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新訳/ひめまおっ!?~さらわれたお姫様が魔王になって、世界を幸せにするために奮闘する物語~  作者: クグツ。(創作処かいらい工房)
第二章 東の魔王国を救おう!~正しい力、血濡れの勝利宣言「真なる闘いとは自分に負けないことです。より高く、より美しく舞い踊りましょう」
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第十二声「次から次に減らず口を……っ!?」

 大陸東端イーストフィンの大半を占めるのは超広大な森林地帯であり、不整地な丘陵と山岳地帯が入り混じっている。鬱蒼と生い茂る木々が草々が罠となり、険しい道程こそが天然の要害となる。国土面積自体はアイセンブルグ王国が丸々四つは入るほどに大きい。東へと細長く伸びる陸地は三方を岩壁と大海、それに激しい潮流が守る。出入り口は大きく二つ。空路にて侵入するか、または陸路にて国境を越えること。  


 しかし後者はもう適わない。デモナリアと隣国の間には世界連合が敷いた硬くて高い石壁が陸地を横切っている。この壁により、魔王国は実質的に孤立させられて、長い時間を世界から隔離されている。


 人流は完全に制御されて、一般人が悪戯に迷い込むようなことはない。

 得体の知れない魔王国に潜り込もうという物好きもいないではないが、どれもこれもがデモナリアの非道や恐怖を煽るだけの、都合のよい真実しかもたらされない。


 世界連合の間諜などは正確にデモナリアの実態を掴んでいるのかもしれないが、民衆がそれを知る必要はないのだ。


「世界をひとつにするための必要悪というところですか。怠慢による愚策でしかありませんね」

「世界連合からすれば旨味しかないのだろう。世界の敵を演出することで軍備増強の大義名分を得る。しかもそれを隣国イグリアに丸投げ管理させている」

「彼の鷹王様もとんだ貧乏くじを引かされたものですね」

「俺の口からは何とも言えんな。まずもって俺たちの奇異なる姿は恐怖の対象でしかないからな」

「そうかも知れませんが、この際はっきりと申し上げますわ魔王様!」

 小さな少女は漆黒の美丈夫の顔、その頭部を指さして高らかに宣言する。


「わたくし、その角は非常にカッコ良いと思いますわ!」

「そうか。なれば姫君用にも角の着いたティアラでも用意させよう」

「是非に!」

 少女は満面の笑みを浮かべ飛び跳ねる。

 魔王は席に着いたまま、可笑しそうに笑う。

 その他にも数名が卓を囲むようにあるが、誰もが小さな少女を訝しげに観察するだけだ。唯一小さく溜息をついたのが、大きな帽子を被った魔女だった。


 どういう精神構造をしているのであろうか?と、考えずにはいられない。

 ついぞ数日前までは雪氷の母国にあって、ほんの昨夜魔王国が王城に到着したばかりのたかが小娘。客分の身で魔王城を徹夜で歩き回り、興味津々に好奇心を満たしていったかと思えば、元首と幹部とが意見を交える場に乗り込んできたのだ。


 まるで我が物顔。小娘は未だに母国で王女であったことを忘れられないのか、デモナリアの王城においても姫然として振る舞っている印象がぬぐえない。

 幾人かの魔物がどういうわけか主人に仕えるかのように小娘に従っていることも気に入らない。夢魔サキュバス虎獣魔ストラタイガーに、髑髏魔術師リッチーまでもが元王女に自ら付き従っていた。


 帽子の魔女が夢魔を冷やかに睨むと、彼女は怯えて小娘の背後に身を隠す。そんな様を見たくて睨み付けたわけではないのだと、再度溜息を吐いた。

 結局は、デモナリア魔王国が元首様が許しておられる。その事実が全てなのだ。その様子を面白いとは思っていない幹部は魔女だけではない。厳しい顔つきの鎧騎士、敵意をむき出しにする獣人、小娘を見向きもしない軍師。いづれもが魔王への絶対的な忠義を持っている。


 だからこそ、外部より連れてきた元王女の存在を冷やかに見ていた。捕虜や人質なら牢にでも隔離するべきと、口にこそ出さないが皆が魔王の真意を図りかねていた。


「姫君、好奇心も良いが長旅での疲れもあるだろう。部屋の用意はできている。湯浴みでもして、ゆっくり休むといい。君にはこれからいくらでもその身を粉にしてもらうつもりだからな」

「う~~~~ん、そういたしましょうか。さすがにこのドレスはもう着れませんからね」


 母国で最も気に入っていた桃色の一枚着。ただでさえ着続けていたものが、暗殺者・魔王との戦いであちこちが解れ、破れ、裂け、汚れてもうくたくたになっている。


「コーディニアス、姫君にいくつか衣装ふくを見繕って差し上げろ」

「はっ? 私がでしょうか」

「勝手に選ばせると、どういうことになるかは想像に難くない。巧く選んでやれ」


 確かに、と魔女は頷いてしまう。好奇心爆発な小娘と諌めることなどできない夢魔の二人で服選びなどさせてしまえば、王城の衣装箪笥がひっくり返されてしまいかねない。


「承知いたしました」帽子魔女、コーディニアスは恭しく頭を垂れてから元王女を会議殿より連れ出した。

「他国の会議に参加するというのは新鮮で楽しいものですね、コーディニアスさん!」

「こちらへ」満面の笑みにも魔女は冷淡に言葉を返し、さっさと歩きだした。


 ルインネイスは気にした風もなく、魔女のあとをひょこひょこと着いていく。さらに夢魔が続く。

「案外女性の数が少ないのですね。わたくしがお見かけしたのはコーディニアスさんとこのロブエルちゃんとあと何人かでしたし」

 魔女は無言で足早に廊下を曲がる。


「でもこちらのお城の維持管理は男性の方々もなさっているのでしょうか?」

 魔女は応えない。離れにある衣装殿までを背後にいる二人をいないかのように扱っていた。滅多に開かない部屋の錠を解き扉を開くと、埃が舞い立った。


「あなたの体型に見合うものがあるかは存じ上げないが、好きに選ぶといい」魔女は腕組みし、壁に背を預けてしまう。いぶかしげな眼光だけはしっかりと元王女に向けられている。


「開かずの衣裳部屋なんてワクワクするじゃありませんか! ロブエルちゃん、窓を全部開けてから探検しましょう!」


 浅黒い肌の夢魔は名を呼ばれて嬉しそうに薄羽をはばたかせるも、魔女の視線に竦んでしまう。なるべくルインネイスから離ようとしない。別に夢魔をどうにかしようとは考えてはいないが、はっきりと避けられると思うところも出てくる。が、コーディニアスが知る限り、夢魔の境遇は恵まれているとはとても言えない。特別な才覚のない彼女にできるのは夜伽くらいのもの。城内では侍女の真似事を任されてはいるが、実体は常駐の慰安婦。モノのように扱われることが日常。


 夢魔には元王女が新鮮で物珍しいのか。同性の王城仕えは数が少ないから親近感を覚えているのか。


「ロブエル、そんな名前だったわね」きっと以前に聞き知っていたはずなのに、忘れてしまっていたことが魔女の心中に突き刺さる。

 感傷に浸るほどではないものの、政治と軍事以外の些末事に考えを巡らせたのも久々だったと自戒し、ふと床に落ちていた視線を二人に戻す。


 山、山、山! 古びた衣装の数々が魔女の背丈よりも高く積みあがっていた。


「な、なにをしているのですかあなたたちは!」

「あまりに古くて汚れも目立つので、お洗濯をしようということになりまして」

「なりまして、とは一体どういう」

「こちらの衣装、仕立ては良いものが多いですが、管理がいまいちなので傷みが酷いです。補修できるものは補修して、ダメなものはいっそ再構築リメイクいたしましょう!」

「勝手に決めないで頂きたい! そもそもここはデモナリア魔王国、我々の国で、あなたはただの客分! 魔王様は着替えを用意するという一点でのみ貸与を許可されただけで、ここを自由にしてよいなんて一言も」

「では、許可を貰いに行きましょう。あの方は聡明で遊び心もおありなので二つ返事で許可下さるでしょう」


 駆け出そうとする元王女。魔女は細い白磁腕を取りの引き止める。

「待ちなさい! これ以上の無礼を働くというのでしたらわたしにも考えがあります」

「無礼を働いた覚えはありませんが、コーディニアスさんの考えには興味がありますのでぜひ聞かせて頂きたいです!」

「くっ!」この小娘が!とは喉で止めることができた。


 なにを期待しているのかキラキラと目を輝かせる元王女が忌々しいと、魔女は握った拳を震わせる。引っぱたいてやりたいが理由がない。主たる魔王に露見するのもばつが悪い。そもそも魔女は、自身が何に対して怒っているのかさえわかっていなかったのだ。


「コーディニアスさんは何を怒っていらっしゃるのですか?」

 見透かしたように疑問を被せてくる小娘に心底腹が立つ。何も知らないような表情で見上げる様は、どうにも胸中がざわめき、苛立つ。


 幾度かの深呼吸で、強制的に頭を冷やす。

「部外者が王城に手を加えるのは不躾ではないですか?」

「わたくしは部外者なんですか? たしか客分での滞在を許可されていたと記憶しておりますが」

「客分はあくまで客分、部外者です」

「アイセンブルグでは客分であっても家族のようにお迎えしておりましたよ?」

「それはあなたの祖国の話に過ぎません。ここでは当てはまりません」

「魔王様、この国の元首様がそう仰っているのですか?」

「仰らずとも理解できます。わたしがあの御方とどれだけ共にいたと」

「わたくしはついぞ数日前にお会いしたばかりです。ですが言葉を交わし、剣を交えて、少しは魔王様のお考えを垣間見ることができました」  


 イラ! あどけない無邪気な表情で頂上マウントを取る小娘に憎悪を抱く。


「魔王様は衣裳部屋のひとつやふたつどうなろうが意に介さず、一笑に付されるでしょう。ましてや片付けや大掃除なれば、尚問題はないはずですよね?」


「次から次に減らず口を……っ!?」言葉にしてから魔女は口を押さえる。生意気な小娘に対して感情が溢れた。平時の彼女らしくなく気まずさを覚えたが、当の客分元王女はケロリとしている。


「わたくしの口は確かに減りはしませんし、フリザニス叔父様とも散々言い争いはいたしました。でも、埃塗れはコーディニアスさんも嫌でしょう? 例えばその素敵なお帽子やガウンがこの部屋で管理されるとなるとどうです? 掃除くらいしろと言いたくなりますよね? 汚いよりは綺麗な方が良いですよね?」

「それは、その通りですが」

「もちろん、コーディニアスさんの私室をどうこうするとかではありませんよ! 先ずはこの衣装殿です! ここには男性もの女性もの問わずに適当に投げ込まれていました。捨てるのも管理も面倒だから長い間放置されていたのだとお見受けいたします。であれば、ほんの少し最適化することは悪い事とは言い切れませんよね、コーディニアスさん?」


 まるで蛇。巨大な蛇が周囲に蜷局を巻きながら満面の笑みで滲み寄る如く、会話の流れが支配されていた。

 たかが衣装殿の管理についてなど、本来魔女にとってもどうでもいい案件。昨日今日きたばかりの新参者(正確には人質)に勝手をさせないよう嗜めたかっただけのこと。議論に意味はないだろう。小娘は諦めないし、魔女もこれ以上感情的になりたくはなかった。


「熱意はわかりました。衣装殿の件はわたしから魔王様に申しあげておきます」

「わかって頂けて光栄です!」

「ですが、現状この王城にて手透きはあなたお一人だけ。こちらの夢魔や他の者を手伝わせるわけには参りません」

「当然ですわ! 魔王様方には政に邁進して下さいませんとね! 不肖ルインネイスがこの衣装殿を見事に綺麗にしてみせます!」


 魔女は小さく溜息をついた。


「道具などは」

「大丈夫です! 少し前に納戸を見つけて中を確認いたしました! あちらをお借りできればと」 「わかりました。ではルインネイス、この件はお任せしましたよ」

「はい! お任せ下さい!」

 魔女は踵を返した。おろおろするだけの夢魔は、魔女に呼ばれたために名残惜しそう気に、命に従った。


「さてと、魔王様やコーディニアスさんを驚かせましょうか! 大大大改造です!」

衣装部屋のくだりとか、全く構想になかったとか、良くあります( ≧∀≦)ノ

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