第四十五話 最深部の正体
黒い人影。
その顔は。
神崎悠真だった。
悠真の呼吸が止まる。
結衣も目を見開く。
レンが後退する。
「……は?」
先行保持者だけが、静かに目を閉じた。
「やっぱり、そうか」
悠真が振り返る。
「……何を知ってる」
先行保持者は苦しそうに笑う。
「最初から、違和感はあった」
黒い太陽が脈打つ。
“最深部”の顔が揺らぐ。
今の悠真。
幼い悠真。
壊れた悠真。
無数の“神崎悠真”が混ざっている。
巨大な目が静かにそれを観測している。
そのたびに、“最深部”の輪郭が固定されていく。
「やめろ」
“最深部”の声が震える。
「私は観測されない」
「私は“外側”だ」
先行保持者が低く言う。
「違う」
“最深部”が止まる。
先行保持者は悠真を見る。
「お前は、“最初に壊れた神崎悠真”だ」
静寂。
世界が止まったみたいだった。
悠真の瞳が揺れる。
「……何だよ、それ」
先行保持者が空を見上げる。
「最初の世界で、結衣は死んだ」
「その時、お前は耐えられなかった」
景色が流れ込む。
病室。
泣き叫ぶ少年。
“結衣を返せ”。
その願い。
その絶望。
そして。
“世界を拒絶した”。
先行保持者の声が続く。
「その瞬間、お前は観測世界から外れた」
レンが息を呑む。
「……非観測化」
「そうだ」
先行保持者は頷く。
「“結衣がいない世界”を拒絶した神崎悠真は、“世界そのものの外”へ落ちた」
黒い太陽が揺れる。
“最深部”が叫ぶ。
「黙れ」
空間が裂ける。
だが。
巨大な目が見ている限り、“最深部”は暴走できない。
先行保持者が悠真を見る。
「お前は、“壊れた未来のお前自身”なんだ」
悠真の頭へ記憶が流れ込む。
何度も。
何度も。
何度も。
世界を壊した。
結衣を取り戻そうとして。
観測を拒絶して。
存在の外側へ落ちて。
それでも。
“忘れられなかった”。
悠真が膝をつく。
「……俺、なのか」
“最深部”が笑う。
悲しそうに。
「そうだ」
その声は、今までで一番人間らしかった。
「私は、お前だ」
結衣が涙を流す。
「兄貴……」
“最深部”が結衣を見る。
その目だけは、優しかった。
「全部、お前を消させないためだった」
静寂。
その瞬間。
巨大な目が、再び瞬いた。
次の瞬間。
“最深部”の身体に、ヒビが入った。
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