第二十七話 外側の世界
先行保持者の手が、悠真の目の前に差し出されていた。
その向こうでは、空が崩れている。
無数の目。
無数の世界。
そして、無数の“自分”。
篠宮が叫ぶ。
「行くな!」
悠真は振り返る。
篠宮の表情には、今まで見たことのない焦りがあった。
「外側に出れば戻れなくなる!」
先行保持者が小さく笑う。
「まだそんなこと言ってるのか」
「戻ったところで、また繰り返すだけだろ」
その言葉に、篠宮が黙る。
否定できない沈黙だった。
悠真は空を見上げる。
無数の世界。
崩壊した現実。
その全部に、自分がいた。
毎回。
結衣を失って。
抗って。
壊れて。
それでも。
“忘れなかった”。
悠真はゆっくりと口を開く。
「……外側って何だ」
先行保持者の目が細くなる。
「観測の外だ」
その瞬間。
世界が軋む。
空の巨大な目が、明確に反応した。
「接触禁止領域」
「外部干渉を確認」
先行保持者が笑う。
「ほらな」
「観測者は“外”を隠したがる」
外側
悠真が手を伸ばす。
先行保持者の指先に触れた瞬間。
世界が反転する。
音が消える。
重力が消える。
色が消える。
そして。
“空”そのものがなくなった。
悠真は息を呑む。
そこには。
世界が浮かんでいた。
球体。
無数の球体。
光るもの。
壊れているもの。
停止しているもの。
それらが、暗闇の中に並んでいる。
「……何だよ、これ」
先行保持者が隣に立つ。
「観測世界」
「俺たちがいた場所だ」
悠真の背筋が凍る。
つまり。
今まで“世界”だと思っていたものは。
巨大な空間に浮かぶ、一つの箱でしかない。
観測装置
さらに奥。
巨大な構造体が見える。
歯車のように回転し続ける、光の塔。
無数の線が世界へ繋がっている。
先行保持者が言う。
「あれが観測装置だ」
悠真は理解できない。
「装置……?」
「観測者は神じゃない」
先行保持者は静かに続ける。
「“管理者”だ」
「世界を維持するために、観測してるだけ」
悠真の頭が真っ白になる。
世界は自然に存在していたわけじゃない。
“管理されていた”。
結衣の正体への接近
その時。
一つの世界が、激しく点滅しているのが見えた。
他より不安定。
崩壊寸前。
そして。
そこには必ず、“結衣”がいる。
悠真が呟く。
「なんで結衣だけ……」
先行保持者の顔から笑みが消える。
「結衣は、本来ここに存在しない」
空気が凍る。
悠真は息を止める。
「……は?」
存在しないはずの少女
先行保持者が世界群を見つめる。
「観測装置に、“神崎結衣”という記録はない」
「なのに毎回現れる」
「だから観測が壊れる」
悠真の呼吸が乱れる。
「じゃあ結衣は何なんだよ」
先行保持者は答えない。
代わりに、遠くを指差した。
そこには。
真っ黒な世界があった。
光もない。
音もない。
完全停止した世界。
しかし。
その中心にだけ。
一人の少女が立っている。
結衣だった。
悠真の心臓が跳ねる。
「……結衣?」
その瞬間。
観測装置全体が激しく警報を鳴らす。
【外部領域への接触を確認】
【禁則対象への視認発生】
【強制遮断開始】
先行保持者が叫ぶ。
「まずい!」
世界が崩れる。
暗闇が裂ける。
無数の観測線がこちらへ伸びる。
そして。
黒い世界の中の結衣が、ゆっくりこちらを向く。
初めて。
本当に初めて。
“観測されていない結衣”が、悠真を見た。
「……やっと来たね、兄貴」
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