第二十話 殲滅
時は晩刻、【魔動平原】と呼ばれる深い青の海に衝撃波が走った。
俺は結界を砕きながら隕石の如く飛んでいくと、魔物の群れの中心に着地する。
刹那、魔物の群れは俺を中心に吹き飛んでいく。
そして、そのままの勢いで群れの発生地へ駆け上る。
その間も、魔物を切り伏せながら。
討ち漏らしは下に待機する村の人たちに任せる。
俺は根元を攻める!
──「来るぞ!」
ドドドドドドドドドッ!
大地を轟かせながら迫りくる無数の魔物たち、その一体一体がLv300を超えている。
光里にとっては他愛もないが、村の者たちのとっては脅威である。
だが、愛する者のために彼らは恐怖を克服する。
此処に集うは戦闘民族、赤檻族である。
そんな赤檻族の代表、都地黒とその右腕である虞螺紀保は、音速を超える速度で魔物の群れに迫る。
そして、目の前に迫る魔物に、自分たちがいるという事を悟らせるよりも前に切り捨てる。
その後ろをネージー族の、魔力で出来た矢が飛来する。
そして、それは自動で魔物に狙いが定められ、放たれた数百の矢は全て魔物に当たる。
即死とは行くまいが動きが鈍る。
其処を残りの赤檻族らが一掃する。
そして、彼らを指揮する村の長、イトイド・ハイドもまたその手に《狂化の大斧》を取り、神速で駆けては魔物を切り伏せていく。
その手にかけられた魔物達は骨も何もかもが粉砕され、次々に命を落としていく。
だが、その数が減ることは無い。
現在の討伐数は500匹程度。
最低でも、この【魔物大行進】は1万越えの魔物が現れると予想される。
彼らの一太刀一太刀もだんだんと鈍くなっていく。
だが、その程度で敗れるのならば、今ここに存在するのは廃村だろう。
彼らの真価は絶体絶命でこそ現れる。
だが、いまだその真価を露にするほど押されてはいない。
数多の剣閃が閃く中、徐々に魔物たちも減っていく。
だがそれで終わってくれるほど魔物達も甘くはない。
魔物達の咆哮は骨を揺らし、動きを鈍らせる。
そこに魔物達の爪が付きたてられる。
そんな一進一退の攻防戦が繰り広げられていた。
いまだ絶命した魔物の数は1000とちょっと。
これは【魔物大行進】の一端に過ぎない。
それでも、彼らの瞳に絶望の二文字はなかった。
そこにあるのは、この村を守りたい、この村を守り抜いて見せるという決意だけだった。
だが、その決意こそが彼らの最大の強味だった。
その足は疲れ果てても止まることなく、愚直に突き進み、その刃を振るう。
援護であっても、その指が千切れそうになろうが弓の弦を引いては弾いて、その矢を放ち続ける。
人の意思こそが、どんな絶望すらも希望に変える。
彼らの能力は全てを守り抜くという決意のみ。
そして、それだけで既に5000匹という数の魔物を葬り去った。
そして、6000を切った所で魔物が徐々に減っていく。
それでもなお溢れて来る魔物達は彼らを葬ろうと顎を開き、その爪を振るい、最後の足搔きを見せる。
だが、それも全て跳ね除けられ、刹那の内に事切れる。
気付けば、6500を超えた時点から魔物の数は一気に減っていた。
濁流の如く溢れていた魔物達は、締まり切っていない蛇口から垂れる水滴程の数になっていた。
それも、その殆どが手負いの状態だった。
その状態に一同は戸惑うが、長、イトイド・ハイドだけはその真相を見抜いていた。
6000を超えた時点で減り続けていた魔物達だが、高々500増援が来ただけで収まるはずがない。
だが、蛇口を完全に締める事が出来る者が一人、この村には存在していた。
「この魔物の群れに突っ込むなんて、中々に狂ってるね、、、」
「、、、まあ、あの実力ならば頷けるだろう。」
「、、、どゆこと?」
そんな会話を交わすのは、長であるハイドと、ネージー族の少女セリス・ティックの二人だ。
ハイドはその大斧を支えにしながら肩で息をする。
そして、セリスは爪の剝がれた指を尚も酷使しながら、弓の弦を引いては弾く。
そんな彼女らが話すのは、あの魔物の群れに突っ込んでいった少年、光里の事だ。
「あいつ、私の目の前で魔物を殴り殺したのだ。」
「え!? 素手で!?」
「ああ。それも、一撃で、、、な。」
最後の一射を撃ち放しながら、セリスは会話を交わす。
そして、やり切ったように息を吐くと、その場に座り込む。
「まあ、私には理解できない力を持っているという事だな。」
そう言い切ったセリスに、ハイドは目を剝く。
滅多にその表情を崩す事が無いセリスの口角が上がり、とても優しい顔をしていたのだ。
ハイドは「フフッ」と笑うと、深呼吸を一回。
そして、魔物の殲滅が終わったその方へ向けて声をかける。
「──魔物は全滅した! 直ぐにここから引くぞ!」
既に空は日の明かりが差し込み始めている。
殲滅が完了した今、長居する必要はなくなった。
直ぐに撤退すべきだろう。
──だが、それを許してくれるほど甘くないのが、【魔物大行進】だ。
その場に、一層大きな地響きが轟く。
そして、先程上がった閃光が、その姿を変えて天に伸びる。
そこから姿を現したのは──
「嘘、だろ、、、」
「、、、あれって」
──「破滅の巨神、、、《ゼンド・デーヴァ》」
その意は『終焉の神』。
それが現れた時、この世界は約2日で破滅すると言われている。
この場の誰もが終わったと、そう思った。
だが、そこに希望はあった。
漆黒の、救世主が現れたのだ。
「あれは──!」
漆黒に身を包み、その全身からはこの世の物とは思えない圧倒的な威圧感が溢れている。
そして、その男は上空、《ゼンド・デーヴァ》の目の前で、仁王立ちで結界の上に立ちその巨大で強大な体躯を眺めていた。
次に放った言葉で、それは始まった。
「やっと最後か! さっさと終わらすぞ!」
神とも執られるその巨神に物怖じする事無く言い放つ。
そうして、彼──闇山光里による蹂躙が始まった。
ボスではないです。




