第四十八話 寺の裏山
雲の流れが早く、次第に厚さを増していく。時折強い風が木々の若葉を揺らして通り過ぎていく。
鼻を空に向け、匂いを確かめるように座る黒猫……その傍らには、ゆったり寝そべり……眠りに落ちそうなアオが横たわっていた。
「アオ……」
「えっ……あ、はい」
辺りを見回しながら立ち上がった黒猫は、耳としっぽをピンと立てている。
寝起きの伸びを我慢し、アオは慌てて座ると、黒猫の次の言葉を待っていた。
「こっちじゃ」
「こっちって、どっちですか……あ、あの……」
アオが言い終わる前に黒猫が走り出した。走ることが大好きなアオはすぐ後ろを楽しげに駆けていく。
『珍しいな……いつもゆっくり歩くのに、こんなふうに走れるんだな。それにしても……あぁ、走るのって本当に楽しいな……』
見慣れた場所に近づくと、ようやく黒猫がいつものようにゆっくり歩き出した。いつもと違うのは……荒い息遣いとしっぽが力なく下がっていることだった。
その場所は……黒猫とアオが初めて出会ったあるお寺の敷地だった。
「待たせたかのぅ、すまんな」
黒猫が低くニャーと鳴き声を出した。
すると、黒い大きな塊が空から落ちてきた……いや、大きなカラスが空を切る羽音とともに地面に降り立った。
自分よりも大きなカラスを間近で見たことがなかったアオは、一瞬で全身の毛を逆立てて驚き、一緒に逃げようと黒猫に注目した。
『えっ?黒猫さん!?逃げるどころか、座って対面してる……あっ、そっか、そのカラスと決闘か何かなのかな?』
黒猫は、ゆっくりとカラスに近づいていく。カラスも見据えたまま動きを止めている。
『これは……もしかしたら接近戦か。あっちはクチバシと爪、それに飛べるからな。黒猫さんは、年取ってるから体力よりも、経験値が高そうだけど』
アオが少し離れた場所から、一羽と一匹を注視していた。
もう目と鼻の距離まで近づく黒猫は、まだ歩みを止めずに距離を縮めていく……。
その時、カラスが羽ばたき空中に飛び上がった。大きな羽を広げると猫の何倍もの大きさになって……なんとアオの目の前に降り立った。
驚きすぎて固まってしまったアオに、カラスの冷たく硬いクチバシが、一瞬だけ鼻先に触れた。
「かわいい子だね、あんたが新入りかい。よろしくね」
そう言うと、アオの前からまた飛び上がって黒猫の所に降り立った。
『怖すぎだ。息をするのも忘れてたよ』
しばらくすると、黒猫とカラスがアオに視線を送り呼びかけた。
「アオ……詳しい話をしたいんじゃ、こっちにおいで」
「さっきは驚かせてゴメンよ、かわいい坊や」
カラスが首を傾げて片目で覗き込むような仕草をしている。
『こんな事になるなんて……』
本当は、くるりと振り返って一目散に逃げ出したい気持ちを抑えてアオは、ゆっくりと黒猫のいる場所へと近づいていった……。




