↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世間知らずの我が儘姫は、強気を武器に生きていく  作者: まあく
第3章 我が儘姫、西へ行く
PR
13/49

3-1

 第三王子モーリスと第二王女セレスティーヌが西に向かうことは、国内に広く触れられた。遠征の目的は、若い王族が見聞を広めるための国内巡察。表向きはそうなっている。

 王の閲兵後、遠征軍は出発した。目指すは、モンチェスト山脈の麓にあるロベール領だ。


 彼の地を治めるロベール家は、建国以来ずっと西の国境を守ってきた。

 山脈を挟んだその先にあるのは、シャブラン公国。長らく内戦が続いていたが、数年前に有力貴族が国内を平定して大公となったことで、今は平穏を保っている。

 国境線を形成するモンチェスト山脈は標高が低く、古来より人の行き来が盛んだった。しかし、隣国の軍隊がその山を越えて来たことは一度たりともない。

 シャブラン公国の混乱に助けられた面もあるが、勇猛で知られたロベール家の力によるところも大きかった。


 天候にも恵まれて、遠征軍は順調に西へと向かう。

 遠征とはいうものの、馬車で移動しているセレスティーヌにとっては旅のようなもの。初めて王都を離れたセレスティーヌは、最初のうち上機嫌だった。


「アンナ、あれは何ですの?」

「あれは風車でございます」


「アンナ、ほら見て、羊があんなにたくさん!」

「あれは山羊でございます」


 何を見ても新鮮だった。旅が楽しくて仕方なかった。

 しかし、二日目の午後には早くも文句を言い始める。


「もう馬車は飽きたわ」

「では、少しお歩きになりますか?」

「冗談ではありません。なぜわたくしが歩かなければならないのですか」


 不機嫌なセレスティーヌの前で、アンナがため息をつく。

 そして、三日目の朝にはとうとう本格的に駄々をこね始めた。


「ベッドは硬いし朝食は美味しくない。ここの領主は、わたくしのことを軽んじているのではなくて?」

「そのようなこと、ご領主様の前では決しておっしゃいませんように」

「分かっています。でも、硬いものは硬いし、美味しくないものは美味しくないのです」


 ほとんどの兵士は野営かつ自炊だ。それに比べたら、領主の屋敷のベッドで眠り、テーブルで食事を取り、おまけに風呂まで使えるセレスティーヌは恐ろしく恵まれている。しかし、王宮の生活しか知らないセレスティーヌには、地方領主の精一杯のもてなしも不満でしかなかった。


「ロベール領まであと何日掛かるのですか?」

「五日でございます」

「わたくし、今日はゆっくりお茶を飲みたい気分なの」

「それは遠征が終わった後で」

「わたくしだけ王都に帰るということはできないかしら」

「セレスティーヌ様、あまり我が儘を言うものではございません」


 アンナに叱られ、時に励まされながら、どうにかセレスティーヌは行軍を続けていった。


 王都を出発してから八日目、ようやくセレスティーヌたちはロベール領へと足を踏み入れた。その中心地、ロベール卿の屋敷のある町の手前で遠征軍は陣を張る。

 テントや仮設小屋が次々設営されていく中、セレスティーヌは一時的に接収した農家の屋敷に入った。

 アンナと二人のメイドが屋敷内を整えている間、セレスティーヌは木陰に用意された椅子に座ってぼうっとしていた。

 そこに騎士団長がやってくる。


「長旅お疲れ様でした」

「本当に長かったわ」


 不機嫌な顔に、騎士団長は苦笑い。


「ご不便をお掛け致しますが、領内の安全が確認できるまで、殿下にはここに留まっていただきます」


 セレスティーヌが投げやりに答える。


「構いません。わたくしは、どうせすぐにここを離れるのですから」


 騎士団長はまた苦笑い。

 その顔を引き締め、声を落として騎士団長が聞いた。


「ここにセドリックがやってくる、という段取りでよろしかったでしょうか」

「そうです。一両日中には来ると思います」


 諦め顔でセレスティーヌが答えた。


 アルフォンスと共に先行しているセドリックは、遠征軍が到着次第、陣を訪ねてくることになっていた。そして、そのままセレスティーヌを連れてアルフォンスのもとへ行くことになっている。

 セドリックには、あらかじめモーリス直筆の書状を持たせてあった。それを見せれば、モーリスの部下がセドリックをここまで案内してくれるはずだ。


「承知致しました。騎士たちに伝えておきます」

「お願いします」


 セレスティーヌが軽く頷く。


「殿下の直接の護衛には、予定通り、部下のレナルドを付けます。ここを離れる際には一緒にお連れ下さい」

「……分かりました」


 一瞬、セレスティーヌの返事が遅れた。

 それを騎士団長は見逃さない。


「何か心配なことがおありですか?」

「いいえ、何も」


 今度は即答したが、騎士団長からは目をそらしたままだ。

 明らかに何かありそうだったが、騎士団長はそれ以上追及しなかった。


「何かございましたら、遠慮なくお申し付けください」


 そう言って、騎士団長は部下たちのもとへと戻っていった。

 その背中を見送りながら、セレスティーヌが小さく呟く。


「どうして、よりにもよってあの騎士なんですの?」


 憂鬱そうにため息をついて、セレスティーヌは天を仰いだ。


 騎士団長の協力を取り付けたあの日、騎士団長から一つだけ条件が付けられた。


「宿営地を離れる際、部下を一人同行させていただきたい」


 騎士団長の精一杯の妥協点。それをセレスティーヌは受け入れた。

 その翌日、騎士団長が連れてきた騎士を見て、セレスティーヌは反射的に眉間にしわを寄せてしまう。それに気付かないまま騎士団長が言った。


「精鋭揃いの騎士団において、この男の実力は頭一つ抜けております」


 騎士団長が胸を張る。


「名はレナルド。平民出身ですが、きちんと作法もわきまえておりますので、殿下に恥ずかしい思いをさせることはございません」

「そう、ですか」


 生返事のセレスティーヌの前に、一人の騎士が進み出た。


「殿下の護衛を務めさせていただきます、レナルドと申します」


 片膝を折り、忠誠を示すように騎士が頭を垂れる。


「よろしくお願いしますね」

「はっ!」


 顔合わせが終わって二人が帰っていくと、セレスティーヌはがっくりと肩を落とした。

 レナルドとは、じつは初対面ではなかった。お忍びの時、御者に扮して同行していた騎士、それがレナルドだ。

 アルフォンスと出会う前の、正真正銘の我が儘姫だったセレスティーヌは、レナルドに対してそれはもうひどい言葉を浴びせてしまっている。

 そのレナルドと行動を共にしなければならないのだ。気まずいやら恥ずかしいやらで、さすがのセレスティーヌも居たたまれなかった。


「神よ、どうかあの時まで時間を戻し給え」


 セレスティーヌの切なる願いが神に届くはずもない。


 試練を乗り越えた先に待っていた次なる試練。

 世間知らずの我が儘姫は、自業自得という言葉の意味を思い知ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。