入学と決闘(3)
「良かった。きっと隔週で講義を休むことになると思うから、その分のノートを見せて貰おうかな。求血日には吸血欲抑制剤を飲むんだけど、体質的にあまり効かないから講義に出られないと思うんだ。トゥワは種族公欠の予定とかある?」
「多分大丈夫だと思います。求血日には私も部屋に戻らない方が良いですか。」
「いや、その時は僕が出て行くよ。うっかりヒトを襲ったりしたら大変だからさ。僕の方が。魔法でボコボコにされちゃうよ。」
アミーが殴られる真似をすると、トゥワは声を上げて笑った。
「精神系と言っても、混乱とか支配とか忘却とか、いろいろあるよね。僕は魅惑が中心だけど…。」
「私は支配です。」
支配ということは本人の意思に関わらず、術者の命令通りに相手を操る魔法を使うということだ。
「支配か。トゥワくらいの魔力があったら、生活に支障をきたすくらいの支配欲に苦労するんじゃないの?」
「そうですね。対策として命令口調の時のみ支配魔法を使うと自分のルールを決め、支配欲抑制剤を常用していますが、薬を飲めない時とかは本当に辛いですよ。この授業を通じて制御できるようになると良いのですが。」
アミーは流石だと感心すると同時に同情した。支配の魔法をよく使う者は衝動的に支配魔法を使ってしまったり、ストレス時に支配魔法を使いたいという思いが高まったりする。それを抑えるのは並大抵のことではなかったはずだ。
「大変だね。」
「もう慣れました。」
「精神を受講した理由は分かったけど、錬成も得意なの?」
「別に得意というわけでもないのですが…。」
トゥワはその続きを呑み込んだ。自分を襲ってきた人物がワンドの学生で、錬成魔法を得意とするようだったから、とは言えない。
「まあ、華々しい魔法だから人気だよね。僕も憧れていた時期があったよ。魅惑すらまともにできないから諦めたけどさ。」
アミーは一人で話を進めた。トゥワも別に否定しなかった。
「もう十時じゃないか。怪我人は休む時間だよ。」
アミーの言葉に、トゥワはハッとした。吸血鬼であるアミーが血の臭いで、自分が怪我をしていることに気付いていたこと、その上で何も言わないでいてくれたことに気付いたためだ。
「お休みなさい、アミーさん。」
「お休み、トゥワ。」