もう一人の守護神①
Mr.Tからの返信がきた。
『北野哲也に関してですが、有力な情報はありません。謎の人物と言えます。
カレン・ヨハンソンですが、彼女はかなり有名な女性でした。ドイツ人の医者です。ただし、医師としてよりも、その天才ぶりが驚異的らしいです。数学、物理に長けているということだそうです。現存する人類最高の天才という評判ですよ。ちひろ様や、レイさん、それと赤崎彩さんに、引けを取らないものと思われます。最新の情報によると、近々来日すると言われています。来日の目的や訪問先などは不明。世界の天才、世界の宝と言われる女性ですので、通常、それなりのボディーガードがつくのですが、なぜか今回は、お忍びでの来日らしいです。以上。』
敵にも同じ情報が流れているだろう。先にコンタクトを取る必要がある。すぐに返信をした。
『カレン・ヨハンソンの自宅及び職場の情報と、彼女の写真を送って下さい。大至急!』
5分後、情報が送られてきた。住所も職場もフランクフルトだ。この時間だと、まだ自宅だろう。俺は瞬間移動した。
彼女の自宅は、フランクフルトから車で40分ほどの郊外にある。二階建ての大邸宅だ。俺は近くの公園に降り、昆虫サイズに変身し、その広い敷地に侵入した。二階の窓に灯りが灯っている。目標はその部屋とし、換気口ら建物に入った。この大邸宅に一人で住んでいるとは、日本人から見ると、かなりの贅沢である。すぐに、彼女を見つけることが出来た。先ほど確認した写真と同じだから間違いないだろう。書斎で何やら専門書を読んでいる。俺の目的は、彼女の護衛と行動の見張りを、分身仏に依頼することと思っていた。しかし、俺の予定は大きく狂ってしまった。
『そこにいるのは誰。』
カレン・ヨハンソンが突然振り向いた。俺は無視をした。
『隠れても無駄よ。私には分かるの。用事があるのなら、姿を現しなさい。でなければ、早々に出て行きなさい。』
美人だ。年齢は30歳くらいだろうか。青い瞳は、険しい光を放っている。気の強い女性のようだ。それは、確固たる自信の上に成り立ってあるのだろう。しかし、本当に俺がいることが分かっているのか。とりあえず、もう少し様子を見ることにした。一度、部屋を出て行き、人間の目では捉えられないように体をさらに小さくした。そして、再び、部屋に侵入。
『誰だか知らないけれど、しつこいわね。私の怒りが高まらぬうちに、出てお行き。』
どうやら、俺の気配を感じているようだ。怒るとは、どういうことだ。ならば、試しに怒らせて見よう。俺は、彼女の目の前で、静止した。すると、彼女の顔つきが変化し始めた。憤りが隠せないようだ。白い肌が赤く上気している。そして、次第に気が高まっていくのが分かった。俺を抹殺するきだ。
『どうせ、またあの連中の手先なんでしょ。地獄にお行き。』
俺めがけて、オーラが放たれた。俺は、そのオーラをまともに食らってしまった。例の黒のオーラとは違う。冷たくはない。オレンジ色に輝く、暖かいオーラだ。普通の者なら、跡形もなく焼かれてしまうだろう。だが、俺は無傷だ。
『おや、変ね。気配が消えないわ。汚れた気でもない。魔界の者ではなさそうだわ。あなた、何者。出てきなさい。』
おお、怖い。しかし、俺の周りに登場する女性は、皆、美しいが、皆、気が強い。皆、命令口調だ。仕方ない、ご命令に従いましょう。俺は、ちひろの姿に戻った。
『あなた、いったい、何者?どこから、どうやってここに来たの?』
『ちひろだよ。日本から瞬間移動してきたんだあ。』
『日本?瞬間移動?意味が分からない。ちひろ?ん?どこかで聞いた名前だ。』
カレン・ヨハンソンは、書類をかき回し始めた。何かを探しているようだ。
『あった。やっぱりリストに載っている名前だ。でも、おかしいわ。ちひろは、暗殺されたことになっている。あなた、誰なの?』
『だから、ちひろだよ。私は死んでないよ。暗殺者は来たけど、失敗したわ。でも、面倒だから、死んだことにしたんだあ。』
『あなたみたいな子供が暗殺者を倒したっていうの?』
『そうだよ。私、強いの。だから、リストにも載ってるんだあ。お姉さんも、リストに載ってたよ。』
『何で子供のあなたが、そんなことを知っているの?』
『リストに載ってるのはね。
赤崎彩
カレン・ヨハンソン
北野哲也
ちひろ様
新宿ヒロ
大沢レイ
このら6人よ。合ってるでしょう?』
『た、確かに合ってるわ。私が、このリストを入手するのに、どれくらいの労力がかかったか。なのに、こんな子供が知ってるなんて。』
『私は、暗殺に来たおじちゃんから聞き出しただけよ。そのおじちゃんは、改心して、今は心の修行をしてるのよ。』
『それで、何か目的があって来たのでしょう。言ってごらん。』
『お姉さんを守りに来たの。』
『何言ってるのよ。自分の身は、自分で守るわ。子供の力など必要なくてよ。』
『私の本当の目的は、このリストの最後に書かれている大沢レイを守ることなの。それが私の使命だから。大沢レイを守るために、あなたが必要なのよ。だから、あなたのためではなくて、大沢レイのために、あなたを守るの。』
『この子、なかなか頭がいいわ。しかし、矛盾してるわ。あなたが私を守ってるとき、大沢レイは誰が守るの。』
『どっちも、私が守るのよ。それだけではないわ。赤崎彩、北野哲也も私が守るつもりよ。』
『新宿ヒロを守らないということは、彼は死んでるのね。』
『違うよ。生きてるよ。』
『じゃあ、どうして守らないの。』
『守る必要がないからよ。』
『あなたより強いから。』
『違うよ。お姉さん、頭がいいんでしょ。なぜか、当ててみて。私が、ヒロを守らない理由を。』
俺は、カレンに微笑んだ。こういう質問に頭の良い人は、だいたい同じ反応をする。分からないという返事をしたくないのだ。それは人一倍、プライドが高いからだ。だから、頭をフル回転させて、本気で考え始める。カレンも同じ反応をした。
『ヒロは、死んではいない。ちひろより強くない。ちひろは守らない。それは、なぜか、、、。』
カレンは、ブツブツ言いながら考えている。
『言い換えれば、、、
死んではいない、、、生きているが、通常の状態ではない。
ちひろより強くない、、、ちひろより弱い。または、ちひろと同じ強さ。
守らない、、、守る必要がない。あるいは、守れない。
ヒロは死んでしまったが、ちひろの心の中で生きている。いや、それなら死んでいないという条件に当てはまらない。生きている状態で、ちひろの中にいるとすれば、条件はクリアする。しかし、そんなことがあり得るはずない。ちょっと、待って。そもそも、こんな小さな子供が、何で1人で、こんなところにやって来るの。親はどういうつもり。ちひろ、ヒロ、、、。なるほど。』
今度は、カレンが俺に微笑んだ。
『謎が解けたわ。あなたは、ちひろではない。あなたはヒロ。あなたの正体は、新宿ヒロだわ。』
『その答えは、90点。』
『往生際が悪いわ。あなたは、ヒロよ。』
『そしたら、ちひろはどうなるの?』
『ちひろは暗殺されたと聞いていた。それが、正しかったとうことよ。』
『ちひろは生きてるよ。ヒロも生きてるよ。答えは簡単。ちひろとヒロは、同一人物なの。』
俺は、気を集中させた。




