第五十三話 見つけた?
「危ない!アオに向かってる……アレ……見て!!」
アオとキズナが窓ガラスを挟んで話していると、いきなりミドリが叫んだ。
一瞬で全員の目が急降下してくる黒い塊を捉える。
だが、ほぼ同時に、ソレは……身を固くするアオの真上を通り過ぎ、素早く上昇して垣根スレスレを飛び去っていった。
「大丈夫か、アオ」
キズナが低い声で垣根の向こうに視線を向けたままで言った。
「あっ、はい……びっくりしまし……」
ホッとした様子で窓ガラスに向き直るアオが言い留まった。
……垣根の隙間から、しなやかに滑り込む黒猫の姿……
ゆったり歩く黒猫は、皆の注目を浴びながらアオに近寄ると、そっと隣に座った。
「さて、皆揃っておるようじゃの……」
黒猫は、窓ガラスの向こう側で見つめるそれぞれの視線を気にする様子もなく、キズナだけを見据えている。
隣で座るアオをチラッと見ると、黒猫は静かに話し始めた。
「まずは、この……アオから聞いた事と、ワシらからの確認があるんじゃが」
黒猫の言葉にキズナは、苦虫を噛み潰したような顔になった。
ほかの猫たちは、黒猫に注目していて、キズナの変化には気づいていない。
「もちろんです。もしかして……」
「さすがじゃ、ワシからの説明なしでも分かったようじゃな。お前さんもボスだったから……知っておるのかな」
「あの、確か……緊急時に伝令というか、伝達があるという……それとは違いますか?」
「ふむ、その通りじゃよ」
「でも……話には聞いていましたが実際には会ったことがありませんでした」
「なるほど……伝令が不要な平穏な時期だったか、それともお前さんより上の地域の取りまとめ役には連絡があったかもしれんの……まぁ、全体に伝わる時は滅多にないもんじゃからな」
室内に座って真剣に黒猫と話をするキズナの視線は、隣の家の屋根を捉えたままだ。
「ふぉふぉ、気になるか?」
黒猫は振り返ってキズナが注目している場所を見上げて確認した。その隣では千紗がいるはずの室内の様子を伺っているアオが聞き耳を立てている。
「まずは質問に答えてもらおうかのぅ。詳しい話はその後じゃ。お前さんの返事を待っとるもんが上で痺れを切らしておる……ふぉふぉふぉ」
黒猫は長い尻尾をゆっくり動かしながらも、何だか興味深そうにキズナに向き直ると、ガラス越しに室内の気配を感じとろうとするかのように空気を吸い込んだ。
「この家に光る人はおるかのぅ?」
「あ、えっ?光る……人です、か?」
「そうじゃ。光る人……あるいは心でワシら話せる人間と言った方が良いかのぅ」
「あぁ、なるほど。それなら……居ます」
「おぉ、では……ここが肝心なのじゃが、一人か二人、どちらか?」
キズナは返事をする前に、隣のミイの顔を見た。ミイは、何かを言いかけたが、思いとどまったようだ。ボス同士の話に口を挟む事は、ミイだけではなく室内の他の猫たちも避けていた。
「それが……今は一人です」
「ほぅ、一人……そして、『今は』とは?アオからは、確か……家主の人間がワシらと話せると聞いておるんじゃが」
またしてもキズナはミイの顔を見た。助け舟を期待したがミイは鼻先を軽く上下させて、キズナが話すように促した。
「あの……ちょっとややこしい事になっていまして……」
「はて、それは?」
「アオが言ったと思うのですが、家主は千紗といいます。千紗は、目を合わせると心で会話ができます……」
キズナの言葉に黒猫は目を細めたり、長い尻尾で地面を掃くように大きく動かしたりしていた。
「ほぅ、ではワシらが探しておるのはその人間で間違いないようじゃな」
「待ってください。その千紗は、ここしばらく留守にしているんです。その代わりというか……千紗の友達が家に居ます。それが琴子です……」
「代わりとな?……じゃが琴子という人間は関係ない。ワシらが探しておるのは光る人じゃから……千紗とかいう人間のほうじゃ」
「それがですね……。その……琴子ですが、千紗と同じなんです。心で話せるんです……」
「なんと!?つまり、光る人が二人……この家に?」
「はい、そういう事になります。ですからお探しの人は……」
キズナが言い終わる前に、黒く大きな影と同時に微かな風切り音が響いた。
黒猫と青の後ろにぴょんぴょんと勢いを消すように降り立ったのは、身体が大きくガッシリした一羽のハシブトガラスだった。
「焦れったいね。まったく、それにしても……」
彼女は、ガラス越しに並ぶキズナたちを見ると一歩前に進んだ。
その途端室内の猫はパニックを起こしたようにフローリングを滑りながら散り散りに走る。微動だにせず残ったのはキズナとミイだけだった。
「おや、ごめんよ。驚かせちまったね。それにしても、あんた……」
カラスは、そう言いながら首を傾げながらミイを凝視している。ミイも視線を逸らさない……見えない火花が散っているかのように。
(つづく)




