エロゲ転生、謹慎ですが?
新章開始ッ! ファイッ!
洞窟の奥深く。ルミナスダンジョンの最下層よりさらに下の階層。
そしてもう少しで最深層の…四天王最強が待ち構えているフロアにたどり着くその手前で、俺は仲間と一緒にイベントに立ち会っていた。
モンスターハウスを攻略した一際広いフロアの奥から、コツコツと二つ分の足音を鳴らしながら登場したのは、肌を最大限に露出させた淫魔族と肌の色が変色脱色を引き起こした屍食鬼種の美少女、そして鬣のように金色の髪を上げたイケメンの吸血鬼と、いずれも姫トラでは最上位とも言われる魔族三人。
「どうして…どうしてあなたが!」
背後からお嬢様の慟哭はフロア内の奥からやってきた三人の…特に胸が大きい低身長淫魔に向けられている。
もとから知り合いだったのだろうか? まぁ事実は違うのだけど。
「どうして? それはボクが魔族だからだけど?」
「魔族…? い、いつから…」
「いつから? うーん…ボクがもともと魔族だって言ったら、信じる?」
「元々…」
「そう。生まれながら。もともと魔族だって言ったら…笑う?」
「……」
あっけらかんと割り切ったようにウィンクしながら言い放つサキュバスに、何も言い返せない間宮瑛士。
なお、中の人はシナリオライターに「ヘビ○ラァァァァ!!!!」「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」「ビー〇ーでも圧は12匹分ッッ!!」とツッコミを入れた模様。
なおここまで一言もしゃべっていない主人公―――間宮瑛士だが、もともとモノローグ以外のセリフは少ない。なのでセリフがない以上の問題はない。
「ねー? ボクおかしなこと言った?」
「知らんがな」
「淫乱のニオイが酷くてかないません」
「あら、嫉妬?」
「あなたに妬くほどの価値を覚えませんね。死んで出直してください」
「あーひっどーっ!」
「姦しい……」
キャンキャンと吠えて喧嘩をする二人の美少女に挟まれながら、嫌そうな顔を隠さない男。
これがやれやれ系鈍感主人公……じゃないか。
そして今はVRモードだから目の前で繰り広げられるラブコメ。問題は敵サイドがコメディしている件。
「……お前も、魔族だな」
「そうだがなにか? と答えれば満足か? 英雄」
「なら、倒させてもらうよ、魔族。世界の平和のために」
「そういうことは魔族と対等になってから言うことだ、雑種」
明らかに彼我との差は歴然だが、勇者は魔族相手でも立ち向かう。それが英雄。
「……魔王は滅ぼす。ぼくたちはお前ら如きに躓いていられないんだ」
「羽虫は良く叫ぶもんだ。我ら偉大なる魔族と魔王アルバドン様が居なければ英雄の資格すらもてない小物が良く吠える」
「そんなことはない。ぼくが今代の英雄だ! お前たち魔族を全員倒して世界を平和にする! 英雄はそのために生まれたんだ!」
「そうか。英雄とはカッコいいものなのだな。思想なき戯言だ、実に反吐が出る」
「お前如きが英雄を貶すな!」
「何を異なことを。……ところでいつまで喋ってるんだ? リゼリア」
「あはは☆ごめんねユーくん!」
「ふん…。私のユーフェウス様に媚びを売るのは止めてください」
「あはは。嫌だ」
「…チッ」
短い角を金髪の隙間から覗かせている、ユーくんと呼ばれた切れ目の男にたしなめられたサキュバスの女が小さく頭を小突いて舌を出す。しかし、こちらも短い角を生やした毒々しいショート髪の屍食鬼から注意を受けると、淫魔族は真顔に戻ってゴミをみるかのような視線を送ってこれを拒否。それに苛立った屍食鬼の女が本気の舌打ちで返す。
相手側にしてみればいつものやりとりで、はたから見ればコミカルなシーンだが、金色の光が女に送られる。そしてこの後に起こるのは殺し合いのボス戦。
「さて…誰だっけキミ? まぁ誰でもいいけどね! 魔皇帝ユーフェウスの側近が一人。リゼリアがキミたちの相手してあげるよ。精々、ボクのおもちゃになってほしいな」
触れることすらも悍ましい『黒死』と見るものを錯乱させる金色の『狂気』、そして見たものを釘付けにさせる桃色の『魅了』と、パッシブで巻き散らすそれぞれの色をしたオーラを身の回りに荒れ狂わせながら、ニッコニコと無邪気な笑顔で歩み寄ってくる。
ラストダンジョンの鬼門、通常攻撃が全体攻撃で常時状態異常付与をしてくる何重もの意味でいやらしい四天王の一人。
艶劫朽跋リゼリアとのボス戦が、始まった――――。
「……猛毒と魅了と未来死の即死コンボ状態異常は止めろ…発狂と混乱と憤怒はアカンて…麻痺毒とか死ぬって……」
「起きてください優月さん」
「あっあっあっ。それだめだって……」
「……………(ぼそぼそ)」
「死ぬ、死ぬ…だめ…あかん…逝く…逝クゥゥ…」
「……………(ふぅ~…)」
「ふぁっ!?」
黒死の暴風がパーティ全体を襲ってHPが0になり、目の前が暗くなったと同時に飛び起きた。
なんか最後の風が妙にリアルだった気がするけど…きっと気のせい―――
「おはようございます優月さん。ご機嫌は不快ですか?」
朝起きて布団のそばにルミナスの制服を着た紫髪の許嫁系美少女―――海空かえでに起こされたようだった。
「……最高にDEAD ENDな朝だよ…」
……寝たらまた暴風が襲ってこないかなぁ…。(現実逃避)
☆★☆★☆★
4月の3週目月曜日。
この日の朝に『学園ダンジョン』が解禁される予定となっていて、その日一日でダンジョンの1層を攻略するとうイベントが実施される手筈となっている。
学園ダンジョンとは地下向かいの全50階で構成されたベーシックなダンジョン。ゲーム内では特進科卒業試験、そしてGOODENDの前提条件として立ちはだかる、中ボス的なやつ。当たり前だがアインストダンジョンよりも難易度は高い。あくまで比較すればという話だから難易度自体はそこまで変わらない。ベーシックなダンジョン構成とは、環境が洞窟固定型である点が大きな特徴で、ほかには特殊ダンジョン構成という、階層別に天候やダンジョンマップが決まっている。
決まっている、ということは固定化されているということで、固定化されているということはつまり、マップの詳細が作成してあるということだ。
もちろん、地形可変ダンジョンとか毎層可変ダンジョン、ランダムで全マップモンスターハウスとかいう極悪仕様だってあるのだが…わかってんのかい『ダイタロスダンジョン』くんよ、きみのことやぞ?
とはいえ、学園ダンジョン……だけでなく、基本的にダンジョンについては5層毎に中モンスターかモンスターハウスが、そして10層別に強モンスターで構成されている。もちろんその構成をぶっ壊してくるルールブレイカーダンジョンもあったりするのだが…ご存じの『ダイタロスダンジョン』くんである。
ほんまお前なんなんや。地下全77層で1層からモンスターハウスという可能性もある、とかいう鬼畜さは当たり前、トラップひとつでチームが半壊、下手すれば即死ということもありうるとか、危険度は政府お墨付きと言えばわかるだろうか、いやわかるまい。政府に管理されてはいることすら国から許可が出ないと入れないダンジョンとか。
ほんま『ダイタロスダンジョン』くんには呆れたもんだぉ。
まぁお役所仕事みたいなもので、申請すればだれでも入れるのだが…。一応管理上の名目で、誰がいつ入ったかを管理できればそれ以外はどうでもいいと。国自体がダンジョンに興味がないんだってさ。リターンよりも圧倒的にリスクが高すぎる。ベーシックな学園ダンジョンの難易度を10とすれば、ダイタロスダンジョンは999みたいなもの。あくまでゲームの時の体感だけど、大きく間違ってるわけじゃないはず。この世界でも過去に自衛隊が大規模なチームを組んで攻略に乗り込んだという話があり、そして一日二日とまったが、中に入った人間は誰一人として生還するとはなかったという史実だってある。今となっては夢を追い求めるトレジャーハンターが挑む場所よりも、死刑囚が放り込まれるような場所という意味合いのほうが強い。というか一般的な認識は圧倒的に後者。
とはいえ俺らが挑むことはなく、対外的にもあのダンジョンへ向かうのは『武者修行』という名目を掲げていくのであって、お遊びで行くような場所ではない。むしろあれはエンドコンテンツ用だから一般人含めて近寄る人間はいない、とフレーバーでも言われている。アップデートによって追加された開発がお遊びで作ったともいわれるやーつ。ゲームの時は何かとお世話になったが現実世界でお世話になるわけがない。なったらあかん、なめてもアカン。人生舐めずにアメちゃんください。
話はそれたが、攻略自体は一日目にして順調だという。チームもうそうだがダンジョンの上層は特に弱い敵しかでないため行っても2層までかと思ったけど、想定よりも進みが良い。
俺はいないけど。
ゲームの時はダンジョンにアタックして出てくるまでが一日だったから気にしたことなかったけど…当たり前の話だよな。たった数時間でどれくらい行けるのか、日帰りならどのくらい進められるのかとなってくれば話は変わってくる。そんな数時間で3層まで攻略したらしい。
俺を除いて。
なんと全員の力で3層を突破して4層の5割方の探索が終わったという。なんと班編成も済ませたり入れ替えを行ったりして、コミュニケーションを取りながらクラス全員でダンジョンアタックを楽しめたという。
俺以外。
順調にいけば学園ダンジョンは2年と後半を目安に踏破できるだろうとすら言われている。
俺はいない子扱いで。
「という状況ではありますが、学園創立以来の超問題児と揶揄され…ではなく確固たるものを得た気持ちはいかがでしょう?」
「学園からの課題消化中なんだから邪魔するんじゃぁないよ」
「それは自業自得です。私の関与するところではありませんので」
原則寮内でもほかの生徒と交流してはいけない、と言われているさなかで海空さんちのかえでちゃんは毎日顔を出してはこうやって話を振ってくる。
というか俺、あの忍先輩すらも超えてしまったわけか。何も感慨深くない。
揶揄う? 馬鹿言っちゃいけない。こいつのも説教だ。あの日から毎日毎日。今日一日の報告から始まり、お小言に移行しては最後にお説教。しかも週ごとの先発ローテーションのように、だ。
いやまぁ…怒ってくれる人がいるのはめっちゃありがたいんだけどね。途中途中で煽りが挟まるのはどうなんだろうなって言いたい。今は説教が終わったところだからただの煽りなのだが。
「……外では使用人だなんだとか設定付けてますが、仮にも許婚なんですよ? 私たち。支えるべき旦那がこんなしょうもない事件起こしてどうするんですか」
その点なんだよね、かえでが怒ってるのって。
「だからそれは悪かったって言ってるだろ」
「悪かったで済むなら犯罪者が横行するのもまかり通るので却下です」
「ごめんて」
たまに忘れるけど、一応嫁だからな。10年近くの付き合いにもなるし、お互いに言わなきゃいけないことも言わないようにしてる不思議関係をずっと続けている。
けど俺から言うことはないだろうし、かえでからも言うことはないだろ。どちらにせよ、仮面カップル的な何かだ。あとかえでも4人での関係でなぁなぁにしている現状を気に入っている節もあるから、俺から言うことはない。
「……で、彼女には伝えなくていいんですか?」
唐突に話を切り替えてくるかえでだがいつも通りなので話に乗る。
「急に何の話だよ」
「彼女、ずっと待ってますよ」
「……あぁ。それね、いつかは言うべきなんだろうけども。ひとつは今教えても自殺魔法にしかならんし、もう一個も今の愛莉栖じゃぁ扱いきれんよ。最低でも上級魔法を軽々に扱えるようになってくれないと」
「それをアドバイスするのが優月さんの役目ではないのですか」
表情を変えずに淡々と指摘を続けるかえでは、今は愛莉栖の味方のようだ。
でも。
「それは違うんよかえで」
そうじゃないのよ。アイツの場合は逆効果よ。
「瑛士と…あとは晴臣なら教えるのもやぶさかじゃぁない。百歩譲ってせせりと……いや、それくらいか。魔法使えない組は別としてな。だが愛莉栖に関しては今教えたところで枷にしかならないから教えてないだけ」
「そうですか? 今でも十分詰まっているように見えますけど」
「それは愛莉栖の頭が固いだけ。自分でどうにかしろって話。あいつ自身で足りないものに気づいたときに手を伸ばすなら、その時がようやく俺の出番ってこと」
「はぁ、さようでございますか」
「そういうことだ。それまでは地力を伸ばしてくれってこった」
いまいち納得のいっていないようなリアクションだけど、愛莉栖に関してはイベントを起こすまでは威力が普通より強い魔法使いでしかない。ゲーム上でそのイベントが発生するのは夏真っ只中の学園ダンジョンアタック中だったはず。ほら瑛士。愛莉栖お嬢とのイベントをはよ進めるんじゃ。
「むしろ魔法から離れてみればいいんじゃね。それこそ攻撃魔法じゃなくて回復魔法でも良いし。生活魔法を極めさせるのも面白いだろ」
「……それは優月さんの日課では?」
「魔法で遊ぶのは正しい魔法使いの姿だと思わんかね?」
「いえ思いませんが…」
「それは異端児。魔女裁判待ったなしだな」
この瞬間、裏切りの魔女は焼かれた。(くるくるくる)
「それはともかくとして、もし伝える気があるならお嬢には攻撃魔法以外も勉強しろって言っておけばいいと思うぞ。いっそのことアイツに鞭でも使わせれば?」
「お嬢様ではなく女王様に仕立てるつもりですかあなたは……」
「死ぬほどどうでもいい」
「餌を撒くだけ撒いて放置する飼い主にはならないでくださいませ」
「愛莉栖ならたくましく生きてくれるよ。きっと」
だって夏休み前の期間だとどう逆立ちしても愛莉栖が劇的成長を迎えることはないからな。それなら別のことをやらせても誤差中の誤差。
だから現状は放置一択。(くるくるくる)
晴臣とせせりはあっちから来たら教えようかどうするか。まぁ今のところはいらなさそうだけど。
「ところで左腕は…」
「あれ以降は問題なし」
「魔法を使うなとは言いませんので、せめて闇魔法を使うのだけはどうか。ご自愛くださいませ」
毎度おなじみの話だ。なぜか闇魔法を使うたびに左腕に痛みが走るのをかえでは是としない。かえでだけでなく瑛士や千花も。心配かけるから特訓以外では基本的に使わないようにしてるけど、ついうっかり闇魔法を遊ばせるときもあるため、かえでとの話はいつも平行線だ。
「忠告はしましたからね」
「へいへい」
いつもはスキンで隠している左腕だが、その下には腕全体にまで到達しかねないほどの黒痣に広まっていた。家にいたときだって医者に見せても、命に別状はないけど今まで一度も見たことがない痣だから一生治らないかもしれない、みたいなことも言われたし。そんな中で自愛しろって言われてもね。結局使わなきゃいけないんだからそれで広まるなら仕方ないだろ。極力闇系統は使わないようにするけども。
ちょっとかえでと話をしすぎたし、課題に戻るか。
「では私はこれで失礼しますね」
「あぁ。あったかくして寝ろよ」
「わかっております。優月さんもほどほどに」
空いている手をひらひらと振って返事する。
さて…次は証明か……。ゲームみたいに選択式にしてくれよ。じゃないと答えられへん…。
でもこれさえ終われば、これさえ終われば…残り現国と数学Aに古典と科学と生物、あとは日本史世界史と外来語だけや…。なんやこの量、地獄か? いや自業自得か。
「……ペン回しは、上手になりましたね」
「うっせーわ。なぜかペンが動くんだから仕方ないだろ」
「……はぁ…」
皮肉か? ペンは踊るされど進まずってか?
やかましいわ。
かえでさんにみみふーされて起こされたい人生ですね。




