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生まれつきの本好きは

私が小説版『貴方を最後まで追いかける』に出会ったのは、小学四年生の頃だった。


当時、私の住んでいた町は驚くほどの田舎で、大きな図書館もなく、本を読める場所といえば学校の図書室くらいしかなかった。


もともと外で遊ぶよりも本を読むのが好きだった私は、小学四年生になる頃には図書室の本をほとんど読み尽くしてしまっていた。


そんな私に転機が訪れたのは、自分専用の携帯電話を与えられたときだった。


携帯で調べ物をしている時、偶然出会った小説投稿サイト。


それが全ての始まりだった。


初めは興味本位で開いたサイトだった。しかしそのサイトには田舎の古い図書室にはないような物語ばかりが詰め込まれており、気づけばランキングに載っている小説は全て読み終えていた。


そこから先は早かった。人気順で読み漁り、読み尽くせば新着順へ。まだ評価もされていない作品まで手を伸ばし、子供ながらに、その時期の人気作を開拓する廃人ユーザーへと変わっていた。



そして、そんな生活の中で出会ったのが小説版『貴方を最後まで追いかける』だった。



その物語は、通称に違わず、主人公が決して“報われない”読む人を選ぶようなキツイ物語だった。


主人公は表向きこそ誠実で温和だが、本性は冷酷で、人を「自分にとって利か否か」でしか判断せず、自分以外の一切を信じない疑心暗鬼の塊。


苦楽を共にした仲間たちは長期間主人公と接することでその本性に気づき、仲違いの末離れてしまう。

そして主人公が自分の過ちを自覚したときには、すでに彼らは死んでいる。


更生の機会すら与えられない、徹底した絶望がその小説にはあった。


その後に待つのは、後悔に突き動かされた自暴自棄で徹底的な復讐劇。

 

鬱屈とした展開の中で積み重なる苦しみ。

その果てに訪れる生産性のない無双と蹂躙。


救いがない。

けれど、だからこそ美しかった。


どうしようもない苦しさと悲しみ。

そして意志や意義のない無価値で爽快的な破壊。


そのすべてが、当時の私の心に深く突き刺さった。


私はこの作品を完結まで何年も追い続けた。


連載初期、十話あたりまでは新着ブーストもあり、数十人ほどの読者がいた。だが、主人公が報われない展開に嫌気がさしたのか、閲覧数は次第に減り、五十話あたりまで残っていた読者も結局、数行のアンチコメントを残して二度と戻ってこなかった。


やがて百話を超える頃には新規読者も現れなくなり、気づけば読者は、ほとんど私一人のような状態になっていた。


作者もそれに耐えられなかったのか、更新頻度は徐々に落ちていった。


大好きな作品がこのまま終わるなんて耐えられなかった私は拙い文ながらも何度も励ましのコメントを作者に送った。


そして最後には必ず「諦めないで欲しい」と一言添えて。


しかしそれからも閲覧者は私以外に増えることはなく、打ち切りも覚悟していたところに、作者から返信が届いた。



「いつも応援ありがとうございます。これからは貴方のためだけに執筆する気持ちで投稿していこうと思います」



その一文を読んだときの高揚は、言葉では言い表せない。

ファンのいない創作がどれほど過酷か想像に難くない。

それでも作者、いや七転先生は、たった一人の読者()のために筆を置くことなく、物語を書き続けてくれたのだ。


次の更新が待ちきれず、何度も一話から読み返した。



そして


私が高校に入学する頃、物語は第777話をもって完結したのだった。



最終話では、人を疑い、友を自分のために切り捨て、どこまでも自分勝手だった主人公が、見返りを求めない数々の愛に触れたことで己を見つめ直し、最後の最後で自分以外の他者を救うための自己犠牲を選ぶことで、世界は救われ、主人公の存在は消滅した。


そして最後のページで、主人公は夢に見た仲間全員との再会を果たし、作中で一度も見せなかった涙を流して、物語は幕を閉じた。



なんて綺麗な終わり方なんだろう、と感動の涙が出た。

この感動をすぐにでも伝えなくては、と私は読み終えてすぐに長文の感謝コメントを書き、これからも創作活動を頑張って欲しい旨を文字数制限ギリギリまで綴って投稿した。


すると数時間後に1件の返信がついた。

 


《「閲らんらん様、五年間に渡って応援いただきありがとうございました。執筆活動が続けられたのは間違いなく閲らんらん様のおかげです。

また会いましょう」》


閲らんらん、というのは私のユーザーネームだ。

名指しで感謝コメントをもらうのは初めてのことで、嬉しさのあまり何度もスクショを撮ってしまった。

また(・・)という言葉に一瞬だけ引っかかりを覚えたが、それ以上に嬉しさが勝った。

 

しかし、私の人生を支える支柱といっても過言ではなかった小説が終わりを迎えたという事実は時間が経つにつれて感動から喪失感へと変わってしまい、勉強に身が入らなくなったことで高校を留年しかけてしまったのは反省している。


そして今現在、私は、なんとか滑り込めた地方の大学でコツコツとアルバイトをしながら一人暮らしの資金調達をしている貧乏学生になっていた。


そんな変わり映えのない平凡な生活の中は、ある一つのタイムラインによって終わりを迎えた。

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