幕間 第2王子 ベイルード2−5
カクヨムにて同時に投稿中。そちらの方が数話先行投稿しています。
→https://kakuyomu.jp/works/16816927860273874320
こちらはコピペになりますので,ルビや傍点など崩れてしまっています。
読みやすさや先の話が気になる方は,カクヨムがオススメです
目一杯に蹴り上げられた下腹部(濁した表現)の痛みを緩和させるための治癒術は間一髪だった。
もう少し遅かったら、記憶が根こそぎ消え去っていたかもしれない。もしくは命がなかった。
先ほどまで腕の中にあった女性特有の細い肩と腰、香水か髪油の甘やかな花の香りは未だ鮮明だ。なんなら、実はまだ腕の中にいるのではないかと錯覚すらしそうなほどだ。
いまだ少女の域を脱しない体は抱くにはいささかまろさが足りない気がしたが…まぁ、今後次第だろう。
女神の託宣を受けた特異の存在。
少なくとも目を離す気もなかったのだから、このまま婚約を続行するのが理にはかなっている。
そう思い直して催眠か暗示か洗脳でもしておきたいが、何者かによって阻まれるのは経験済みだ。
だが大量の魔力を直接叩き込めばどうなるか?
生娘の恥じらいか、条件反射か…身を捩って逃げようとして逆に晒された首元へ魔力を込めて噛み付く。
体格差と経験にものを言わせ、大した抵抗もできない小娘を抑えながら襟元を乱し噛む場所を徐々に変えていく。骨張っていたり噛みつきにくい場所には吸い付き痕を残す。
だが、流し込んだ魔力が霧散し消失していく感覚がある。
半ば想定していた通りでさほど残念とも思わない。ならば、もう一つの目的をはたすつもりで続行する。
「ちょ…も、う…離れてくださ、痛った!?痛い痛い。噛まないで、もう、噛まないでっ!!」
面白いほどに狼狽え、声を震わせて必死に逃げようとするのがおかしくて調子に乗った結果がこの様。
…それにしても、豪快に蹴り上げてくる令嬢がいたものだ。
下腹部(マイルド表現)の衝撃とともに走り去って言った小娘。
治療はしたが起き上がる気持ちにならず、床にゴロリと転がったまま。
バタバタと慌ただしく走り去る足音と、乱暴に開けられた扉が惰性でゆっくりと閉じられる音が床についた耳に微かに届く。
御者の馬への掛け声と鞭の音。石畳の上を車輪が走る音は、あっという間に小さくなった。
少々の物足りなさはあるが、見た目のインパクトとしては十分に痕は残せただろう。それを見てあの小娘がどうするか?今からでも想像すると笑いが込み上げてくる。
俺は、明日にでもあの洋品店で別のドレスを注文すれば良い。
俺がつけた痕だ。生半では消せやしない。せいぜいやきもきしながら当日を迎えてもらおう。ドレスはその時手渡す。
これでここ数ヶ月流された噂に対するイラつき解消のラストを飾らせてやる。せいぜい、不本意極まりないと言う苦い顔で俺の手を取るが良い。
誰1人居ないと思われた屋敷内に、慌ただしく開く個室の扉の音と、乱暴に階段を駆け上がってくる靴音が響く。
「リリーシア様に何をされたのですか!?殿下!!!」
部屋の扉は開け放たれたままだ。ノックもなく駆け込んできた手駒。
床に寝転がっていた主人の姿に一瞬驚き怯んだダスティンだったが、すぐに顔を引き締め『あの方に何をしたのですか?』と再度問いかけてくる。
今日のコイツはエヴァンのところで仕事だったはずだ。もっとも、そこにエヴァンはおらず、側近のニコラエスと共にエヴァンの外出で開いた穴埋めのために、慣れない机仕事の最中のはずだ。
いくつかの部屋に施した転移陣のどれかから密かに転移してきたのだろう。
この王城内には、長年かけて俺が書き上げた転移のための魔術陣があちこちにある。隙を見てか、あるいは理由をつけて辞去したかで駆けつけたのだろう。
小娘のことを気にしているということは、ちょうど走り去り際にカチあったか??
怒りと羞恥に頬を染め、乱れる襟元を必死に抑え走り去る令嬢の姿でも…見たのか??
無礼にも、責めるような眼差しを主人に向ける手駒を手招きで呼び寄せる。
やや警戒して入るが、主人が呼ぶのを拒絶はできない。そろそろと近寄ってくる目線の近い頭を思い切り殴りつけるが…
流石、護衛騎士。
何度もその役目を担ってはいないと言ったところか。咄嗟に腕で庇い、倒れ伏さぬように強く踏ん張り凌いだ。
先ほどまでは俺が小娘に何事かした怒りであったのに、今は恐怖と困惑が浮かんでいる。
「…っ!!何事ですか!?」
「ハハっ…貴方が気にする必要はありませんよ。黙って殴られてください」
面白いぐらいに表情が変わるダスティンの顔は、今は青くなり恐怖で唇が戦慄わななく。
無造作に胸ぐらを掴むと渾身の力と強化魔術をのせた拳で殴り抜ける。
「気に入らないんですよ。貴方も、あいつも、何もかも!!」
右手から左手に交互に切り替えながら殴り続けていると、力の抜けたダスティンはついに倒れこむ。それでも暴力の衝動が収ることはなく、踏みつけるように何度も蹴りを入れる。
歯を食いしばって耐えているのか、時々、その隙間から堪えきれなかった呻き声以外はこの部屋には暴力の音しかしない。
気に食わない。
あんな醜聞まみれの噂話のネタにされたのが。何より負ける側として囁かれているのが気に食わない。
気に食わない。
何気なく選んだドレスの色が誰かを想起する色なのも気に入らない。
そんなものを起点にしたドレスなんぞ、どれだけ手を加え原型を消そうとも気に入らない。一から十までの全てが気に入らない。
汗をかき息が上がってくるまでダスティンを蹴り続け、庇う行動も呻き声も上げなくなった頃にようやく蹴るのをやめる。
肋骨が折れ内臓が傷ついているのだろう、何度か吐血したあとが残っている。
吐瀉物と吐き出した血の生臭い匂い…暴力の匂いの充満した部屋が不快で無言で部屋を出ていく。
扉を閉める際に、おざなりにダスティンには治癒術を施した。後は意識が戻ったあいつが自分でなんとかするだろう。
腹の虫が全て治った訳ではないが、残りは当日まで小娘の姿を眺めて解消していこう。消えぬ痕に一喜一憂する姿を想像すると、少し気分が良くなる。
それにしても…大人のとして出来上がりつつある若い騎士の肉体を痛めつけ続けるのは、いくら身体強化があるとは言え相当疲れた。
ささっと寝てしまおうと、風呂に入っている最中、早馬だ!!と屋敷に駆け込んできた王城の使いに渡されたのは、宰相公爵からの分厚い苦情。
王子の浴室まで押入ってきた公爵家の伝令は、王城の使用人がハラハラと見守る中すっぽんぽんの俺に返事を要求してきた。
あの娘と良い、その父親と良い…本当に、俺を不快にさせる父娘おやこだ!!




