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喚ばれた先で、最初に見えたのはバグだった  作者: 忘却セミコロン


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3/3

綺麗な魔法


石壁に染み込んだ湿気が、冷たく肌にまとわりついていた。




つかさは細く息を吐き、窓辺へ視線を向ける。




鉄格子はない。


だが、窓の外には白い石壁が近接しており、人が通れる隙間はなかった。




古い客人用の部屋——そんな体裁だけは整っている。




最低限の寝台。


机。


水差し。




そして扉には、淡く青白い光が規則正しく脈打っていた。


(監禁というより、アクセス制御か……)




司は扉へ歩み寄る。


視界に、青い文字列が浮かび上がった。




lock guest_room_west_03 {

restrict movement()

notify guard_on_access()

allow royal_permission()

}


(移動制限と監視通知……簡易的なアクセス制御か)




「雑ではないな……」


少なくとも地下牢へ放り込む気はないらしい。




聖女の父として、最低限の体面は保つ。


だが自由は与えない。


そんな計算が透けて見えた。




司は小さく舌打ちし、額へ手を当てる。




——知結ちゆ


昨夜から、一度も顔を見ていない。




暴走した術式の混乱のあと、騎士たちに囲まれ、そのまま引き離された。


泣きそうな顔で何かを叫んでいたが、最後までは聞き取れなかった。




胸の奥が、鈍く軋む。




その時。


廊下の奥から、規則正しい足音が近づいてきた。




司はゆっくりと顔を上げる。




扉の術式が淡く明滅した。




「失礼します」


入ってきたのは、あの少年魔導士だった。




「……君か」




「テオドールと申します。魔法の研究と開発をしている、この城の魔導士です」


テオドールは胸に手を当て、丁寧に頭を下げた。




神谷(かみや)つかさだ。ツカサでいい」


「では、ツカサ様」




まっすぐに司を見つめる瞳。


まだ幼さの残る顔立ち。




だが、その目だけが異様なほど鋭かった。




「テオドール。知結は今、どうしてる?」


「……チユ様は、水以外ほとんど召し上がっていません。あなたを解放してほしいと、おっしゃっています」




司は息を呑んだ。




娘の小さな抵抗。


守ってやれない自分が、腹立たしくてならない。




「申し訳ありません……勝手に喚んでおいて」




テオドールは突然その場に両膝をつき、深く項垂れた。


両手を固く組み、強く握りしめられている。


まるで懺悔するように。




知結とそう変わらない年齢の子に、司は強く出る気になれなかった。




苦々しく息を吐く。




「立ってくれ。そんなことは今どうでもいい」




テオドールの肩が小さく震えた。


組まれた手に力がこもり、爪が深く食い込む。




「……チユ様は、次の魔族襲撃に備えて、修練を受けることになります」




予想通りの答えだった。


驚きはない。


だが、許せる話でもなかった。




「知結はまだ十三だ」


「……はい」




「俺たちの世界じゃ、子どもが戦う前提で育ったりしない」


「……そう、なのですね」




司はテオドールの前で屈み、目線を合わせた。




「文化が違いすぎるんだ。あの子に戦場で何かに対応できるとは、俺は思えない」


「……っ」




説得役として来たのか。


——あるいは、自分の意思か。




どちらにせよ、人質のような脅しを使わないだけ、この少年の感覚はまともだった。




目を伏せ、必死に考え込むテオドールへ、司は前から気になっていたことを口にする。




「なぁ、テオドール。君の魔法は、他と違うね」


弾かれたように、テオドールが顔を上げた。




「この部屋の術式も、君が作ったのか?」


テオドールは言葉に詰まり、曖昧に頷く。




「召喚の陣は継ぎ接ぎだらけだった。王の魔法も欠陥品だ」




テオドールの目が大きく見開かれる。




そんな反応を気にも留めず、司は魔法のログを思い返すように目を閉じた。




「でも、君の魔法は違った」




司はゆっくりと目を開く。




「とても構造が綺麗だった。よい開発者だな」




テオドールの肩が、小さく、だが確かに揺れた。




「あなたは——」




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