人間観察部と思いがけぬ攻略対象
人間観察部と思いがけぬ攻略対象
午後最初の授業は小泉指導教諭代行の英語で、彼女は退屈な過去形の文法を解説していた。
「ここではinsistの用法が問われているわ」
渡辺徹は前世、英語にはそれなりに自信があった。そのため黒板を眺めながら、頭の中で投稿用の文章を練り上げていた。
ノートを取る必要が生じるたび、英語の教科書の下に敷いた白紙に二行ほど書き記す。
休み時間には、原稿は半分ほど仕上がっていた。彼は席を立ち、多くの女子生徒に囲まれた小泉の元へ向かった。
しばらく黙って待っていると、小泉はついに全員の質問に答え終え、「渡辺くん」と一声かけると教室の外へ歩き出した。
渡辺徹は彼女の後を追い、二人は教職員室へ向かった。
若く美しく、気配りもできる小泉は非常に人気があり、道すがら次々と生徒が声をかけ、彼女も愛想よく応えていた。
職員室に着くと、小泉は本で埋め尽くされた自分の机に座り、体を斜めにして渡辺徹に話しかけた。
「部活のことね?」
「はい」
昨日と比べ、渡辺徹は彼女の机に小さな多肉植物の鉢がいくつか追加されているのに気づいた。
彼の視線に気づいたのか、小泉青奈も朝、道すがら買ったばかりの多肉をちらりと見た。
「見つけたの?」と彼女は問うた。
「はい、人間観察部という部です」
「ああ……あの部、何をするつもりなのか知ってる?」小泉青奈は苦笑いを浮かべ、まるで渡辺徹が愚かなことをしたかのようだった。
「知りませんし、聞いてもいません」
活動内容が不明な部活は珍しいが、意味の分からない団体は他にも多い。それに早退が可能なので、渡辺徹は深く気にしていなかった。
「清野さんが可愛いから、勢いで入部しただけじゃないでしょうね?」
女性教師がスケベを見るような視線を向ける中、渡辺徹は頷いた。「確かに可愛いです」
「もう……まあいいわ。他の部に替えなさい。人間観察部に入る必要なんてないわ」
「なぜです?もしかして正式な部活じゃないんですか?」
「そうじゃないわ」小泉青奈は笑った。「清野凛は君と同じで、最初はどの部活にも入りたくなかった。だから特別に、本人の興味のある部活を作ることを許可したのよ」
「先生、『自宅学習部』を作らせてください。問題集を見せますから」
「考えないで」
「この塾に民主主義はないんですか?」
「清野凛の入学試験の成績は塾全体で一位よ。渡辺くんは?」
「……三位だって悪くないでしょ」
「悪くないわ」小泉青奈は賛成するように頷き、誉めるような視線で渡辺徹を見た。「でも彼女のお父さんは、この塾を支援してくださっている大企業の社長様なのよ」
「俺は田舎の生まれで弱者です。もっと配慮されるべきじゃないですか?授業料も免除されてないのに、部活設立で特別扱いしてくれてもいいはずです」
「ははは、面白い生徒だなあ」小泉青奈の隣の席の他クラスの英語教師が、女性らしさを無視して大きく笑い込んだ。
小泉青奈は同僚であり親友でもある彼女をちらりと見てから、渡辺徹に「もう大人なんだから、世の中の現実を分かりなさい」というような、優しくも無情な笑みを浮かべた。
「わかりました。でもやっぱり人間観察部に入ります。人間そのものに興味があるんです」
「私のフルネーム、何と言うか知ってる?」小泉青奈は少し身を乗り出し、渡辺徹の瞳をまっすぐ見つめた。
渡辺徹は二歩下がった。「先生、近すぎます」
「ほら」小泉青奈は姿勢を正した。「担当教諭の名前も知らないくせに、人間に興味があるなんて言わないで」
その時、隣のクラスの英語教師が上半身を乗り出し、小泉青奈の胸にもたれかかるような姿勢で再び会話に割り込んできた。
「くん、私が教えてあげてもいいわよ。お姉さんって呼んでくれたらね」
「晃子!」小泉青奈は不機嫌そうに彼女の体を起こさせた。
「わかったわかった、師生の話し合いの邪魔はしないわ」藤木晃子は教科書を持って立ち上がった。「授業に行くわ」
小泉青奈は白く細い手首を上げ、時計を見てやっと授業時間が近いことに気づいた。
「入部を固く希望するなら、好きにさせてあげるわ。でも部活はきちんと参加しなさい。清野さんに確認するから」
「わかりました」
「授業に行きなさい」
授業に戻ると言いつつ、渡辺徹は教室には戻らず調理室へ向かった。
今日は水曜日で、午後最後の授業は週に一度の家庭科、料理か裁縫の授業だ。
調理室にはすでに人が集まっており、一組と四組の合同授業だった。
渡辺徹は国井修とペアになり、さらにクラスの女子二人が加わった。彼女たちが主に作業を行い、二人は下働きをする。
渡辺徹はジャガイモの皮剥きを任された。
「国井くん、彼女はいるの?」山口直美という女子が問いかけた。
「俺?」国井修は何となく驚いたような様子だった。
髪は短く、顔は普通、それにいつも騒いでばかりの性格で、今まで女子にそんなことを聞かれたことがなかった。
「うんうん」山口直美は可愛らしく頷いた。
「ま、まだいないよ」国井修は男子同士のような大雑把さは消え、極端に照れ臭そうだった。
「そうなの。彼女を作る予定はあるの?」
「え?あ、あるかな」
「にへへ、国井くんって面白い」
「そ、そうか?えへへ」
山口直美は今度はジャガイモの皮を剥いている渡辺徹に振り向いた。「渡辺くんは?彼女はいるの?」
「いない」
「本当?じゃあ作る予定はあるの?」
この質問に対し、今日の数学の授業前なら、渡辺徹は迷わずいないと答えただろう。だが今は少しためらった。
「必ずしも作るつもりはないけど、好きな人ができたら、彼女にしてもらいたいとは思う」と彼は答えた。
もう一人の眼鏡をかけた、無口な女子が問うた。「じゃあ渡辺くん、好きな人はもういるの?」
「今のところいない」渡辺は剥いたジャガイモを切り、水で洗ってまな板に置いた。
「ありがとう」山口直美は礼儀正しくお礼を言った。
その時、ステンレスのボウルが床に落ちる鋭い音が響き、調理室全体が静まり返った。
「おい、気をつけろよ!チームを組む時、料理できるって言ってたじゃないか!」
「すみません、玉藻さん、俺が不注意で!」
「余計なこと言うな!早く拾え!」
「はいはい!」
数秒後、調理室は再びにぎやかになった。包丁がまな板を叩く音、シャモットが鍋に当たる音、生徒同士の料理の意見の衝突……
「一組の玉藻好美さんね」山口直美は奇妙な口調で小さくつぶやいた。
国井修は不思議そうに問うた。「山口さん、玉藻さんって女子の中で人気ないんだって?」
「一組に友達がいるの。聞いたら、玉藻さん、よく男子からお金をもらってるんだって」答えたのは眼鏡の女子だった。
「男子からお金を?」国井修は目を見開いた。「どうやって?」
「どうやってって、そんなこと聞かなくても分かるでしょ」山口直美の返事はそこまでで、無限の憶測を残した。
国井修は息を吸い込み、信じられない様子で渡辺徹の側に寄り、興奮して言った。
「現実のビッチだよ、初めて見た!マンガやアニメの話じゃなくて、本物だ!」
渡辺徹も少し驚いた。
前世の大学時代、クラスメイトの女子が社会人の男性の愛人になっていると突然聞かされた時のような感覚だ。
こういうことが存在することは知っているし、受け入れる準備もできていた。だが実際に身近で起こると、やはり心からこう思わずにはいられない。この世界は本当に不思議だ。
渡辺徹は玉藻好美をちらりと見た。同じ制服を着ていても、不思議とおしゃれに見える、非常に可愛らしい少女だった。
って。
彼は国井修のニンジンの下処理を手伝おうと頭を下げかけた時、ふと思い出した。
残り一回だけの探知機を、チームの男子を叱りつけている玉藻好美に向けた。
人物:玉藻好美
知力:5
魅力:8
体力:6
情報:ファッションを追求する;金銭崇拝;顔の悪い人を見下す;貧乏人を見下す
攻略可能
まずまずの味のジャガイモカレーを食べ終え、家庭科の授業も終了した。
渡辺徹は国井修、斎藤恵介と三人で教室へ戻った。
「斎藤、さっき山口さんが俺に彼女いるか聞いて、作る予定あるかまで聞いてきたぞ!」
「マジで!?」
「もちろんだ。信じないなら渡辺に聞け!」
「うん」渡辺徹は頷いた。
「おい、お前の春が来たな!」斎藤恵介は国井修の肩を一拳叩いた。「約束だぞ。一番先に彼女ができた方が、他の二人にご飯をおごるんだ」
「いいぜ!」国井修は叩かれたことも気にせず、嬉しそうに約束を承諾した。
斎藤恵介はまだ信じられない様子だ。「渡辺もいるのに、山口さんがお前を選ぶなんて?」
「国井くんは男らしいから、女子に好かれても当然だ」渡辺徹は言った。
「そうだそうだ!」国井修は勢いよく頷いた。
山口直美が国井修を好きなわけではないが、渡辺徹の言葉は事実だった。
渡辺徹はイケメンだが全体的に痩せていて、体育の授業で恥をかくことも多い。
一方国井修はバスケットボール、サッカー、長距離走と何でも得意で、人気部活の野球部に所属している。体操服を着れば体格も良く見え、好きな女子がいても不思議ではない。
三人はふざけ合いながら四組の教室に戻った。
一組の前を通りかかる時、渡辺徹は玉藻好美が教室の後ろでカバンを整理しながら、数人の女子と談笑しているのに気づいた。
彼はふと一つのことを思い出した。
「小泉先生のフルネーム、何だったっけ?」
山口直美の連絡先をどう聞こうか話し合っていた二人は同時に黙り、「これも知らないの?」という表情で彼を睨みつけた。




