つらい決断
「世間には、私は死んだことにするの?!」
あまりの突飛なセレスティアは病室のベッドで叫んだ。セレスティアの病室には、神崎真理子と、セレスティアの所属する女子プロレス団体・エターナルリングの役員、霧島恵美が立っている。霧島恵美もかつてはエターナルリングのレスラーだったが、今は引退して、役員として活躍している。
「あなたの再出発のためよ、セレスティア。神崎先生から聞いたんだけど、あなたは体だけでなく心も相当なダメージを受けているわ」
「…私、そんなことはないですけど…」
「それはまだ、あなたが、気が張っていて気づかないだけ。恐らく、セレスティア彩乃が元気になったと聞いたら、ファンは喜び、あなたの復帰を願うでしょうね。でも、彼らはあなたがどういう状態なのかは知らない。知らないからこそ純粋に願うだろうけど、それが、かえってあなたを苦しめることになるわ。引退した後の、周囲の善意によるプレッシャーがどれだけ大きく、それに耐えるのがどれだけ大変かは、この私がよく知っているわ。特にあなたは若いし、あんな激闘の末の生還となれば、周囲の熱意と言うのは、計り知れない重さになる」
神崎真理子は横で聞きながら、静かにうなずく。
「でも、応援してくれている人たちに嘘をついて、悲しませるなんて、そんなこと、私にはできないわ!」
セレスティアは強い口調で言った。
霧島恵美は微笑みつつも、真剣な眼差しで続けた。
「私も引退を決意するときは、あなたと同じようなことを考えたわ。自分が引退するということが、どれだけ多くの人をがっかりさせるか。でもね、あなたがみんなを励ましたいと願うのなら、まず、あなた自身を守るべきじゃないかな」
神崎真理子も言った。
「あなたのために悲しんでいる人たちを見るのは、つらいと思う。でも、誰かが悲しんでいるのを見ることができない状態になるのは、もっと残酷なことじゃないかしら」
セレスティアは戸惑う。
「でも、私が死んだことにするなんて…」
セレスティアは涙を流しながら呟いた。
「どうしても、みんなに、私の姿を見せたくないの?」
霧島恵美はその手を取り、優しく言った。
「あなたの新しい道を歩むためには、時には勇気を持って背を向けることも必要なの。
自分自身を守るために、ね」
神崎真理子も頷き、二人の思いを受け入れる手助けをしようと決意した。
「私の新しい道……」
セレスティアは心の中で葛藤しながら呟いた。彼女の目には希望と不安が交錯していた。
霧島恵美は続ける。「あなたが新たに選ぶ道は、きっと以前の自分を超えるものになるわ。信じて、前を向いて」
セレスティアは深呼吸し、決意を固めた。
「そうね、私も自分を大切にしなければ」
「セレスティア死亡」のニュースは、瞬く間に広がっていった。ファンは悲しみ、SNSには追悼の声が溢れた。セレスティアの死の真相を知っているのは、彼女の家族と神崎医師、霧島恵美、エターナルリングの会長と所属選手だけだった。
「どうして、こんなことに…」
セレスティアの心は苦悩で揺れ動く。神崎真理子が優しく寄り添う。
「あなたの決断を理解してくれる人も、必ずいるわ。新しい未来を見つけるための第一歩なの。」セレスティアは決意を新たにし、リハビリに専念した。