第1話 そんな話は聞いてない!
大塚大樹は眩い光の中にいた。
6人の中でも気の小さい大樹は必死に目を閉じ、耳を塞いで小さく丸まり、今自分がどうなっているのかを把握しようとせずにひたすら現実逃避に走る。
そんな中、大樹の頭に直接声が響いた。
『やっと見つけた』
ビックリした大樹は思わず目を見開くと、そこには小さな、手のひらサイズの人がいた。
金色のボリュームのある髪を緑のリボンでポニーテールにして、サファイアのような濃い黄色の瞳をした、間違いなく日本人ではない顔立ちをしている女性。
まるでピーターパンのような緑色の布製の出で立ちをしている……小人。
よく見れば後ろに透明な羽が生えているように見え、それがひっきりなしに動いている様子を見ているとパタパタ、と音が聞こえてくるようだ。
大樹はこれは夢なんだな、と納得すると再び目を閉じようとする。
『これは夢じゃないわ!』
そう言われて、自分の考えが見透かされている事に気付いた。
「僕の考えてる事が分かるの!?」
『えぇ。分かるわ。ごめんなさい、いきなりで申し訳ないんだけど、私達を助けて!』
「え? いや、助けてって言われても……っていうか、みんなはどうしたの!?」
『みんな? もしかして、近くにいた人たち? それなら、多分近くにいるはずよ』
「そうなんだ。良かった…………って全然良くないよ! 一体これは何!? どういう事なの!?」
『あなたはある人達に呼び出されたの』
「えっと………………誰が呼び出したのか知らないけど、これからちょっとゲームしないといけないんで……」
『お願い! 真面目に聞いて! 今私達の世界では、精霊の力が弱まってきていて、邪悪な悪王が復活しようとしているの! もし悪王が復活したら世界が崩壊してしまう!』
「世界って……どこの世界? 僕達がいた世界じゃないんでしょ? そんなの聞いたことないし」
『えっ、そうだけど……』
「というか、何で僕達なの?」
『それは──分かりません』
「分からないって……他の人にも話したの?」
『いいえ、あなただけです』
「何で? っていうか、別に僕じゃなくても健治先輩とかに事情説明すればいいと思うんだ。そっちの方が話が早く進むよ? 多分ノリノリで世界を救うと思う」
『えっと……それは、あなたが一番近くにいたから……』
近い? と大樹は心当たりを探す。間違いなく先程座っていた位置が関係しているのだろう。そして、心の中で毒づいた。真ん中に座らなきゃ良かった、と。
そして同時に、何で僕だけがこんな目に、と呟くと一層帰りたい気持ちが強まった。
「とにかく、僕達に関係ないんだから元の場所に戻してよ!」
『そんなっ!』
小さな精霊が悲痛な顔で大樹を見ると、周りの風景が塗り替わっていった。
今までの温かな光の中にいた時とは違い、今いる場所は見上げれば曇天。下は乾いてくすんだ大地。周りを見れば崩れかかっている支柱が至るところにあり、それはまるでヨーロッパ地方で見るような朽ちた神殿らしき場所だった。
風もなく、音もない目の前の光景に、何かおかしな違和感を覚える。
言葉に言い表せないが、何かが引っかかる、あるべきものがない、そんな予感にも似た胸騒ぎと言い知れぬ不安を確かに感じる。
「ぼ、僕……帰れるんだよね?」
『それは──』
大樹が尋ねると、小さな妖精は目を伏せる。
「みんなは!? どこ行ったのさ!?」
心の中で形作られていく不安に押し潰されないようにと、無意識に声を張り上げて大樹は妖精に詰め寄った。
『他の人達は、近くにいる。でも、ここにはいない』
「フザケないでよ! ここはどこ!? みんなに会わせてよ!」
『ここ……ここは、光の精霊が住む……聖域よ』
妖精が弱々しく呟いたその言葉に、大樹は声を失った。
聖域? 聖域ってなんだ?
この妖精の言った言葉を吟味する。
この不安になるような陰鬱とするようなそれに朽ちたような場所が、光の精霊が住む場所なのか、と。
そんなハズがない。
今までしてきたゲームでは光といえば眩しくて、柔らかくて……先ほどのような場所であるのが相場だ。なのにここは……まるで廃墟。
いくつか可能性を考えて、一番そうで合ってほしくない、否定して欲しいという願望を込めて、一つの可能性を口にした。
「光の精霊がもういない……の?」
その言葉に目を伏せる小さな精霊。
その態度で、目の前にいる精霊が、同族を失ったことを肯定していた事で、かける言葉を失う。
「でも、だからって……」
『聞いて。もうすぐあなたは現界する。私はその世界の人達の願いを汲んであなた──いえ、あなた達を連れてきたの。確かにここは夢の様な所だけど夢じゃない。現実です』
「は? 言ってる意味が分からないんだけど」
『ここは実際にある場所じゃないの。でもあなたはここにいる。夢を見ているわけではないの』
精霊の言葉に頭の上にクエスチョンマークを浮かべる大樹。
精霊の方もどう言えばいいか言葉に詰まっているようで、明確な説明を出来ないでいるのを、もどかしく感じているようだった。
『とにかく、あなたはこれから知らない世界に行くの。そして、その世界を救って欲しいの!』
「えっ? 帰れないの!?」
『おそらく……今は』
返された答えに、えぇーと大きく肩を落とす大樹。
「みんなは?」
『おそらく……あの光に手をかざした人たち全員が、こちらの世界に召喚されると思います』
「そっか……世界救ったら帰れるの?」
『世界を救えば精霊に力が戻りますので、そうすればあるいは……』
精霊も絶対の自信があるわけではないのだろう、大樹から視線を逸らしながらそう答える。
大樹はもうきっとこいつに聞いても有力な答えは返ってこないのだろうと諦めをつけると、溜息をつく。
「やればいいんでしょ。やれば……っていうかまるでゲームみた……い……」
と自分の呟きに何かを見出した大樹は声を弾ませて、自分に言い聞かせるように独り言を呟く。
「そうだよ! これってゲームとか小説みたいな展開だよね! っていう事はやっぱり全クリすれば元の世界に帰れるんじゃん?」
なーんだ、と自己完結した所で精霊と向き合う。
「その世界に呼ばれたのはほんとに、すっごく、かなーり迷惑だけど悪の親玉を倒せばいいんだよね? やるよ!」
えらく自信たっぷりに主張する大樹を見て、精霊はパッと花が開くように顔を綻ばせた。
『ありがとうございます! では私の手に手を合わせてください』
そう言って右手を差し出す妖精。
その言葉に従って、大樹も左手を差し出した。
自分の考えてる通りなら、帰れる方法はある。みんなが自分と同じように向こう側へ行ってるのなら、どうにかして合流すれば一安心だと思う。
何だかんだで面倒見が良くて、飽きない楽しい人たちなので、一緒にいたいと思うメンバー達。
みんなと一緒なら、何があっても安心できる気がする。
とりあえず近くにいるであろうみんなと一刻も早く話がしたい。
大樹は緊張する胸の鼓動を抑えるように目を瞑ると、深く息を吸って吐き出した。
『それでは自分の手に意識を集中させて、私の言葉に続いて下さい』
「分かった」
『空を束ねたる祖は父なる神』
「空を束ねたる祖は父なる神」
『今ここに父の恩恵を受けること願わん』
「今ここに父の恩恵を受けること願わん」
『海に宿りし母なる神』
「海に宿りし母なる神」
『今ここに母なる愛を受けること願わん』
「今ここに母なる愛を受けること願わん」
『我、世界を守りし新なる子なり!』
「我、世界を守りし新なる子なり!」
その瞬間、二人の合わせた手から光が溢れ、二人を包んだ。
◇ ◇
「あれ? ここは?」
光に包まれていた感覚がなくなり、大樹がゆっくり目を開けると、そこは薄暗い建物の中だった。
足元を見ると、ゲームやアニメでよく見かける円の中に色々書きこまれたものがある。
「これって……魔方陣、だよね?」
自分の足元をまじまじと見る大樹。そして、その姿を見て歓喜する言葉が耳に入った。
「おぉ! 勇者様の降臨だ」
「伝説は本当であったか!」
「これで世界は救われる」
頭からすっぽりと白い布を被った得体の知れない人たちが5人ほど大樹を見て歓喜の声を上げていた。
見慣れない人たちに、見慣れない風景。
少なくても日本人に見えない人達と言葉がやり取りできる不思議を置いておいて、聞き捨てならない言葉が聞こえ、嫌な予感が体を伝う。
元よりそんなに頭が働かない方であったが、なんとか自分の今ある状況を確認しようと、目の前の見慣れない不審者たちに尋ねる。
「あの……今なんて?」
「勇者様、ぜひともこの世界をお救い下さい!!」
いつの間にか、大樹は勇者になっていた。




