失意
アン・スミスの退院後をサポートしているシェルターでは、職を得る前に身体を元の状態に戻す必要があると、リハビリに力を入れている。
「アン・スミスですが、意欲を感じられません。」
「今はゆっくり時間を掛けて失った時間を取り戻す時でしょう。
何と言っても目覚めたら5年も経っていたのですからね。
急がせてはいけません。」
「はい。」
両親を安心させるために入ったシェルターだった。
今は何をしたらよいのか分からなかった。
ここを早く出たいと思っているのだが、リハビリする気力を失ったままだった。
その状態は両親に伝えられた。
両親は娘の元上司に頼み込んだ。
「どうか未来があると思わせてやって下さい。仕事を紹介して頂けませんか?」と……恥を忍んで頼んだ。
両親の想いを受けたボスがシェルターにやって来た。
「アン……退院して大丈夫なの?」
「ありがとうございます。
入院が長引くと支払えませんから………。」
「入院費のこと? 心配しなくても良かったのに。
私が払うのに………。」
「そんなことお願い出来ません。
もう部下ではありませんから………。」
「そんな寂しいこと言わないで頂戴。」
「事実ですから。」
「アン………貴女は優秀な人よ。
体さえ元に戻れば、貴女を欲しがる人はいっぱい居るわ。」
「………ありがとうございます。
ところで、今日は……もしかしたら父か母が頼みました?
何かを………。」
「あ………あのね、アン。」
「頼んだんですね。仕事ですか? 頼んだのは………。」
「あ……………そうよ、そうなの。
でもね、私は貴女が充分に回復したら紹介するつもりだったの。
少し早くなっただけなのよ。」
「両親の想いを叶えて下さり誠にありがとうございます。」
「じゃあ! その方に会うのね。」
「いいえ、御心だけ受け取らせて頂きます。」
「アン! どうして…………どうしてなの?」
「私………もう……無理だと思うのです。
5年も居ないと同じだったので、世界は大きく様変わりしてました。
戦争も複数の場所で起きてます。
事故の前は無かったのに………。
世界から取り残されてたんだと実感しています。
だから、もう私は………無理だと思います。」
「アン………そんなこと言わないで頂戴。
貴女なら出来るわ。直ぐに取り戻せる。」
「申し訳ございません。もう心が折れてしまっています。
全てを失って………両親の愛だけはそのままで…………。
それを感謝しないといけないと分かってはいるのですが………。
失った事実が………これ以上失いたくないと思うようになりました。
何かしたら繋がりが増えて、またそれを失う。
もう、そんなことは経験したくありません。
申し訳ございません。お帰り下さい。
両親には私から伝えておきます。
もう、こんなことをお願いしないように。」
「アン…………失ったかもしれないわ。
でも、また全てを失う訳じゃない。
お願い。何かあったら私を頼って頂戴。
私が居ること、忘れないで!………ねっ!」
弱弱しい笑みを向けたけれども私は「はい。」と返事をしなかった。
その時、もう一人、アンを訪ねて来た。
ボスはまだ傍に居た。
「アン・スミスさんですね。」
「はい、」
見覚えがある。
あの日、リアムの笑みも口づけも受けていた美しい人………。
「私に何か?」
声が震えていた。
その声の震えと身体の震えを見たボスは私の傍から離れなかった。
「私、リアムの妻です。
初めまして。」
「………初めまして。」
ボスはリアムの妻と聞いて眉をひそめた。
「お願いがあって来ました。」
「あの! どうして、ここが分かったんですか?」
「ご両親に聞きました。 電話したんです。
いけませんでした?」
「いいえ、そんなことはありません。」
「あの……リアムってアンの彼氏だったリアムですか?」
「ええ、そうですけど、貴女は?」
「私はアンの上司です。」
「だったら、関係ありませんね。
口を挟まないで下さい。」
「………分かりました。」
「あの……もうお帰り頂いても………。」
「アン、ごめんなさい。傍に居させて!」
「そっちで勝手に話さないで下さい。
私の話が先です。」
「はい、伺います。」
「5年ですよ。
5年も意識が無くて目が覚めたからと言って何故リアムに会うんですか!
迷惑です。
私が居たからリアムは生活出来たんです。
全て私が支えたからです。
貴女は何にもしていない!
だから、二度とリアムに連絡しないで頂戴!
第一、私とリアムの方が先に出逢ってるんですよ。
貴女が私からリアムを奪ったんです。」
「あの、奪ったってどういう意味ですか?
恋人同士だったんですか?」
「恋人じゃなかったけど……私は愛してたのよ。
それのに……リアムは貴女と同棲した。
許せないわ!」
「……………。」⦅訳が分かんない。⦆
「私からリアムをもう奪わせない!
いいこと! 二度とリアムの前に現れないで頂戴!」
言いたいことを言ってリアムの妻は帰って行った。
「何なの? あれは………。
あんなのが良かったの?
リアムってアンの恋人だった時、目が高いと思ったのに!
あんなのと結婚したの?
眼が高いと思ってたけど……撤回だわ。
…………アン、大丈夫?」
「済みません。部屋で休みます。」
「そうね、その方がいいわ。」
私は部屋のベッドに倒れ込み、泣いた。
泣き疲れるまで泣いた。




