入学と決闘(1)
【主な登場人物】
・トゥワ・エンライト…本作の主人公。有翼でワンド大学の学生。ミオネラ王国の第二王子である。魔法の実技が得意。
・リェナ・アーク…トゥワの従者。三眼で、ミオネラ王国出身。
「入寮初日から無断外泊とは、良いご身分だな。」
暗闇の中で読んでいた本を閉じ、ベッドの上で思い切り伸びをしながら独り言を呟いたのは、分厚い丸眼鏡越しでもはっきり輝きが分かる、大きな銀色の瞳をした、藤色のマッシュの髪の少年だった。もう窓の外は微かに白み始め、少年は眠くて仕方がなかった。それでも眠い目を擦って同室の学生の帰りを待っていたが、諦めてベッドに横になった。
少年は向かいにある空のベッドを眺めながら物思いに耽っていた。考えてみれば、自分も含め全員が準男爵以上の、所謂良いご身分の方々ばかりなのだが、同室の人物が何者なのかはまだ知らされていない。ただ、この部屋の感じから言って、自分と同様、あまり権力はない人物なのだろう。友達になれるだろうか、それとも虐められるだろうか…。そんなことを考えながら次第にうつらうつらとしていった少年は、扉の開く音でハッと目覚めた。
「起こしてしまいましたか。申し訳ありません。」
暗闇に溶け込むような髪と瞳の少年が、真っ白な顔で入ってきた。血の匂いが漂ってきた。かなりの怪我をしているようだ。その小さな体を支えているのは、顔の前に紙を貼りつけた人物だ。
銀眼の少年は窓の外を見た。紫がかった雲が連なっている。もう夜に差し掛かっているようだ。
「僕ももう起きる時間ですので、お気になさらず。同室の方ですか?」
「はい。トゥワ・エンライトと申します。ミオネラ王国の王子です。宜しくお願…。」
「あの、実技一位の?本当ですか?」
少年が驚きのあまり言葉を遮ったので、トゥワは苦笑いした。
「イメージと違いました?」
「まあ、もっとギラギラしたヒトを想像していたことは否定しませんけど。失礼ですが、種族を伺っても?」
「有翼です。貴方は?」
「失礼。自己紹介がまだでしたね。僕はアミー・コート。吸血鬼です。セフタ公国の伯爵家、コート家の長男です。」
トゥワは微笑んだ。
「理論一位の方ですね。」
「ご存知でしたか。光栄です。僕は実技は最下位ですので、お恥ずかしい限りです。宜しければ色々とご指導下さい。」
アミーが手を差し伸べてきたので、トゥワはその手を取ろうとしてよろめいた。従者がその身体を支える。
「ずっと立たせてしまってすみません。どうぞ横になって下さい。」
「それではお言葉に甘えて。」
トゥワは従者に支えられながら、ベッドにうつ伏せになった。
「こちらは私の従者のリェナ・アークです。リェナさん、もう大丈夫です。部屋でゆっくり休んで下さい。」
リェナと呼ばれた人物は深々と礼をして出て行った。アミーはトゥワの態度が従者に対するには丁寧過ぎると思ったが、ミオネラ王国であればおかしくないのかもしれないと思い、何も言わないことにした。代わりに最初から気になっていた質問をぶつけた。