速さはこいつらとほとんど変わらない。
魔術もダメ、逃げるのもダメ、唯一可能な投げ技では碌にダメージが入らない。これでスキルでもあれば多少はダメージが入るのに―――と考えたところで取得を考えていたスキルの存在を思い出した。
スキル『魔術』。取得前なので詳細は分からないが、おそらく魔術の行使に関するサポートだろう。
先ほどから術式を構築しようとするたびに攻撃で中断させられているが、発動できればダメージソースとして十分期待できる。というよりそれ以外に火力がないのでもうそれにかけるしかないのだが。
そのためにもスキルを取得したいのだが―――
「こいっ、つらをっ、捌きながらじゃぁっ!」
ステータスウインドウを操作している隙がない。
スキルの取得は、スキルがアンロックされてポップアップが表示された時なら即座に取得できる。だけどそれ以外ではステータスウインドウを開き、取得したいスキルを選択し操作しなくてはいけない。
ステータスウインドウを開くだけなら問題ない。イメージするだけで開けるからだ。目の前に展開するので視界がふさがれるが、それもイメージすれば邪魔にならない位置に移動させることができる。
だがこの乱戦の中で無数の取得可能スキルの中からたった一つを探し出して選択、操作するのは不可能だ。目まぐるしく動き回る中では視点を一か所に定めている暇すらない。
ほかに入力方法なんてないし―――と思ったところで、
「そうだっ、音声入力っ!ステータスウインドウ展開っ!スキル『魔術』取得っ!」
ステータスウインドウは音声入力によって操作できる。本来はイメージによる操作が苦手な人向けの機能なのだろうが、いちいち確認している暇がないこの状況ではこのためにあるんじゃないかとさえ思ってしまう。
ポップアップに一瞬だけ視線を向けて取得できているのを確認し、攻撃が緩むタイミングを見計らって距離を取る。
強引に距離を取ったせいで体制が崩れるのをそのままに、術式を構築しながら転がってさらに距離を取る。
ある程度距離が離れたところで体を起こし構築完了した魔術を解き放った。
「ファイアウォール!」
ウォール系の魔法は自身の前方に横一直線に各属性の壁を発生させるものだ。
だけどこの術式を改造した魔術は私の周りをぐるっと囲むように展開し、奴らとの間を阻んで近づけさせない。
スキルの効果を改めて確認し、奴らに向き直って術式の構築を開始した。
「さぁて、反撃開始と行きますかっ!」




