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フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~  作者: ☆☆アダム☆☆


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第1話 両親は、本の世界にいる

挿絵(By みてみん)


「ねえ、おばあちゃん。私のお父さんとお母さんって、どこにいるの?」


十歳になった日の夜、私はずっと聞けなかったことを、とうとう口にした。


夕食を食べ終えたばかりの部屋には、焼いた魚とお味噌汁の匂いがまだ残っていた。開けた窓から涼しい風が入り、白いカーテンを静かに揺らしている。その向こうには雲一つない夜空が広がり、真ん丸な月がいつもより大きく、明るく輝いていた。


向かいに座っていたおばあちゃんの手が止まった。


ほんの一瞬だったけれど、私は見逃さなかった。


「どうしたんだい、急に」


おばあちゃんはすぐに笑った。でも、いつもの笑い方とは少し違う。


「急じゃないよ。ずっと聞きたかったの」


私は膝の上で両手を握った。


学校では、友達がお父さんに叱られたとか、お母さんと買い物へ行ったとか、そんな話を当たり前のようにする。参観日に両親が来てくれた子もいたし、運動会では、お父さんの肩に乗って笑っている小さな子も見た。


私はずっと、おばあちゃんと二人で暮らしてきた。


もちろん、おばあちゃんのことは大好きだ。毎日ご飯を作ってくれるし、風邪をひけば一晩中そばにいてくれる。寝坊すれば怒るし、テストでいい点を取れば、自分のことみたいに喜んでくれる。


それでも、ずっと知りたかった。


私のお父さんは、どんな人なんだろう。


お母さんは、どんな声で笑うんだろう。


二人は私のことを覚えているのかな。


そして、どうして私と一緒にいないんだろう。


「今日ね、学校で聞かれたの。フールちゃんのお父さんとお母さんは何をしてる人なのって。でも私、何も答えられなかった」


「……そうかい」


「おばあちゃん」


怖かった。


それでも、ここで聞かなかったら、また聞けなくなる気がした。


「二人とも……死んじゃったの?」


口にした途端、胸の奥がきゅっと縮んだ。


ずっと一番怖かった答えだった。


ところがおばあちゃんは、静かに首を横へ振った。


「いいや」


「じゃあ、生きてるの!?」


思わず立ち上がると、椅子が床を擦って大きな音を立てた。


「ああ」


「どこにいるの? 会える? 遠いところ? だったら私、会いに行きたい!」


次々と質問が口から飛び出した。


おばあちゃんはすぐには答えず、しばらく私を見つめていた。困っているようにも、何かを決めかねているようにも見える。


やがて小さく息を吐くと、窓の外へ目を向けた。


「……十歳になったら話そうと思っていたんだよ」


「十歳って、今日じゃん」


「ああ。だから今夜、話す」


私もつられて窓を見る。


大きな満月が、夜空に浮かんでいた。


「それに、ちょうど満月だ」


「満月?」


「そうだよ。今夜なら、あの本を開けられる」


「本?」


何の話なのか、ますます分からなくなった。


おばあちゃんは椅子から立ち上がる。


「ついておいで」


私は慌てて後を追った。


廊下を進み、階段を上がる。二階には私の部屋と、おばあちゃんの寝室、それから滅多に開けることのない小さな物置がある。


おばあちゃんが立ち止まったのは、その物置の前だった。


「ここ、入っていいの?」


「今日からはね」


古い扉が、ぎいっと音を立てて開いた。


中は真っ暗だった。


おばあちゃんが天井から垂れている紐を引くと、小さな電球が灯り、積み重なった木箱や古い家具がぼんやりと浮かび上がった。乾いた木と埃の匂いが鼻をくすぐる。


一番奥まで進んだおばあちゃんは、古びた木箱の前でしゃがんだ。


私が両腕で抱えるより少し大きいくらいの箱で、表面には星や羽根、剣のような不思議な模様が彫られている。


おばあちゃんは首から細い紐を外した。その先には、小さな鍵がついていた。


「そんなの持ってたの?」


「ずっと持っていたよ」


鍵を差し込むと、かちり、と小さな音がした。


ゆっくり蓋が開く。


中には赤い布が敷かれ、その中央に一冊の本が置かれていた。


「……本?」


もっとすごいものが出てくると思っていた。


お父さんとお母さんの写真とか、二人からの手紙とか、居場所が書かれた地図とか。


ところが箱の中にあるのは、本当に一冊の本だけだった。


ただ、近くで見ると普通の本ではないことが分かる。


ずいぶん分厚く、表紙は夜空を閉じ込めたような深い青色をしていた。中央には金色の円が描かれ、その周囲を星や剣、羽根、見たことのない生き物の模様が取り囲んでいる。


どこを探しても題名はない。


「これが、お父さんとお母さんに関係あるの?」


「ああ」


おばあちゃんは本を両手で持ち上げた。


とても大切なものを扱うような手つきだった。


「フール。よく聞きなさい」


さっきまでとは違う声だった。


私は黙って頷く。


「お前のお父さんとお母さんは、この本の向こう側にいる」


「…………本の向こう?」


「ああ」


私は本を覗き込んだ。


「裏側?」


「そういう意味じゃないよ」


「じゃあ、中?」


「まあ、それに近いね」


余計に分からない。


私が困っていると、おばあちゃんは本の表紙を撫でながら続けた。


「この本は、私たちが暮らしている世界とは別の世界へ繋がっている。お前の父さんと母さんは、その世界へ行ったんだ」


冗談だと思った。


本の中に別の世界があるなんて、おとぎ話でしか聞いたことがない。


けれど、おばあちゃんは笑っていなかった。


「本当に?」


「ああ」


「二人とも、そこにいるの?」


おばあちゃんはすぐには答えなかった。


ほんの少しだけ間があった。


それが気になったけれど、やがておばあちゃんは静かに頷いた。


「お前が探している答えは、その世界にある」


胸の奥が大きく鳴った。


私は今まで、両親のことをほとんど何も知らなかった。顔も知らないし、声も知らない。名前だって、おばあちゃんは教えてくれなかった。


それなのに突然、二人へ続く道が目の前に現れた。


「だったら私も行く!」


考えるより先に言っていた。


「今すぐ行く! その本を開けばいいの?」


本へ伸ばした私の手を、おばあちゃんが止める。


「待ちなさい」


「どうして?」


「向こうがどんな世界なのか、私はすべて知っているわけじゃない。ここよりずっと危険な場所もあるし、お前が見たことのない生き物もいる。それに、父さんと母さんだって、すぐに見つけられるとは限らない」


「でも、二人に会えるかもしれないんでしょ?」


「ああ」


「だったら行く」


今度は考えてから答えた。


怖くないわけじゃない。


知らない世界なんて想像もできないし、怖い魔物だっているかもしれない。一人で眠れない夜もあるかもしれない。


それでも、私は二人に会いたかった。


「会って聞きたいの。どこにいたのって。どうして私と一緒にいなかったのって。それから……」


そこで少しだけ迷った。


本当に会えたら、私は最初に何を言うんだろう。


怒るのかな。


泣くのかな。


それとも、何も言えなくなるのかな。


「私のこと、ちゃんと知ってるのって聞きたい」


おばあちゃんは何も言わず、私の頭へ手を置いた。


いつもと同じ、温かい手だった。


「赤ん坊だったお前が、もうこんなことを言うようになったんだねえ」


「もう十歳だよ」


「私からすれば、まだ十歳さ」


「子供扱いしないでよ」


「十歳は十分子供だよ」


「むぅ……」


頬を膨らませると、おばあちゃんがようやく笑った。


でも、その目が少しだけ濡れている。


それを見たら、急に胸が苦しくなった。


私が行ったら、おばあちゃんは一人になる。


「……おばあちゃんも一緒に来る?」


けれど、おばあちゃんはゆっくり首を横へ振った。


「これは、お前の旅だからね」


「でも……」


「心配しなくても大丈夫だよ。私はそんなに弱くない」


そう言って胸を張った直後、おばあちゃんは小さく咳き込んだ。


「ほら!」


「今のはたまたまだよ」


「本当に?」


「本当だとも」


ものすごく怪しい。


それでも、一緒に来ないという気持ちは変わらないようだった。


私はしばらく迷ってから、ぎゅっと拳を握った。


「絶対に帰ってくるから」


「ああ」


「お父さんとお母さんを見つけて、三人で帰ってくる」


その瞬間、おばあちゃんの表情がほんの少しだけ曇った。


何か言いかけたようにも見えたけれど、すぐにいつもの優しい笑顔へ戻る。


「だったら準備をしないとね。今夜を逃したら、次の満月まで待たなくちゃならない」


「えっ、今夜行くの!?」


「そのつもりじゃなかったのかい?」


「行く! 行くけど準備!」


私は大急ぎで自分の部屋へ戻った。


動きやすい服へ着替え、腰まで伸びた赤い髪をいつものように左右で結び直す。大きめの鞄へ着替え、水筒、タオル、それから必要そうなものを詰め込んだ。


鍋も持っていこうとしたけれど、途中で様子を見に来たおばあちゃんに止められた。


「向こうで料理するかもしれないじゃん!」


「そんな重いものを背負ってどうするんだい」


「武器にもなるよ」


「ならないよ」


結局、鍋の代わりに、おばあちゃんが作ってくれたおにぎりを入れた。


準備を終えて一階へ戻ると、おばあちゃんは青い本を抱えて玄関で待っていた。


扉を開ける。


夜の冷たい空気が頬に触れた。


二人で庭へ出ると、頭上には大きな満月が浮かんでいた。虫の声が聞こえ、風が庭の木々を静かに揺らしている。


おばあちゃんは庭の中央まで進み、私へ本を差し出した。


「持ってごらん」


両手で受け取る。


思っていたよりずっと重い。


「それを月の光に当てるんだ」


私は言われた通り、本を胸の前で水平に持った。


白い月明かりが、深い青色の表紙へ落ちる。


最初は何も起こらなかった。


ところが数秒すると、表紙の中央に描かれていた金色の円が淡く輝き始めた。周囲の星や剣、羽根、見たことのない生き物まで、順番に金色の光を帯びていく。


「光った……!」


さっきまでただの模様だったものが、まるで生きているように表紙の上をゆっくり動いていた。


「この本が向こうの世界へ繋がるのは、満月の光を受けたときだけだよ」


「だから今夜だったんだ」


「ああ」


私は頭上の満月を見た。


いつも見ていたはずなのに、今夜からはもう同じものには見えない。


「フール」


おばあちゃんに呼ばれ、振り返る。


「最後に決めるのはお前だ。このまま本を閉じて、ここで暮らすこともできる」


私は本を見る。


それから家を見た。


十年間暮らしてきた家。


明日の朝は、ここで目を覚まさないかもしれない。


そう考えたら急に怖くなった。


でも、その怖さの向こうに、お父さんとお母さんがいる。


「行くよ」


迷いはなかった。


私はおばあちゃんへ本を一度預け、思い切り抱きついた。


服からいつもの匂いがした。


この家の匂い。


私がずっと知っている、安心する匂いだった。


「ちゃんとご飯食べてね」


「それは私の台詞だよ」


「夜更かしもしちゃダメだからね」


「それも私の台詞だ」


「知らない人についていっちゃダメだよ」


「フール」


「なに?」


「お前が一番気をつけなさい」


二人で笑った。


笑ったら、少しだけ怖くなくなった。


私はおばあちゃんから本を受け取る。


「行ってきます」


「ああ。行っておいで」


泣かない。


絶対に泣かない。


そう決めていたのに、おばあちゃんの顔が少しだけ滲んだ。


私は慌てて目を擦り、庭の中央へ進んだ。


頭上には満月。


その真下で、光り始めた本へ指をかける。


ゆっくり表紙を開く。


最初のページは真っ白だった。


「……何もないよ?」


そう言った直後、頭上から降り注いでいた月の光が、開いたページへ集まり始めた。


一本の金色の線が走る。


それに続いて二本、三本と増え、何十本もの光が白い紙の上を縦横に駆け巡った。


山が生まれた。


その麓から川が伸び、森が広がり、湖と海が現れる。さらに海の向こうには別の大陸まで描かれ、私には読めない文字や不思議な記号が次々と刻まれていった。


「地図……?」


けれど、普通の地図じゃない。


描かれた川は本当に流れているように輝き、森の上には小さな雲が動いている。遥か北に描かれた雪山では、小さな雪まで降っていた。


その中央に、文字が浮かぶ。


《聖なるマップ》


「聖なる……マップ?」


読み上げた瞬間、ページが強く輝いた。


同時に、本の中から強い風が吹き出した。


「わっ!」


赤い髪が激しく揺れ、背負った鞄まで引っ張られる。


何十、何百というページが勝手にめくれ、その一枚一枚に知らない景色が映り込んでいく。


雪に覆われた巨大な山。数え切れないほどの建物が並ぶ街。青い海を進む帆船。雲を突き抜けるほど高い塔。深い森の奥で輝く湖。


どれも一瞬で通り過ぎてしまい、確かめる暇さえない。


「おばあちゃん、これどうすればいいの!?」


「本を離しちゃ駄目だよ!」


「分かった!」


私は飛ばされそうになる本を両腕で抱え込んだ。


風はどんどん強くなる。


足元の草が激しく揺れ、鞄が背中で暴れ始める。踏ん張ろうとしても、靴の裏が少しずつ地面を滑っていった。


やがて、猛烈な勢いでめくれていたページが一斉に止まった。


開かれたページには、さっき見た《聖なるマップ》が広がっている。


ただし今度は、その中央に新しい文字が浮かんでいた。


《MAIN QUEST》


「メイン……クエスト?」


文字の下に、金色の光が集まっていく。


やがて、たった一つの目的が刻まれた。


《両親を探せ》


「…………!」


息を呑んだ。


何度見ても、それ以外には何も書かれていない。


二人の名前もない。


どこにいるのかも分からない。


どんな姿をしているのかも分からない。


それでも、私はその文字から目を離せなかった。


お父さんとお母さん。


本当に、この先にいるんだ。


「おばあちゃん!」


私は振り返った。


「やっぱり二人は、この世界にいるんだよね!?」


おばあちゃんは月明かりの中で、静かに私を見つめていた。


「ああ」


その一言だけで十分だった。


胸の奥に残っていた迷いが消えていく。


どうやって探せばいいのかなんて、まだ分からない。


この本の向こう側がどれほど広い世界なのかも知らない。


一日で見つかるかもしれないし、何年もかかるかもしれない。


それでも、行かなければ何も始まらない。


「私、絶対に見つける」


《両親を探せ》という文字を見つめながら、私は本を強く握った。


「お父さんも、お母さんも。二人とも見つけて、ちゃんと帰ってくるから」


「……ああ」


おばあちゃんの返事は優しかった。


けれど、どこか寂しそうにも聞こえた。


どうしてそんな声を出すのか聞こうとした、その瞬間だった。


開かれたページの中央に、小さな光が生まれた。


最初は指先ほどだった光が、ぐるぐると渦を巻きながら大きくなっていく。


「えっ……?」


風の向きが変わった。


さっきまでは本から吹き出していたはずなのに、今度は周囲の空気ごと本の中へ吸い込まれていく。


私の髪も、服も、鞄も、すべてが前へ引っ張られた。


「わっ!」


慌てて後ろへ足を出す。


それでも止まらない。


一歩。


また一歩。


身体が本へ近づいていく。


「おばあちゃん!?」


「大丈夫だよ!」


「これ、大丈夫なやつなの!?」


「大丈夫だとも!」


「全然そう見えないよ!」


本の中の渦はますます大きくなっていた。


身体が軽くなる。


つま先が地面から離れた。


「えっ?」


次の瞬間、私は完全に宙へ浮いた。


「うそっ!?」


怖くなり、反射的におばあちゃんへ片手を伸ばした。


「おばあちゃん!」


おばあちゃんも一歩だけ前へ出た。


でも、私の手を掴むことはなかった。


その代わり、泣きそうな顔で笑っていた。


「行っておいで、フール」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった怖さが少しだけ小さくなった。


そうだった。


無理やり行かされるんじゃない。


私が決めたんだ。


お父さんとお母さんを探しに行くと、自分で決めた。


私は伸ばしていた手をゆっくり戻した。


「……うん!」


本を両腕で抱き締める。


身体がさらに光へ引き寄せられた。


庭が遠ざかっていく。


家も、おばあちゃんも、少しずつ小さくなっていく。


離れたくない。


寂しい。


でも、帰ってくる。


だからこれは、お別れじゃない。


私は大きく息を吸った。


「おばあちゃん!」


「なんだい!」


「行ってきます!」


おばあちゃんの顔がくしゃりと崩れた。


それでも笑っていた。


「ああ――行ってらっしゃい!」


その言葉と同時に、本から溢れた光が一段と強くなった。


身体が一気に引っ張られる。


「わああああっ!」


家も庭も見えなくなっていく。


最後まで見えていたのは、おばあちゃんと、その頭上に浮かぶ大きな満月だった。


そのとき、おばあちゃんの声が聞こえた。


「フール!」


「なに!?」


「迷ったときは、空を見なさい!」


風が強くて聞き取りにくい。


「空!?」


「ああ! 月は――」


身体の半分が光の中へ呑み込まれる。


私は必死に耳を澄ませた。


「月は、どちらの世界からでも見えるから!」


「……うん!」


返事が届いたかどうかは分からなかった。


次の瞬間、私は完全に光の中へ吸い込まれた。


上も下も分からない。


身体が落ちているのか、飛んでいるのかさえ分からなかった。


目の前を、無数の光が流れていく。


赤、青、緑、黄色、紫。


星みたいな光の粒が身体の横を通り過ぎるたび、知らない音が一瞬だけ聞こえた。


波の音。


誰かの笑い声。


大勢の歓声。


剣と剣がぶつかったような音。


遠くから響く、何か大きな生き物の鳴き声。


怖くなって、私は目を閉じた。


でも、もう戻ろうとは思わなかった。


胸の中で何度も繰り返す。


お父さん。


お母さん。


待ってて。


絶対に見つけるから。


そのとき、抱えていた本が突然強く輝いた。


「えっ?」


腕の中から本の感触が消えていく。


驚いて目を開けると、青い表紙も分厚いページも無数の光の粒へ変わり、私の周りを漂っていた。


「本が……!」


慌てて手を伸ばす。


けれど掴めない。


光は私の手をすり抜け、一か所へ集まっていく。


やがて手のひらほどの大きさになり、一枚の白いカードへ姿を変えた。


カードの表面には、あの本と同じ金色の円が描かれている。


「これ……」


恐る恐る触れた。


その瞬間、カードから光が広がった。


何もなかった空間に、《聖なるマップ》が浮かび上がる。


その中央には、さっきと同じ文字があった。


《MAIN QUEST 両親を探せ》


本はなくなった。


でも、両親へ続くものは消えていない。


私はカードを胸元へ引き寄せた。


「よし」


不思議なくらい、今度は声が震えなかった。


どこへ行けばいいのか分からなくてもいい。


何が待っているのか分からなくてもいい。


一つずつ探せばいい。


この《聖なるマップ》と一緒に、まだ知らない世界を歩いていけばいい。


そう思った瞬間、周囲を流れていた光が急に激しくなった。


「な、なに!?」


足元に白い光が集まり、身体が下へ引っ張られる。


今度ははっきり分かった。


落ちている。


「ちょっと待って! こんな入り方なの!?」


もちろん誰も答えてくれない。


私はカードを握り締め、もう片方の手で鞄を押さえた。


光がどんどん強くなる。


何かが聞こえた。


ざあっ、と遠くで繰り返す音。


風とは違う。


でも、それが何なのか確かめる前に、視界が真っ白になった。


身体を包んでいた浮遊感が消える。


意識が遠ざかっていく中で、私は最後にもう一度だけ胸の中で呟いた。


お父さん。


お母さん。


私、行くから。


必ず二人を見つけるから。


そして――。


いつか三人で、おばあちゃんのところへ帰るんだ。


白い光がすべてを覆い尽くした。


その向こうから、波の音だけが聞こえていた。

最後まで読んでいただいてありがとうございます!

全て物語を直して一から投稿します!

かなりの長編なので気長に付き合ってくれたら嬉しいです!

ブックマークや評価していただけると嬉しいです!

毎日3話から5話投稿します!

もう修正や消したりしないので以前読んでいた方もエタらないので安心して下さい!

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