愛に囚われ、あなたに溺れる
片手の手錠が外れたことで、リリアは少しだけ自由を手に入れた。
(でも……まだ左手は繋がれたまま……)
完全な解放ではないが、それでも彼女にとっては大きな進歩だった。
(このまま油断させて、隙を見て……)
なんとか逃げる機会を伺おうと、リリアは慎重にエドワードの様子を窺った。
しかし、彼はそんなリリアの企みなど最初から見抜いているように、優雅な笑みを浮かべている。
「リリア、そんなに警戒しなくてもいいのに」
「警戒しますよ! まだ片手は繋がれてるんですよ!? それに、さっきの……っ!」
言いかけて、リリアはハッと口を閉じた。
手首に落とされた口づけの感触が、まだ鮮明に残っている。
(思い出したら、なんだか……)
顔がじわじわと熱くなっていくのがわかる。
そんなリリアの反応を楽しむように、エドワードはそっと指先で彼女の頬に触れた。
「さっきの……何?」
「な、なんでも……!」
「ふふ、可愛いね」
エドワードの顔が近づいてくる。
(ち、近い……!)
思わず後ずさろうとするが、左手の手錠がそれを許さない。
ガシャン、と鎖が音を立てる。
「……っ」
逃げ場がないことに気づき、リリアはぎゅっと唇を噛んだ。
そんな彼女の様子に満足したように、エドワードは静かに微笑む。
「……リリア」
囁くように名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。
「……っ」
彼の手がゆっくりと顎を持ち上げた。
強引ではない。けれど、抗えないほどに優しく、自然な仕草。
「……!」
そのまま、唇がそっと重ねられた。
ちゅっ——。
(また……!)
ほんの一瞬の、触れるだけのキス。
しかし、それだけでは終わらなかった。
エドワードはリリアの反応を確かめるように、何度も優しく唇を重ねる。
触れては離れ、また触れて——そのたびに、甘い音が零れる。
「ん……っ」
熱がじわりと広がっていく。
それに耐えきれず、リリアは彼の肩を押そうとした。しかし——
「……だめ」
囁くように言われ、ぎゅっと手を握られてしまう。
(ち、力が抜ける……っ)
拒むどころか、身体が勝手に熱を帯びてしまう。
そして——
「リリア、口開いて」
「っ……!?」
その言葉に、一気に頭が真っ白になる。
「ほら、力を抜いて」
そう囁かれると、まるで催眠術にかかったかのように、唇がわずかに緩んだ。
その瞬間——
「ん……っ!」
ぬるり、と舌が入り込んでくる。
最初はそっと触れるだけ。
けれど、次第にその動きは大胆になり、逃げ場のないリリアの口内を甘く蹂躙していく。
「ん……っ、ふ……っ」
息が苦しい。けれど、それ以上に——
(な、なんか……変な感じ……っ!)
頭がぼんやりとしてきて、思考がまとまらない。
「……ん、っ……」
エドワードの舌が絡みつくたび、全身が痺れるような感覚に襲われる。
それがどれほど続いたのか——
ようやく唇が離れたとき、リリアはぐったりと力が抜けていた。
「……リリア」
エドワードは微笑みながら、彼女の頬を撫でる。
「ねえ、まだ逃げたい?」
「……っ」
リリアは何も言えなかった。
どうして──
(まだ、心臓がドキドキしてる……っ)
彼の腕の中で、まだ自分の体温が落ち着かないことに気づき、リリアはぎゅっと目を閉じるしかなかった。