あの事件から
特型警備車でも煙草が吸えるのは有難い。
煙草を覚えたのは警官時代、 上司から教えてもらった。
それ以来、 止めれずにいる。
俺の精神安定剤みたいなものになっていった。
「新宿で二十体の鬼が確認されている」
「応援ないと、 厳しいですね」
「八番隊がすでに対応しているとの報告があるぞ」
「だったら大丈夫ですね~」
またアルファが出るかも知れないため、 気を引き締める。
現場に着いたら、 規制線の前にたくさんのギャラリーがいて、 特型警備車が進めなかった。
「ここで降りよう」
「はい」
茜たちに武器を持たせて、 規制線に認証して中に入る。
「大槻隊長 お久しぶりです」
「おお!シママキやっと来たか!」
「現状聞いてもいいですか?」
「十五体まで減らして、 増えてなければあと五体だ」
「増えてなければ?」
「規制線張るのが少し遅れてしまったんだ」
ここは新宿だ、想定される事案に仕方ない事だと思った。
「第七部隊が代わりに前線に出ます」
「最後だけ持っていくのずるいぞ」
「二部隊のヌークも消耗しているでしょうに」
「ありがとうよ!」
大槻隊長はヌークに後方支援に行くように呼び掛ける。
代わりに茜たちが前線に赴く。
残り五体、 いつも通りにいけば上手くいくはずだ。
「三体浄化、残り二体目視出来ない」
「見えないの怖いよ~」
「こっちで調べる」
タブレットを開き空にあるドローンから熱感知で鬼を探す。
するとあの黒板を爪で引っ掻く音が響くと同時に辺り一面ガラスの雨が降る。
アルファだ!
「またこの音!?」
「隊長上です!」
「―っつ!!」
俺と大槻隊長は後ろに避ける。
目の前には、 大きな鬼がこちらを見ていた。
やはり、大きさから違うが、殺気も違う。
「隊長!下がってください!」
茜たちがこちらに走りながら鬼に銃弾を浴びせる。
鬼は後退して俺らと距離を取る。
人間を殺すしか能がない様な鬼が、後退するとは驚いた。
戦況を読んでいる証拠だ。知能があるのか?
「足を重点的に撃て!バランスを崩す!」
「なら右足を狙え!こいつの重心は右足だ!」
鬼の生前の癖まで見抜くのは、 さすがわ大槻隊長。
軍人時代がこの人を強く作ったのだと実感する。
「目標物に中々当たりません!」
「私が接近戦で動きを止める!」
晶が得意の接近戦に持ち込む。
鬼が出てる熱に晶の手や足が火傷状態になるが痛覚がないヌークには関係ない。
「晶がいて、 照準が定まらない!」
「僕ごと撃てばいい!」
「皆、 気にせず撃て!」
核がやられなければ、 再生可能だ。
それを分かっての接近戦だ。
近距離で右足に銃弾を撃ちこんでいると、 後退しようと右足に重心を掛けた鬼は崩れる。
芯まで凍って右足が砕け散ったのだ。
晶がそのまま鬼の顎に膝蹴りをお見舞いして回し蹴りで鬼との距離を取る。
「今だ!頭を狙え!」
「了解!」
六人のヌークが頭に集中砲火をして一瞬で凍り付いた頭を茜が蹴り飛ばして辺りはキラキラした氷と灰が混ざり合う。
「鬼が他に居ないか確認する」
「俺が、 確認したらいなかったぞ」
「なら、 任務完了ですね」
俺たちは特型警備車まで戻り、 武器を戻す。
「シママキ部隊長 ヌーク 武器の認識を終了」
ヌークは武器を持つ時としまう時は部隊長の確認が必要とされる。
シグナルでは武器の所持は認められていないため、 こうして管理している。
「シグナルに戻ったら皆、 すぐ修理室に向かうように」
「了解」
「僕、 けっこう頑張った!」
「私、 何も出来なかったです~」
三人は車に乗り込み各々喋っている。
任務が無事終わったからまだ良かったが、 晶に傷を負わせてしまったのは痛かった。
「晶、 すまなかった」
「僕の役目を果たしただけよ!」
「あの時の晶さんかっこよかったです~」
「でしょ!!」
シグナルに着いて、 ヌークを修理室に向かうように言って、 俺は自室で報告書を書く。
タブレットから通知が来る。
開くと誠局長から会議室に来るようにとのメッセージだった。
俺は自室を出て、 殺風景な廊下を歩く。
観葉植物でも置けばいいのにと思うが、 枯らす未来しか見えなかったので頭から消去する。
会議室に着いて、 失礼しますと中に入る。
そこには誠局長と大槻隊長が座っていた。
俺も大槻隊長の隣に座り、 タブレットをテーブルに置く。
「任務帰りですまない」
「いえ、大丈夫です」
「また、 アルファが出たとの報告を受けてな」
もうシグナルでは、 オメガとアルファの名称に報告されるようになったのか。
シグナルでは情報を共有が基本とされており、 俺らが討伐した鬼の事もタブレットから共有できる。
「ドローンから撮影した動画しか見えんが、 何か感じたことはあるか?」
「接近戦では、 後退する素振りもありました」
「知能があると思うか?」
「まだ分かりません……」
「今回の任務で初めて対峙しましたが、 他の鬼より多少ですが、 知能はあると思います。 ですが、 怯えるほどの知能ではなかったです」
大槻隊長が付け加えてくれた。
「そうか……引き続き退治の方をお願いする」
もういいぞと言われ、 会議室を出る。
「アルファの出現で、 シグナルは混乱しているな」
「いきなり現れて、 しかも死者出ていますからね」
「あ~島根隊長か......」
未だに皮膚を食いちぎる音が耳から離れられない。
死にたくないと泣き叫んでた声が薄れて聞こえてくる。
「その件で退職者が沢山でているらしいぞ」
「それはそうですよね......誰も死にたくないですし」
俺には何故鬼になるのか、 それだけが俺を動かしている。
あの件からずっと……。