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第1話「役立たずの俺は、勇者パーティーを追放された」

最弱スキル【保存】を授かった少年レオン。


勇者パーティーから役立たずとして追放された彼は、ある少女との出会いをきっかけに、自分の能力に隠された本当の力を知ることになる。


傷も、魔法も、時間さえも保存できる――。


これは、最弱と呼ばれた少年が、やがて世界の運命を変えていく物語。


ぜひ最後までお楽しみください!

「レオン、お前は今日限りで、この勇者パーティーから抜けてもらうことになった」


王都から馬車で三日ほど離れた宿場町グランベルの一角にある古びた宿屋で、窓の外に降り続く雨を眺めながら明日の旅程を考えていた俺は、勇者アルベルトの口から突然告げられたその言葉の意味をすぐには理解できず、しばらくの間、何かの冗談ではないかと思いながら彼の顔を見つめていた。


しかし、いつもなら自信に満ちた笑みを浮かべているアルベルトの表情には、冗談を言っているような気配など少しもなく、むしろ長い間抱えていた面倒事をようやく片付けられるとでも言いたげな、冷たく突き放すような色が浮かんでいた。


「……それは、どういう意味なんだ?」


ようやく絞り出した俺の問いに、アルベルトはわざとらしく大きなため息をつくと、椅子の背もたれに深く身体を預け、まるで聞き分けの悪い子供に説明するかのような口調で言葉を続けた。


「そのままの意味だよ。俺たちは魔王を討伐するために選ばれた勇者パーティーであって、何の役にも立たない人間をいつまでも養ってやるために旅をしているわけじゃないんだ」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が鈍く痛んだが、俺はすぐに言い返すことができなかった。


なぜなら、アルベルトの言うことがまったくの間違いだとは、自分でも言い切れなかったからだ。


俺の名前はレオン・アッシュ、十五歳。


この世界では十五歳になると教会で神から授かった固有スキルを鑑定してもらう習わしがあり、強力な攻撃魔法や特殊な剣技を授かった者は将来を期待される一方で、俺に与えられたのは、鑑定士ですら首をかしげるほど用途の分からない【保存】という能力だった。


鑑定板に表示された説明は、たった一行。


【保存:対象の状態を記録する】


それだけだった。


何を保存できるのかも、保存したものをどう使うのかも分からず、教会の鑑定士からは「日常生活のどこかで役に立つかもしれませんね」と曖昧な言葉をかけられただけで、結局、冒険者として戦うための能力ではないという評価を受けることになった。


それでも俺は、いつかこのスキルの使い道が見つかるかもしれないと信じ、魔物の討伐で傷ついた仲間のために薬草を探したり、野営地の安全を確認したり、食料や装備品の管理を引き受けたりしながら、自分なりにパーティーを支えようと努力してきたつもりだった。


「俺だって、何もしてこなかったわけじゃないだろ。これまでの旅で、少しはみんなの役に立てていたと思うんだけど……」


そう言いかけた俺を、アルベルトは鼻で笑いながら遮った。


「荷物を運んだり、飯の準備をしたりすることを、まさか勇者パーティーへの貢献だと本気で思っているのか? そんな仕事は金さえ払えば誰にでもできるし、これから俺たちが相手にする魔族の幹部との戦いでは、お前のような戦闘能力のない人間が一人いるだけで、余計な危険を背負うことになるんだよ」


その言葉に反論しようとして、俺はふと部屋にいるほかの仲間たちへ視線を向けたが、炎の魔導士セリナは窓の外を眺めたままこちらを見ようともせず、剣士ガイは腕を組んで黙り込み、いつも優しく声をかけてくれていた聖職者ミリアでさえ、申し訳なさそうに目を伏せているだけだった。


その様子を見た瞬間、俺はようやく理解した。


これはアルベルト一人が勝手に決めたことではなく、俺以外の全員がすでに納得している決定なのだと。


「……そうか。みんなも、同じ考えなんだな」


誰も答えなかったが、その沈黙こそが何よりも明確な返事だった。


俺はそれ以上何かを言う気力を失い、ベッドの脇に置いていた古い革袋を手に取ると、着替えと短剣、亡くなった母さんからもらった小さなお守り、そして旅の途中で書き続けてきた手帳を一つずつ詰め込みながら、この二年間の出来事を思い返していた。


魔物に襲われて命からがら逃げた夜も、初めて大きな街にたどり着いてみんなで笑い合った日も、俺にとっては決して無意味な時間ではなかったのに、どうやら彼らにとって俺という存在は、いつでも切り捨てられる程度のものだったらしい。


「……今まで、ありがとう」


荷物を肩に掛けてそう告げると、アルベルトは満足そうにうなずき、机の上に置いてあった小さな革袋をこちらへ投げてよこした。


袋は俺の足元に落ち、中から転がり出た二枚の銀貨が木の床に乾いた音を立てた。


「それが退職金だ。しばらくは食っていけるだろうから、ありがたく思えよ」


俺は床に落ちた銀貨をしばらく見つめていたが、意地を張って受け取らなければ明日の食事にも困ることを思い出し、何も言わずにそれを拾い上げると、最後まで誰とも目を合わせないまま部屋を後にした。


廊下へ出て扉を閉めた瞬間、向こう側からアルベルトの笑い声が聞こえてきたが、俺は立ち止まることなく階段を下り、そのまま冷たい雨が降り続く宿場町へと歩き出した。


宿屋の外へ出ると、先ほどまで小雨だったはずの雨はいつの間にか激しさを増しており、石畳の隙間には濁った水が流れ、軒先に並んだ商店の主人たちが慌ただしく商品を片付け始めていた。


俺は濡れた外套の襟を立てながら人通りの少ない道を歩き、これからどうやって生活していけばいいのかを考えようとしたものの、頭の中にはアルベルトの言葉が何度も浮かんできて、まともな考えをまとめることさえできなかった。


故郷の村へ帰るという選択肢もあったが、三年前に母さんが亡くなってからは帰る家もなく、親しい知り合いもほとんど残っていないため、今さら何も成し遂げられなかった自分の姿を見せに戻る気にはなれなかった。


「……せめて、明日からの仕事くらい探さないとな」


そう独り言をつぶやきながら、雨宿りのできそうな場所を探して大通りから細い路地へ入ったとき、積み上げられた木箱の向こうから、雨音に紛れるほどかすかな声が聞こえてきた。


「……たすけて……」


最初は聞き間違いかと思ったが、再び同じ声が聞こえたため、俺は足を止めて周囲を見回し、声のした方向へ慎重に歩み寄った。


すると、建物と建物の間にできた薄暗い空間に、一人の少女が倒れているのが見えた。


「おい、大丈夫か!?」


慌てて駆け寄った俺は、少女の姿を確認した瞬間、思わず息をのんだ。


年齢は俺と同じくらいだろうか。


腰まで伸びた銀色の髪は雨に濡れて石畳に広がり、上等そうな白い服は泥と血で汚れ、胸元には鋭い刃物で斬りつけられたような深い傷が刻まれていた。


その傷から流れ出た血は雨水と混ざって足元に広がっており、少女の顔色は驚くほど青白く、今にも呼吸が止まってしまいそうだった。


「ひどい傷だ……! 待ってろ、すぐに治療できる人を呼んでくる!」


俺が立ち上がろうとすると、少女は残された力を振り絞るように手を伸ばし、俺の外套の袖を弱々しくつかんだ。


「……行かないで……」


その声はあまりにも小さく、今にも消えてしまいそうだったが、必死に助けを求める少女の瞳を見た瞬間、俺は彼女を置いてその場を離れることができなくなった。


しかし、俺には治癒魔法が使えず、持っている薬草も軽い切り傷や打撲に使う程度のものでしかなかったため、これほどの重傷を負った人間を救う方法など、どう考えても思いつかなかった。


「くそっ……どうすればいいんだ……!」


俺は震える手で少女の傷口を押さえながら、どうにか出血を止めようとしたが、指の隙間から温かい血が流れ続けるばかりで、少女の呼吸はますます弱くなっていった。


つい先ほど、何の役にも立たないと言われて勇者パーティーを追放されたばかりだというのに、目の前で苦しんでいる少女一人を助けることすらできないのかと思うと、自分の無力さが情けなくて仕方がなかった。


「頼む……誰でもいいから、この子を助けてくれ……!」


そう叫びながら少女の胸元に手を当てた、その瞬間だった。


突然、視界の中央に青白い光が浮かび上がり、まるで透明な板に文字が刻まれていくように、見覚えのない表示が次々と現れ始めた。


【対象の状態を確認しました】


【対象:人間】


【状態:致命傷・大量出血・意識混濁】


【保存可能対象:致命傷】


「……何だ、これ……?」


俺は驚いて周囲を見回したが、文字は視線を動かしても消えることなく、まるで俺だけに見えているかのように目の前に浮かび続けていた。


そして、その文字の下に新しい表示が現れた。


【対象の異常状態を保存しますか?】


【保存した異常状態は対象から取り除かれます】


「異常状態を……保存する……?」


俺は思わず、自分の右手を見つめた。


十五歳のときに授かった、誰からも役立たずだと笑われてきたスキル【保存】。


今まで何度試しても反応しなかったその能力が、なぜか今、目の前の少女を救うために使えると告げているのだ。


本当にそんなことができるのかという疑問はあったが、少女の呼吸がさらに弱くなっていくのを感じた瞬間、俺は考えるよりも先に、その言葉を叫んでいた。


「保存!」


次の瞬間、俺の手のひらから淡い青色の光が広がり、少女の身体を包み込むと、胸元に刻まれていた深い傷が少しずつ閉じ始め、流れ続けていた血も、まるで時間を巻き戻しているかのように止まっていった。


「……嘘だろ……?」


目の前で起きていることが信じられず、俺は少女の胸元を何度も確認したが、そこには先ほどまで存在していたはずの傷が完全に消え、破れた服と血の跡だけが残されていた。


【致命傷の保存に成功しました】


【保存領域:1/3】


【保存した状態は任意の対象に再現できます】


少女の呼吸はゆっくりと落ち着き始め、青白かった頬にもわずかな赤みが戻ってきたため、俺はようやく彼女が助かったのだと理解し、その場に座り込んで大きく息を吐いた。


「……助かった……本当に、助かったんだな……」


胸の奥から込み上げてきた安堵と喜びに、思わず笑みがこぼれた。


俺のスキルは、役立たずなんかじゃなかった。


今まで何のために存在するのかさえ分からなかった能力が、たった今、一人の命を救ったのだ。


しかし、その喜びに浸っていられたのは、ほんのわずかな時間だけだった。


「……そこまでだ」


突然、背後から低く冷たい声が響き、振り返った俺の目に、路地の入り口を塞ぐように立っている三人の男たちの姿が飛び込んできた。


男たちは全員、黒く塗られた鎧を身につけており、顔の大部分を兜で隠していたが、その手に握られた剣にはまだ乾ききっていない血が付着していたため、俺は直感的に彼らが少女を傷つけた張本人なのだと理解した。


「その娘を渡してもらおうか」


先頭に立つ男が、剣先をこちらへ向けながら言った。


「そいつは我々が探している人間だ。余計なことに首を突っ込まず、黙って引き渡せば、お前の命までは取らずにおいてやる」


俺は反射的に少女の前へ立ち、腰に差していた短剣の柄を握りしめたが、相手の装備や立ち姿を見る限り、まともに戦えば勝ち目がないことは明らかだった。


それでも、せっかく助けた少女を再び危険な目に遭わせるわけにはいかず、俺は震える足を必死に踏ん張りながら男たちをにらみ返した。


「……この子を、どうするつもりだ?」


「お前には関係のないことだ」


男は冷たく答えると、面倒くさそうに剣を持ち上げた。


「最後の警告だ。そこをどけ」


その瞬間、俺の視界に再び青白い文字が浮かび上がった。


【保存済み:致命傷】


【対象への再現が可能です】


俺は、その表示を見つめた。


保存した傷を、別の対象に再現できる。


もしその説明が文字どおりの意味なのだとしたら、俺は今、目の前の男たちに対抗できる唯一の手段を手にしていることになる。


しかし、それは同時に、誰かを深く傷つける力を使うということでもあった。


「……どうした、怖くて動けないのか?」


男が笑った。


そして次の瞬間、何のためらいもなく剣を振り上げ、俺の頭上へ向かって振り下ろしてきた。


「死ね!」


逃げる時間はなかった。


俺は少女を守るように立ったまま、右手を男へ向けて突き出し、目の前に浮かんでいる文字を信じて叫んだ。


「再現!」


青い光が俺の手から放たれたかと思うと、男の胸元に突然赤い線が走り、次の瞬間には少女が負っていたものと同じ深い傷が現れた。


「ぐあああっ!」


男は悲鳴を上げて剣を取り落とし、そのまま膝から崩れ落ちると、何が起きたのか理解できないといった表情で自分の胸元を見つめていた。


「なっ……何をした!?」


残された二人の男たちが驚愕の声を上げたが、俺自身もまた、目の前で起きた出来事に言葉を失っていた。


俺のスキルは、傷を取り除くだけではない。


取り除いた傷を保存し、それを別の相手に与えることさえできるのだ。


その事実を理解した瞬間、背筋に冷たいものが走った。


人を救うこともできる。


だが、同じ力で人を傷つけることもできる。


俺は震える右手を見つめながら、これまで何の役にも立たないと信じ込んでいた自分の能力が、想像していたよりもはるかに恐ろしいものなのかもしれないと感じていた。


そのとき、背後から小さな声が聞こえた。


「……あなた……」


振り返ると、先ほどまで意識を失っていた銀髪の少女が、ゆっくりと目を開けてこちらを見つめていた。


少女は自分の胸元に傷がないことを確かめると、信じられないものを見たかのように目を見開き、やがて俺の右手へ視線を移した。


「……その力……まさか……」


「大丈夫か? まだ無理に動かないほうがいい」


俺が声をかけても、少女は答えなかった。


ただ、何かを恐れるような、それでいて長い間探し求めていたものをようやく見つけたかのような複雑な表情を浮かべながら、震える唇で一つの言葉をつぶやいた。


「……保存者……」


「え?」


「千年前に……世界から消えたはずなのに……」


その言葉の意味を尋ねようとした瞬間、少女は再び意識を失い、俺の腕の中へ倒れ込んできた。


俺は慌てて彼女の身体を支えながら、雨に濡れた路地の向こうを見つめた。


勇者パーティーを追放され、何の取り柄もないまま生きていくしかないと思っていた俺が、たった一日のうちに、これまで想像したこともなかった力と、正体の分からない少女に出会ってしまった。


そして、まだ俺は知らなかった。


この日目覚めた【保存】という能力が、やがて王国の歴史を揺るがし、世界の運命さえ変えることになるということを。

第1話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


ついに目覚めたレオンの【保存】スキル。


謎の銀髪の少女は何者なのか?

そして、千年前に消えたという「保存者」とは一体何なのか?


次回、第2話「助けた少女は、どうやら普通の人間ではないらしい」では、物語がさらに大きく動き始めます!


面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。


これからもよろしくお願いします!

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