第三十七話 固定世界
脈動。
黒い太陽が鼓動するたび、世界が揺れる。
白かった空間へ、“色”が戻り始めていた。
青空。
風。
雲。
消えたはずの“空”が、再構築されていく。
レンが顔を歪める。
「嘘だろ……」
先行保持者も言葉を失っている。
悠真の前。
“最初の結衣”が立っていた。
輪郭は安定している。
ノイズがない。
消えかけてもいない。
完全に固定されている。
結衣が空を見上げる。
「……綺麗」
その声に、悠真の胸が締めつけられる。
ずっと見たかった。
“消えない結衣”。
その願いが。
今、叶っている。
スマホが震える。
【禁則対象 固定確認】
【世界再定義 開始】
レンが叫ぶ。
「離れろ!!」
次の瞬間。
空が割れた。
青空の奥。
巨大な無数の目が開く。
観測者たち。
今までより遥かに多い。
空全体が、“目”になっている。
「固定化を確認」
「危険度:測定不能」
結衣が悠真の服を掴む。
少し怯えている。
悠真は前へ出る。
「また消すのかよ」
観測者たちは答えない。
代わりに。
空そのものが、“閉じ始めた”。
先行保持者の顔色が変わる。
「まずい」
レンが叫ぶ。
「世界ごと潰す気だ!!」
その瞬間。
空から巨大な圧力が落ちる。
街が沈む。
ビルが潰れる。
道路が割れる。
観測者たちが、“固定された結衣”ごと世界を消去しようとしていた。
結衣が震える。
「兄貴……」
悠真は結衣の手を握る。
「大丈夫だ」
そう言った瞬間。
黒い太陽が、再び脈打つ。
世界が止まった。
空の目たちが静止する。
崩壊も止まる。
風も止まる。
悠真だけが動ける。
いや。
結衣も。
二人だけが、止まった世界の中に立っていた。
結衣が小さく呟く。
「兄貴」
「これ、駄目なやつだよ」
悠真は息を呑む。
結衣は空を見上げる。
「私、分かるの」
悲しそうに笑う。
「今の私、世界より重い」
その言葉。
悠真の背筋が冷える。
固定された神崎結衣。
それは、“一人の人間”じゃない。
無数の世界の結衣。
無数の記録。
無数の可能性。
全部を統合した存在。
つまり。
“世界そのもの”に近い。
結衣が悠真を見る。
「兄貴」
「私がいる限り、世界が壊れる」
悠真は即座に首を振る。
「違う」
結衣が泣きそうに笑う。
「やっぱり、そう言うよね」
その瞬間。
静止していた空に、“亀裂”が入る。
観測者たちが、強制的に停止を破ろうとしている。
先行保持者の声が響く。
「悠真!!」
「決めろ!!」
空が砕ける。
観測者の巨大な声が重なる。
「最終選択を要求」
悠真の前に、二つの光が現れる。
一つは、結衣。
もう一つは。
“元の世界”。
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