内なる敵
ダルダニア国王パルハーム。
属国の人間ながらもトゥーラーン連合軍との戦いで大功あったとして30万を誇るハカーマニシュ王国軍の副司令の地位を与えられており、またハカーマニシュ内にいくつかの領地を持つハカーマニシュ貴族でもある。だがパルハームは現状に不満だった。
(何が副司令だ…!)
パルハームは文人肌の男であり、戦は不得手だ。イスファーン軍にも自ら加わった訳ではなく、ダルダニア軍総司令キールスを派遣したのみだ。にも関わらず、副司令に任じられた。勿論、才能が評価されたのではない。むしろ、パルハームが軍事的才能を有していないが故の人事であることは明らかだった。
イスファーンはキールスの才を欲したのだ。戦に向かぬパルハームを「救済する」という名目で代理将軍などという職をでっち上げ、キールスを任命した。パルハームはそのだしにされただけだ。
宰相とは言わぬが、せめて大臣くらいにはと思っていた。だが現実はこれだ。自身より一回り以上も若いファルザームやシャーヤーンが政治の要職に就き、孫のような年齢のイスファーンなどが総司令として自分の上に立つ。とても許容することなどできない。
キールスもキールスだ。ダルダニア軍総司令という本来の職務を忘れ、すっかりイスファーンの小僧の犬に成り下がっている。ダルダニア軍の大部分がイスファーンの「改革」とやらでハカーマニシュ王国軍に編入された時も、反対するどころか積極的に手伝っていた。許しがたい背信だ。
だがパルハームはイスファーンに逆らうことができない。圧倒的な兵力差のためだ。イスファーンの改革によりハカーマニシュ王国軍は単独で30万に達している。それに対し、ダルダニア軍は僅か5000だ。残りはキールスと共にイスファーンに奪われた。彼らはダルダニア人ではあるが、もはやその忠誠の対象はナスリーン女王、あるいは総司令イスファーンだろう。60倍の敵に立ち向かう。無謀どころか狂気の沙汰だ。戦いにすらならないだろう。
(このまま奴らの下風に立つしかないのか…)
パルハームは絶望に項垂れた。その姿は、56という実際の年よりもさらに老けて見えた。
ハカーマニシュ軍務大臣ヌーリ。
先王ホマーユーン4世の代より仕える老臣であり、いずれ宰相になるであろうと噂された有能な文官であった。
だがその未来は断たれた。
自分よりも若い男たちが宰相や副宰相の地位を占めた。ハカーマニシュ貴族ならばまだわかる。だが、任命されたのは属国の国王たちだ。カリアやハマトの王など、自分以下ではないか!
軍務大臣とは言え、その権力はほとんどないに等しい。軍の実権は総司令イスファーンが握っており、軍監メフラングもイスファーンの推薦した者、すなわちイスファーンの手下だ。ヌーリの仕事といえば、イスファーンが提出してくる書類に署名をすることだけだった。承認というよりも、追認と言うべき作業であった。
(ハカーマニシュ貴族の、しかも俺ほどの人材を閑職に追いやりおって!)
このままでは済まさぬ。どう済まさぬのかはわからないが、ヌーリは固く心に誓っていた。
新生ハカーマニシュ王国軍の将軍アフシン。ハカーマニシュ貴族であり、パライタケネの戦いにも参加した彼は「イスファーン派」であると見なされていた。
オイラートの蛮族に悩まされていたところに大軍を率いて現れたイスファーンの下に、アフシンは同じ境遇のハカーマニシュ人たちと共に馳せ参じた。そのままパライタケネの戦いをはじめとする数々の戦に参加し、時には一軍の指揮を任されることもあった。新生ハカーマニシュ王国軍においても、イスファーン派の武将として重用されていた。
だがアフシンは現状に満足していなかった。自分ほどの才覚であればもっと上の地位を得ることができると考えていた。副司令、いやそれどころか総司令ですらも。
しかし有能には違いない彼は、少なくとも現段階ではイスファーンに抗しえないことを理解していた。イスファーンはハカーマニシュ軍30万の頂点に立っており、アフシンはあくまでその一部に過ぎない。
(だが、機会さえあれば)
アフシンの心には確かな野心が秘められていた。




