一隅の代償
ここまでお付き合いありがとうございます。
稚拙な文を我慢して読んでいただいて感謝に絶えません。
前話の後書きで書いた狩猟具のボーラが出てきます。
石動多幸は、刃物は使えますが、使いたがりません。
山賊のアジトから、くすねた小型フレイル(2丁)が気に入っています。
ではでは~
タコーは暗殺者を追った。
交渉次第で寝返らせることを考えたこともあった。
外交館に雇われていたなら、いずれ王女や騎士が居なくなる。
ほとぼりが冷めるまで隠れているようにキャサリアから執成せばどうにかなっただろう。
王女という地位が、汚れ仕事の輩にいつまでも執着することないと思われたからだ。
彼女の狙いはあくまで自分の命。道具に固執するようなことはないと確信があった。
しかし、状況は変わった。
キャサリアが近くにいたのに暗殺を試みてきた。
キャサリア、王国近衛騎兵団、王国貴族の令嬢、子爵の爵位持ちさえ危険に晒すことを躊躇していない。
暗殺者は、おそらく交渉に応じないタイプ。殺す行為そのものに生きがいを感じているのかも知れない。
「毒か、厄介だな」
ひとりごちり手がかりの少ない暗殺者の後を追う。
= = = = =
「見失ったか」
身をかがめ、周りを伺い、耳を澄ましていた。
近くで鳥のさえずりが聞こえる。
「近くには、いないか」
タコーは、水筒の水を少し飲み、喉を濡らす。
= = = = =
「くそ、くそ、なんでしくじった。絶好の機会にしくじった」
暗殺者は、悪態をつきながら安全と思われるところを目指して引き返していた。
大きく林を迂回するように曲がっている街道にこだわらず、ほぼ直線で林の中を移動していた。
極力痕跡を残さぬように注意深く。
= = = = =
「ああー、そうだ。先回りすりゃいいわな、急がば回れってか。こっちにも似たようなことわざって有るかな?」
久々に日本語でしゃっべていた。
タコーは、歩いてきた街道を全速で戻っていた。
暗殺者が次の機会を窺うならば、後から追ってくるしかない、そう確信していた。
先回りしても暗殺の好機とは限らないと判断すると考えたからだ。
街道を走っていても、暗殺者は姿を現さない。となれば、見つからないように林の中を移動しているのだろう。
追い始めたときにほとんど痕跡がなかったことから、慎重に移動しているのだと推測もできる。
となれば、全速で街道を走れば、暗殺者を追い越すことができるはずだ。
水を補充した川が見えてきた。
(ここで待ち伏せするか。アレも川を渡るときには、橋の上か川床を歩くか、どっちにしても身を隠せないからな)
橋まで来た。待ち伏せする場所を思案する。
おそらくは、こちらが先回りしたことは気づいていないだろう。
向こう岸に渡り、橋の下で待つことにした。
手持ちに飛び道具はない。投擲は苦手なのでナイフを投げるとかもなし。
得物が吹き矢なら呼吸が乱れていたら使えないことが勝機となる。
ちょうど橋の下に淀みがあったので、身をひそめる。
耳を澄まして、川の流れと違った音を探す。
= = = = =
「キャサリア、どうしたの?」
「コッカさん、毒です。やられました」
「ええ!大丈夫なの?」
「何ー?」
眼をこすりながら、ココモがケンタウロスの許に来た。
「ココモ、毒消しとか持ってない?」
「うーん、毒消しは持ってないけど、解毒できるよぉ」
「それって上級魔法じゃない」
「じぃじに習ったら、たまたまできちゃった」
「じゃあ、キャサリアにお願い」
「ほーい、じゃあ、毒の入ったところを見せて」
キャサリアが、さらしを解き、傷口を見せる。
「アニキが処置したんだ。じゃあ、大丈夫だろうけど、念のためにっと」
ココモは傷口に手を当てる。
「じゃあ、毒のあるところがチクチクするけど、我慢してね」
話し終わると同時にキャサリアは、一気に汗が噴き出した。
「はい、終わり」
「見事だわ、軍でもこれほどの術者は見たことがないわ」
「えへへー、すごいでしょー」
「ココモ殿、かたじけない。しびれが消えました。さすがはタコー様のお連れです」
「ちがうよ、奥さん。お、く、さ、ん」
「まあ、思い込みが過ぎるのが欠点ね」
「こらー、うまー」
「「ところで。・・・【タコー様のお連れ】?」」
「ヒィーーー」
= = = = =
川の水音と別の音が聞こえだした。
カサカサと葉の擦れる音だった。
タコーは音のする方向に注意を向ける。
すると暗殺者が姿が見えた。
旅装束を着ている。
が、人違いの可能性はなかった。
林の中を慎重に歩いている。
旅人なら、蛇に噛まれるリスクを避ける。
林の中を移動するのは明らかに不自然だったし、しきりに後ろに注意を払っているので、間違いない。
後ろを気にしているおかげで、まだ、こちらには気づいていない。
暗殺者は、川沿いを橋の方に移動し始めた。
おそらくは橋を渡るのだろう。
服が濡れては、動きが鈍るうえに痕跡が残るのを避けたと推測できた。
タコーは手ごろな石を川床から拾い上げ、機会を待った。
橋は人の重みで踏板が軋む。
タコーは暗殺者の姿が見えたあたりに石を投げる。
落着したあたりで、小さいがガサガサと音がする。
橋の上の暗殺者は見えないが、一瞬で張り詰めたのが手に取るように判った。
タコーは石の落着した位置と対角線になる橋の下から静かに這い上がり、林に注意を向ける暗殺者にボーラを投げた。
上手く両脚にボーラが巻きつき暗殺者はその場に倒れこんだ。
すかさず、お気に入りの小型フレイルを頭部めがけて打ち下ろす。
鼻から血が噴き出し暗殺者は絶命した。
当面の脅威は、今死んだ。
いかがでしたか?
時代劇を意識して書き進めていますので、
文章が少々堅いと思います。
どなたか感想をいただけると大変ありがたいのですが。
次話をお待ちください。




