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喚ばれた先で、最初に見えたのはバグだった  作者: 忘却セミコロン


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1/3

召喚術式


床石の冷たさが、意識をゆっくりと引き上げる。




(……ここは?)


つかさは重い瞼を開いた。




高い天井。

見たこともない紋様が幾重にも刻まれ、淡い光を脈打たせている。




その光は、壁や床を這うようにゆっくりと広がっていた。




「……ぅ」


かすかな呻き声。


司は弾かれたように振り向いた。




隣に倒れていた娘――知結ちゆを、無意識に抱き寄せる。




細い肩に触れる。呼吸はある。




司は小さく息を吐き、彼女を庇うように身を起こした。




周囲を見渡す。




紺色のフードを纏った者たちが、杖を握ったまま何人も倒れ伏していた。



その外側を囲むように、白い神官服の集団が立っている。




誰もがこちらを見ていた。




(何か話してる……が、言葉が——)




「——の召喚は成功した。だが、隣の男は何だ?」


「鑑定結果が……出ません」


「壊れたのか?」


「いえ、何度試しても——」




突然、音の輪郭が意味を結び始めた。


まるで壊れたラジオに、急に周波数が合ったように。




同時に、視界がぐらりと歪む。




天井を流れていた淡い光が、見慣れた文字列へと組み変わっていった。


system summon_legacy_final_v13_fix2 {

// temporary patch

bypass consent_check


open_gate()

}




「……は?」


司の喉から、乾いた声が漏れた。




なんだ、このクソみたいなコードは。




「……パパ?」




腕の中で、知結がゆっくりと目を開ける。




不安げに周囲を見回し、小さく司の服を掴んだ。




「大丈夫だ」


反射的にそう答えながらも、司の視線は天井から離れない。




「おお、聖女! 目覚められたか!」




硬質な靴音を響かせ、一人の青年が近づいてくる。




長い金髪を後ろで結い上げた、美しい男だった。

豪奢な衣装は王族か貴族を思わせる。




磨き上げられた笑顔。




だが司には、その表情が妙に空虚に見えた。




「……聖女?」


知結が眉を寄せる。




青年はその困惑すら意に介さず、優雅な動作で片膝をついた。




「私はレグナード。この国の王です。」




そして彼女へ向け、恭しく右手を差し出す。




「聖女。あなたが神に喚ばれ、この地に降臨されるのを待ち侘びていました」


穏やかで、よく通る声。




だがその響きは、どこか作り物めいていた。




「どうかその力で、我々をお救いくださいませんか?」




「えっ……私? ええっ!?」


知結の戸惑った声が神殿に響く。




その背後で、司は再び天井を見上げていた。




壁や床を流れる光。

脈打つ文字列。




食い入るように、それを追う。




「……なぁ、知結」




「え?」




「あの光、何に見える?」




知結はレグナードを警戒しながら、恐る恐る天井を見上げた。




「何って……魔法陣みたいな模様?」


「文字には見えないか」




「文字?……見えないかな。」




どうやら知結には、ただの魔法陣にしか見えていないらしい。


だが司には違った。




if mana < 1000 {

siphon surrounding_life()

}


周囲の生命力を吸収——




その文言に、司の背筋が冷たくなる。




さらに、その下。




// temporary patch

bypass consent_check


同意確認をスキップ。




術式の裏側に、汚れたログが見える。




継ぎ足しだらけの構造。

場当たり的な修正。

何度も延命を繰り返したシステム特有の腐臭。




司には、それが痛いほど分かった。


職業柄、嫌というほど見てきたからだ。




「聖女よ。どうか我々を救ってください」


レグナードは穏やかな笑みを崩さないまま続ける。




「それこそが、あなたがこの世界へ喚ばれた理由なのですから」




知結が不安そうに司を見上げる。




司は娘を庇うように、一歩前へ出た。




そして、レグナードを真っ直ぐ見据える。




「喚んだんじゃない」




低い声だった。


だが、その一言で神殿の空気が凍りつく。




「攫ったんだろう——お前らは」




司の目が、冷たく細められた。




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