汲田と昔話
教室で白い机に突っ伏して、襲ってこない睡魔を追いかけていた。眠たいわけじゃないけど、目を瞑って思考をクリアにしたかった。そこに、汲田と世間で呼ばれている女子がやってきた。
突っ伏していたのに、なぜ気づいたのかって?
そりゃ私の頭頂部には気配だけを感じ取ることの出来るセンサーがあるからだ。
では汲田の頭頂部には何があるのか?
気になって顔をあげて、彼女の頭頂部を凝視したが、つむじ以外は目で見られるものは何もなかった。大切なものは目に見えないから、汲田の頭頂部にも大切なものがあるんだと思う。
「みいこ、何か面白い話してよ。みいこは面白いって皆言うからさ」
汲田は開口一番にそう言った。
「私、面白くないよ。皆が買いかぶっているだけ」
「そんな謙遜いいからさ。何でもいいから面白いこと言ってよ」
キツツキ位しつこい。赤キツツキかあって回文としては邪道だよな。
「そんなこと言われても……」
私は何も言えなかった。そもそも汲田が何を面白いと思い、何に笑うのか。それが分からなくて次の言葉が出てこなくなる。
「なんでそんなもったいぶるの。私は面白いもの摂取しないと苦しくなるの」
「面白いものをカルシウムみたいに言うなよ。面白いものは骨だ」
私の後ろに松島が立っていた。松島は私が思っていたことを一言一句違わず代弁してくれた。
「そんなこと分かってるよ」
汲田は気が立っていた。
「分かってたんだ。それならいいんだけど」
「っていうか松島に用ないんだけど、これは私とみいこの問題だから」
汲田は冷たく言い放った。私が黙っていると、汲田は構わずに口を動かし続けた。
「私がオリジナルの昔話を作ったら、お返しに面白い話をしてくれる?」
「今、話を作っても昔になる前に私たち死んでるよ」
松島は即答した。松島は優しい。厳しく見える物言いは、未来により深い絶望を与えないための配慮に違いない。
「昔々あるところにから始めても、昔話って認めてくれないなら、昔って何?」
「なんで、そんなに昔話にこだわるんだ。最近の話でいいだろ」
「じゃあ、最近の話をしたら面白いこと言ってくれるの、くれないでしょ?」
最近の話を昔の話よりも下位に位置づける汲田の顔は悲しげだった。私はそんな決めつけをしてほしくなかった。
「そんなの分からないよ。でも、何もしないよりは、何かした方がいいのかもね」
私は挑戦的に微笑んだ。
「分かった」
汲田は素直で率直だった。
それから、汲田がした話があまりにも最近の話だったから、私たちの笑顔がはじけて、空を舞うプテラノドンになって、街の人々に手紙を届ける郵便屋さんになりましたとさ。
めでたし。めでたし。
こんなに仲良く笑い合っていても、私たちはいつか離れ離れになって、お互いの忙しさの中で会えなくて寂しいという気持ちも薄れて、たまには連絡しようかと思って取り出したスマホを、まあ今更連絡しても迷惑なだけか、と変に遠慮して、ずっと友だちでいようね、という約束を仲良く破り、でも、皆そういうもんだよな、とどこにいるかも分からない皆と同じであることに安心した。
めでたくなし。めでたくなし。




