10:カタコンベ①
目の前のゾンビが掴みかかってくるのを、腕を取ってバランスを崩す。その勢いで横から迫ってきていたミイラに投げつけて、できた隙間に体を入れて隣に来たゾンビの後頭部を裏拳でフルスイング。勢いを殺さず一回転して状況確認しつつ目の前のスケルトンにカウンター気味に掌底を食らわせる。反作用で目の前に突き出された頭蓋骨を掴み、勢いのままに頭蓋骨を死骸の群れに投げつける。ドミノ倒しになる死体どもを確認する暇もなく、振り向きざまに肘打ち!裏拳!正拳!のコンボで近寄ってきていたミイラを後ろの群れごと大きく吹き飛ばす。
ようやくできた死体の壁の切れ目を走り抜けて―――
「うげっ、またかぁ…。」
通路の向こうから死体の群れの追加が来るのを見て顔をゆがめる。
移動速度が遅いうえまだ距離があるのを確認し、先に後ろの集団を処理するべく振り向きながら構築していた術式を解き放った。
「ライトウォール!」
光の壁を展開する魔術は、術式の改造により前方にのみ強烈な光を放つ。
その光に触れて崩壊する群れを背にして、こちらに向かってくるアンデッドどもに対処するため術式を構築していく。
先頭との距離が5メートルを切ったあたりで魔術を発動した。
「ファイアウェイブ!」
本来なら放射状に展開するだけの炎の波は、通路に沿って直進し前方10メートルの範囲を燃やし続ける。
後続に押されてどんどんと炎に突っ込んで燃えていくアンデッドたちを眺め、最後の1体が燃え尽きてほかに動いているのがいないのを確認した後、
「っはぁー、疲れたぁー。」
大きく息を吐いてその場に座り込んだ。
どっと疲れが出てきてしばらくこうしていたい気持ちになるが、さすがに周りに死骸が散乱している状況で休みたくはないし、そもそもいつどこから敵が出てくるかわからない場所にいつまでも座っているわけにもいかない。
疲れた体に鞭打って立ち上がり、死骸に剥ぎ取りナイフを突き刺しながら頭によぎるのは、このダンジョン、カタコンベに転送された時のことだった。
~ ~ ~ ~ ~
光に包まれて目を閉じたら、次の瞬間全く違う場所にいて周囲を腐った死体やミイラ化した死体、動く骨に囲まれていた。
正直あまりに混乱しすぎてつい『あ…ありのまま今起こったことを話すぜ!』とか言いそうになってしまった。
あれは父の持っていた漫画を読ませてもらったのだが、結構前の漫画なのにかなり面白かった。昔は写真を撮るときはよくあの独特なポーズを真似しようとしたっけ。中学の時みんなに見せたらみんなハマっちゃって仲間内でプチブームになってたし。そういえば颯希の性格がが銀の人に似てるって話になったこともあったっけ。あれ颯希結構ノリノリだったなぁ。私は緑の人がお気に入りであんな風にクールでクレバーな感じになりたいって思ってたんだよねぇ。そういえば―――
「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!」
「ぎゃああああああぁ!」
「ヴア゛ッ!?」
あまりの状況に混乱しすぎて旅立ちかけていた私の意識を現実に戻したのは、いきなり目の前に現れた腐った死体の顔とその叫び声だった。
驚きのあまりつい思いっきりぶん殴ってしまったが、それは仕方がないだろう。当然の反応だ。
肩を上下させて荒くなった息を整えながらぶん殴った相手を見る。
何度見ても腐った死体にしか見えず、その頭上に表示されているマーカーもエネミーを示すものだ。
このゲームではプレイヤーと住民などの友好NPC、魔物などのエネミーを識別するため相手を注視するとその頭上にマーカーが表示されるようになっている。
ちなみに識別を取得することで注視しなくてもマーカーが表示されたり、PKや犯罪をしているプレイヤーは表示色が変わって一発でわかるようになっているらしい。
ひとまずNPCを殴ったのではないことに安堵していると、周囲にいた死体たちが全員こちらを見ていることに気づいた。
ああ、そういえばこいつら魔物だったっけ、なんて背中に嫌な汗が流れるのを感じながら思い浮かべて、
『ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛!』
次の瞬間一斉に襲い掛かってきた。




