摩天楼
摩天楼……の言葉がぴったりなニューヨーク!
そこで、私はCEOの秘書をしている。
仕事は大好きだ。
責任ある仕事、自分が関わって無事に終えた商談、失いたくない仕事。
ボスは若い?
いいえ、グレーヘアの素敵な女性よ。
この女性の元で、ず~~~~っと働きたいわ。
プライベート?
勿論、順調よ。
恋もしてるわよ。
恋人とは一緒に暮らしてるわ。
毎日が充実してて、私の人生は幸せ!
そう……凄く幸せな人生♪
今日も恋人と私はレストランで夕食を摂っている。
美味しいフルコースに舌鼓を打ちながら、店から見えるクリスマスの景色を楽しんでいる。
店のキャンドルがガラスに映って、揺らめく炎がとても綺麗だった。
綺麗だった……。
ガラスが割れる音、人の悲鳴、物がぶつかる音etc.
そこら中にぶつかって壊れて店に突入した車が目の前だった。
急に目の前に現れたのだ。
全身に激痛が走り、急に目の前が真っ暗になった。
それから、目が覚めた。
「おいっ! 起きろ!」
大声で起こされて私は目が覚めた。
「早く来い!」
乱暴に私を引っ張り出す男。
⦅あれっ? 服が……映画みたい……。⦆
引き摺られるように連れて行かれる私。
「何をするの! 止めてよ!」
「口を利くな! 早く歩け!」
「おいっ、こいつ一応ウージンゲン公夫人だからよ。
もうちょっと…………。」
「それが何だと言うんだ。」
「ま、それもそうか。」
より一層、乱暴に引き摺られた。
足が痛い。
足元を見ると、古めかしいロングドレスから出ている足は裸足だった。
⦅えっ? 靴は?
こんなロングドレス……私のじゃない……。
何? ここは、何処なの?⦆
引き摺られて私は青空の元へ……。
暗い中から出て来て、少し視界がぼやけた。
その視界は直ぐに明るく開くように周囲が見えた。
視線の先には斧を持った男が居た。
その男のもっと先には、見知らぬ高貴な衣服を纏った男女が居た。
⦅王様と王妃様かしら?
え………ニューヨークじゃないの?
ここは、何処?⦆
知らない場所に連れて来られて、何かが起こることだけは分かった。
それも、良くないことが………。
「テレーゼ! 其方を死罪に処する。」
「え? テレーゼって誰よ?」
「何を言う! 其方はテレーゼ!」
「ええええええ! 違う! 違います。私の名前はアン・スミスよ。」
「其方、気が狂うたか………。」
「お可哀想に……正気ではこの場に居れませんもの……。」
「正気でなくとも刑は執行する。」
「止めてぇ―――っ! 人違いなのに……処刑するのですか?
そんな野蛮なこと……許されないわ!」
「テレーゼ様に鏡を! 鏡を見て頂くことをお許しくださいませ。」
「許す。早う、鏡を!」
急ぎ持って来られた鏡は……。
「これが、鏡ですって?」
「そうですよ。毎日御覧になられてたテレーゼ様の鏡。
ほうら、ご覧あそばせ。
お顔をご覧あそばしませ。」
⦅こんな鏡……丸くて凸レンズみたいな鏡、見たこと無いわ。⦆
私が知っている鏡とは大違いの鏡に映った顔を見た。
「私じゃない……私じゃないわ……誰よコレ! この人、誰?」
理解出来なかった。
映っている顔は私―アン・スミスの顔ではなかった。
「私じゃない! 私の名はアン・スミス!
ニューヨークで秘書をしてるアン・スミスよ。
テレーゼじゃないわ!」
幾ら叫んでも、誰も私の言葉を信じてくれない。
暗い部屋から私を連れて来た男が、そのまま私を引き摺って斧を持つ男の前に差し出した。
男達に跪かせられて、私の首を台に置くよう押さえつけられた。
それからは……周囲の怒号が耳に入った。
何故だか見えた顔がある。
それは、王様と王妃様のような姿の男女だった。
誰か分からないが、私を殺すのだ。
激しい痛みが首を貫き、全身に及ぶ。
何度も何度も、首に斧が振り下ろされる。
痛みが激し過ぎて、私は気を失った。
⦅なんで、こんな目に遭わないといけないの……。
帰りたい。
ニューヨークに帰りたい。
リアムに会いたい。愛してるわ……リアム。
CEO、戻るまで待ってて下さい。まだ、仕事が残ってる。
あぁ………摩天楼のあの景色をもう一度……この目にしたい。⦆
それが最後の私の望みだった。




