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お伽話に生きる神
千の涙と百の嘆きが零れたとき、かの神が穢れ切った魂を食らいに来る。
『死』と『裁き』と『浄化』を司るその神を、あなどることなかれ。
世の守護神とも鬼神ともいわれるその神の名は、オシリス。
漆黒の髪と鮮やかな緑色の瞳を持つといわれている、オシリス神。
先端に大きな黒曜石が光る、背丈ほどもある杖を手にしていたという。
人に紛れ一人世界を放浪し、その責務を全うしていると伝わる。
それはこの世界に古くから伝わる、お伽話の一つ。
今ではどんな悪人でもその神の名は知っている、といわれているほど有名な話だ。
もうどれだけ大昔から話されているのか、誰も検討がつかない。
きっと気が遠くなるほどの大昔からなのだろう。
だから、だから、
――――だから、人々は忘れてしまったのだ。
その神が本当に実在し、人々を裁いていた時代を。
人を愛し、その人の魂を食い浄化していた神のことを。