東京イケメンの戦術と高慢な誤解
渡辺徹は再び玉藻好美の答案用紙に目を落とし、自分が課した学習課題を彼女が自発的にこなす可能性を推し量った。
どう考えても、あり得ない。
それほどの自制心があれば、彼女は人間観察部の活動教室にいるはずもなかった。
渡辺徹には、清野凛のように気軽に保護者を呼び出す権限もない。
現場で指導するしかないのか?
できれば彼女と話すことも、顔を合わせることもしたくない。
彼は口を開いた。「玉藻さん、歴史で最も失点が多いのは世界史、特に春秋戦国時代の史実で、全滅に近い状況です」
「ねえ、時々思うんだけど、他国の歴史を学ぶ必要って本当にあるの?」玉藻好美は指で髪をからませながら呟いた。「数学もそうよ、こういう知識って日常生活で何の役に立つの?」
「関連の研究職に就かない限り、知識そのものには実質的な価値はないかもしれない」
「ならなぜ学校で教えるの?」
玉藻好美の美しい瞳は不満そうに渡辺徹を睨みつけ、まるで彼がカリキュラムを決める文部科学大臣であるかのように。
渡辺徹は少しも怒らなかった。彼女のことなど、全く気にしていなかったからだ。
彼は軽口で言った。
「知識自体は無用かもしれない。だが知識点を暗記し、問題を解決する過程は、脳を鍛え上げ、物事を体系的に把握する術を身につけさせてくれる。
学問の究極的な目的は、未来のある日、新たな事物に直面した時、指導も経験もなくとも、それを理解するための思考回路を持つことだろう。そうして人類は世界を解き明かし、自己を磨き上げ続けられるのだ。
俺自身の例で言えば、夢は東京イケメンになること。そのためには前日の自分を超え続けなければならない。体系的な学習法と鍛え上げられた脳があれば、外国語の独学などもスムーズに進む。大体はそういうことだ」
玉藻好美は一分ほど真剣に考え込んだ後、困惑した面持ちで問いかけた。
「さっきから気になって仕方ないの。東京イケメンって、見た目だけ頼りに冗談を言って、女の子のスカートに手を入れるような奴らじゃないの?」
渡辺徹は頭を痛めるように鼻筋を押さえた。すると傍らから清野凛の愉悦な笑い声が漏れた。
彼は横目で視線を送ると、清野凛は手元の単行本に目を落とし、小さく呟いていた。「この部分、面白いわ」
嘘をつかないからといって、都合の悪い部分を隠したり言葉をすり替えたりしないわけではないのだ。
狡猾な女。
彼は視線を戻し、手元の答案用紙をきれいに揃えた。「役に立つかどうかはさておき、追試に合格するためだと思って勉強しなさい」
「でも問題を解くのは嫌だよ。一番嫌いなの、つまらないし」
渡辺徹は考えて言った。「的中予想問題を作ってあげる」
「予想問題?」
「うん」渡辺徹は頷いた。「出題教諭が過去に作成した全ての試験問題を解き尽くした。彼らの出題傾向に合わせて問題を作るから、毎日一枚ずつ解けば、保証する。玉藻さんの追試は最低でもB以上の成績が取れる」
「本当に的中するの?こんなことまでできるの?」玉藻好美は立ち上がり、パイプ椅子が床を擦って鋭い音を立てた。
清野凛は眉を微かに皺げた。
「当然だ」渡辺徹は強い自信に満ちた笑みを浮かべた。「偏差値七十四。小泉先生から東京の名門大学への推薦入学も可能だと言われている。どうだ?」
東京の名門大学は、冴えない男子や政治家ばかりだという誤ったイメージがつきまとう。だが塾生に「志望校を東京の名門大学にしたら?」と言えば、「無理無理!絶対に合格できない、諦めなさい」と返される。
つまりこうだ。東京の名門大学の人柄や容姿を見下しても、その頭脳まで見下すことはできない。
大体はそういうことだ。
だから渡辺徹が先生から推薦入学を薦められていると聞き、玉藻好美は即座に信じた。
「今日、前に会った時とは違う感じがするけど、まあいいや」彼女は顔を渡辺徹のすぐ近くまで近づけて言った。「澈くん、予想問題を作ってくれるよね?私たちの仲なら」
「小泉先生に指導を頼まれているのだから、この程度のことは当然だ」渡辺徹は彼女から距離を置いた。「ただし、問題を解いた後は、解答のプロセスまで暗記しなさい」
「安心安心、答えを暗記しなきゃ、カンニングにならないもの」
「カンニング?まあ、呼び方はどうでもいい。選択肢は二つある。一つはここで待って今日の予想問題を受け取ること。もう一つは今すぐ帰り、明日に二枚ずつ解くこと。二科目なら四枚になる」
「私は後者!桂ちゃんが待ってるから」玉藻好美はランドセルを持ち、風を切るように活動教室を飛び出した。「予想問題、頼んだね、澈ちゃん」
活動教室に再び静けさが戻った。
「東京イケメンはこうやって嘘をつくの?」
「俺はこれを戦術と呼んでいる」
二人は予想問題の話をしていた。
塾の開校から一ヶ月も経っていない。試験範囲は限られている。五日間、毎日一枚の問題用紙を解けば、全知識点を暗記するには十分だ。
玉藻好美は「優等生」「的中予想問題」という言葉に騙されたのだ。
安易な近道を求める者は、古今東西こういうものだ。
「だが認めざるを得ないわ。勉強を指導する方法では、君の方が私より上手だ」
渡辺徹は驚いて清野凛を見た。彼女の印象からすると、自分の劣勢を認めるような人物には見えなかった。
彼が口を開く前に。
「こうやって驕らないところも、私の優れた点よ」少女は長い髪をかき上げ、親しみやすい笑顔を浮かべた。
「……わかったわかった、君が世界一偉い」渡辺徹はランドセルを持ち、立ち上がって帰る準備をした。
「それ、嘘よ。私がそれほど優れていないと思っている?君の無知から私の偉大さを理解できないようなので、説明してあげる。自分より劣る者が特定の面で自分を超えていることを認めるのは、高潔な品性を持つ者にしかできないことよ」
「用事がなければ先に帰る」渡辺徹は彼女がもはや手に負えないと感じた。
小泉先生、これほど自信過剰で他人を見下す奴がここにいますよ。反省文を書かせてください!
清野凛は腕を組み、顎に手を当てた。「これは欲擒故縱?実に低俗な手口よ。こんなやり方で女が騙されるなんて信じられないわ」
ドアの前まで来た渡辺徹は振り返った。「なぜ俺の全ての行動が、君の好感を得るためのものだと決めつけるの?」
「私のことが好きじゃなくても、私の身体を犯したいと思っているのは変わらないわ」清野凛は片手でシャツの襟元を押さえ、もう片方の手でプリーツスカートの裾を押さえた。「要するに男は、そういう生き物よ」
「違う。犯すなどという考えは、毛頭ない」
清野凛は勝利者のような軽蔑の笑みを浮かべ、襟元とスカートから手を離し、優雅に座り直して単行本を開いた。
「ドアを閉めなさい」
くそ!
たとえ無意識に何か考えていたとしても、それは性的なものではなく、人生の尊厳を踏みにじるような侮辱のことだったのに!
女性に下心を疑われ、しかも相手が高みから見下す態度を取るなんて、実に腹立たしい。
渡辺徹は活動教室の引き戸を強く閉めたくなったが、物に八つ当たりするのは東京イケメンのすることではない。
来月、ゲームモールに使い勝手の良い薬品がリフレッシュされたら、この美貌と知性以外何も取り柄のない女に、俺の凄味を味あわせてやる。
渡辺徹はドアをそっと閉めた。




