MERCILESS DESTINY
冬木(光助)の話です。
彼は蓮が姉であることを知っていて、とても苦しみます。だからこそ、彼女に助けてほしいと願っていたのです。事実、蓮にしか弟を救い出すことは出来ませんでした。
――彼女と会ったのは、本当に偶然だった。
五月の連休の時、知り合いのおすすめの喫茶店に足を運んでみると、そこに黒髪の少女が働いていた。
彼女――成雲 蓮はご令嬢ながら立派に働いていた。冬木は彼女に話しかけると、さすが秀才、話が合った。
……いや、当然だ。だって自分達は双子の「姉弟」なのだから。
目の前の彼女は、何も覚えていないらしい。幼い頃に遊んだことも。
幼い頃に養父に引き取られたが、時々、蓮といとこの兄のところに遊びに来ていた。
「ねぇ、姉さん。次、いつ会えるかな?」
弟が尋ねると、姉は「いつかな……?」と考え、
「ぼくも、断定出来ないけど……遊びに来たら、いつでも遊ぶよ」
そう言って、笑ってくれたことを思い出した。いとこの兄も、「そうだよ、なぎと」と笑いかけてくれた。
「……冬木?どうしたんだ?」
蓮は冬木の顔を覗き込む。その顔は、かの日の少女の面影を残していた。
「いや、何でもないよ」
「そうか?」
二人は今、チェスをしていた。冬木がしたいと言ったからだ。
――昔は、よく将棋をしていたな……。
姉は強くて、全く勝てなかったことを思い出す。
「……チェックメイト」
そして、今回も蓮が勝つのだ。
あぁ、彼女には敵わない。
こういった遊戯で彼女に勝つのは至難の業だ。彼女は次の次まで見破ってしまう。
――だけど、オレが作った「遊戯」には勝たせないよ。
怪盗団をはめるために整えたシナリオは順調に進んでいる。しかし、いつ目の前のリーダーに気付かれるか分からない。……やはり、真っ先に始末するべきだろう。
「ふふっ。今回もボクの勝ちだな」
「そうだね。オレも頭がいい方だと思っていたんだけど」
その姿は、長年一緒に過ごしてきた姉弟のようだった。
その裏に、互いが企みを持っているとは誰も思わないだろう。
デザイアに来た冬木は、フェイクを撃ち殺す。
「……なぁ、誰か……」
誰か、助けてくれよ――。
その瞳からは、一筋の雫が零れ落ちた。
――彼女とオレは残酷な運命を背負わされました。