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期待

 自分の娘だと言うご婦人に目線を合わせるため、 膝を折る。

 ご婦人は涙で顔を汚して、 悲願している姿は母親そのものだった。

 だが、 現実は悲惨なものにしかならない。


「貴方の娘さんは、 鬼化しているので討伐対象になります」

「ちがう!鬼から治してください!」

「今現在、 鬼を治すことはできません」

「私が治すから殺さないで!」


 俺は警備隊に合図して、 連れて行ってもらう。

 俺たちの仕事は鬼退治だ。


「討伐を開始する」

「了解」


 一体で終わらせる為、 素早く退治する。

 三対一の為すぐに、 頭を凍らせて、 茜が銃で頭を破壊する。


「待って待って!!」


 鬼のお母さんは散っていく灰を集めようとするが、 風に舞い消えて行く。

 鬼のお母さんは、 しくしく泣き崩れアスファルトに染みを作る。


「こんなんじゃどっちが鬼か分からないじゃない!」


 俺たちは御婦人に背を向け、 特型警備車に戻る。

 こんなのは日常茶飯事だ。

 日曜日は、 デモ運動のためシグナルの前で人が埋め尽くされる。

 非人道的とヌークが世界を支配するヌークの陰謀だ!といった運動がある。


「毎回あれだと、 心残りがしますね……」

「慣れるしかない。 私たちの使命は鬼を討伐して民間人を助ける事だから」

「あの女性も民間人だけどね~」


 目の前で死を見れるのは、 まだ幸せだ。

 大半は、 行方を捜して、 生きている希望を持って帰りを待っている日々を送り、 精神的に疲弊していく家族を何人も見てきた。

 何が正解か分からないが、 一日でも早く鬼になる現象を解明するのが一番の罪滅ぼしだと思っている。

 特型警備車はシグナルに着き、 自室に戻って報告書を書く。

 俺の部屋は本で埋め尽くされており、 読書が趣味な茜には好都合な部屋だった。

 後の二人には、 つまらない部屋だろうにいつも一緒にいる。

 タブレットから出動命令の音が静かな部屋に響く。

 出動可能のボタンをタッチして準備をする。

 さっきの事が引きずっているのか茜たちは何も言わずに付いてくる。


「報告では、 アルファが出現しているから気を引き締めていくぞ」

「今日は重たい任務が多いですね」

「こんな日もあるさ」


 茜の言葉が先ほどの事件の重さを引きづっている事が分かった。

 だが、 切り替えて行くしかないのだ。

 まだ謎しかない鬼化に雲をつかむ感覚を感じる。

 掴んでもそこには何もない空虚な問題が、 俺たちシグナルを追い詰める。

 特型警備車の中は、 俺の息遣いが聞こえるほど、 押しつぶされる空気で進んでいた。


「ヌーク 武器の所持を許可します」

「八番隊の大槻隊長が対応している」

「鬼の数は?」

「報告では二十体だ」

「また多いですね~」


 俺たちは規制線を越えて大槻隊長の元へ向かう。

 大槻隊長のヌークはアルファを対峙していた。

 だが、 オメガの鬼に妨げられてアルファを退治できないでいた。


「大槻隊長、 応援に来ました」

「お前の到着が遅く感じるほど、 戦況は悲惨だぞ」

「見たらわかります、 俺らがオメガの退治しますので、 大槻隊長はそのままアルファの討伐をお願いします」

「助かる」


 俺は茜たちに、 オメガの退治を命じて後方支援をする。

 六体のヌークが戦う背中を見て、 ここは日本かと疑う。

 特別に武器の所持を許され、 鬼と対峙する世界に少しめまいがする。


「五体のオメガ浄化」

「僕も五体浄化!」

「三体の鬼の浄化に成功!」


 あと七体でオメガの討伐に成功するが、 アルファは未だに暴れていた。

 アルファは一体のオメガを捕まえて、 食い始める。


「まだ喰う気か!」

「二体目喰うとどうなるんですか?」

「わからないから困ってるんだよ!」


 次第に鬼を喰った鬼は一段と大きくなり、 尻尾が生え、 雄たけびも今までにないほどの金切り声を辺りに響かす。

 近くにあった軽自動車をこちらに投げてきて、 交わすと目の前に鬼が迫っていた。

 形態が違えば、 パワーも俊敏さも違うのか。

 俺は捕まえようとする腕を払いそのまま顎にアッパーを食らわす。

 だが、 然程、 効いている素振りはなく、 鬼の尻尾で遠くまで飛ばされる。

 腕の至る所が火傷状態になる。 

 部隊長も防護服着るべきではないだろうかなどと、 考えるが俺らにはヌークがいる。


「いつも通り足に集中砲火!」

「体術なら僕に任せて!」

「私も体術ならできる!」


 昌と八番部隊のヌークが一斉にアルファに近づき体術で応戦する。

 初めてと言うには綺麗なコンビネーションで鬼の関節を折っていき、 近距離で腕と足を凍らせていく。

 ほかのヌークも昌たちに当たらないように打ち込んでくれているので、 次第に右足だけになったアルファに俺は近づく。


「隊長危険です!」

「大丈夫だ」

「再生するかもしれないよ」


 鬼の前で膝を付き鬼と同じ目線になる。

 アルファはこちらを喰らおうと両腕のない体を引きずる。

 その姿はナメクジのようだ。


「お前はどこから来たんだ?」

「お前はなにがしたいんだ?」


 俺の問いに金切り声で鳴くが、 先ほどの威力はない。

 意思疎通はできないと判断し、 茜に討伐サインを送る。

 茜はアルファの頭に銃弾を浴びせる。

 頭を破壊された鬼は灰になる。

 その灰を小さな小瓶に採取して内ポケットに入れる。


「今更、 灰を採取しても変わらないんじゃ……」

「アルファの灰だから何か見つかるかもしれんだろう」


 期待を込めて内ポケットに手を当てる。












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