第二十四話 禁則記憶
夜風が吹いていた。
だが神崎悠真には、その感覚すら遠かった。
頭の奥で、“知らない自分”の記憶が流れ込み続けている。
教室。
夕暮れ。
笑う結衣。
そして。
“見捨てた”。
悠真は壁に手をつく。
呼吸が乱れる。
「……違う」
だが否定できない。
その記憶の中の自分は、確かに結衣を置いて逃げていた。
篠宮が近づく。
「その記憶は修正済みだ」
悠真は睨み返す。
「修正って何だよ」
篠宮は苦しそうに言う。
「“見ないようにした記憶”だ」
スマホが震える。
【禁則記憶 接触中】
【観測汚染率:上昇】
悠真は眉をひそめる。
「禁則……?」
篠宮は静かに答える。
「観測者に知られてはいけない記憶だ」
再び断片が流れ込む。
雨。
崩れる空。
泣いている結衣。
そして。
“もう一人の悠真”。
先行保持者が、雨の中で言っている。
「選べ」
目の前には二つの存在。
崩壊する世界
消えかける結衣
そして。
“自分は結衣を選ばなかった”。
「……なんでだ」
悠真の声が震える。
「なんで俺は……」
篠宮が目を逸らす。
その反応だけで分かる。
知っている。
篠宮は小さく呟く。
「お前は世界を優先した」
悠真の思考が止まる。
「結衣を残せば、世界が壊れた」
夜の空気が重くなる。
篠宮は続ける。
「だからお前は、自分で選んだ」
“結衣を切り捨てることを”。
その瞬間。
悠真の中で何かが砕ける。
空が歪む。
街灯が割れる。
世界が“悠真の感情”に引っ張られ始める。
スマホが激しく点滅する。
【観測異常】
【記録保持者 感情暴走】
【現実改変を確認】
篠宮が叫ぶ。
「落ち着け!」
だが悠真には届かない。
悠真は理解してしまう。
自分は一度、結衣を見捨てた。
そして。
その選択を後悔し続けている。
だから記憶が消えても、“結衣を忘れられなかった”。
空の巨大な目が動く。
「原因個体を確認」
初めて。
その視線が“結衣ではなく悠真”へ向く。
篠宮の顔色が変わる。
「まさか……」
スマホに通知。
【観測対象 更新】
【神崎結衣 → 神崎悠真】
悠真が顔を上げる。
空が、自分を見ている。
頭の奥で、“もう一人の悠真”の声が響く。
「やっと辿り着いたな」
その瞬間。
新しい記憶が解放される。
そこには。
“結衣を殺した自分”がいた。
悠真の呼吸が止まる。
スマホに最後の通知。
【禁則記憶:最深層 接近】
【観測者の注視を確認】
読んでいただきありがとうございます。
感想・評価励みになります。




