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最終話のつもりです。
[イーライ]
王太子の執務室は異様に重い空気に包まれていた。ノア、エリス、オリバー、そしてジョージ。僕の目の前にいる面々は硬い表情でこちらをみる。
「…」
「あ、あの、イーライ?」
「なに」
「いや、あの…なに、怒ってるの?」
「…ジョージ、いや、王太子殿下。折り入って話があります」
その場にいた友人たちがごくりと息をのむ。
「な、なんだ」
「王子は王になったとき、どのような政策を取ろうと考えていますか」
予想していた質問と違ったためか、一同は拍子抜けした様子をみせた。
「なんだよ、改まって。…その、奴隷制度をなくしたり、女性も社会に参画できるような政策を考えているよ」
「な!?」
「本気か、ジョー!」
「聞いてくれ、三人とも。反対されるのはわかっている。でも、俺はどうしてもアメリアの理想を叶えてやりたいんだ」
…やはり、アメリア様の影響だったらしい。
「アメリアが過去にいた異世界の政治体制は平等で、立憲君主制で、国民に主権がある。それをこちらでも推進したいと願っているんだ。アメリアがそうしたいって言うなら、そうしてあげたい」
「あのね、お言葉ですが、それを進めるには莫大のコストと大きな権力を持つ協力者が必要になります」
財務大臣の息子だけあって、さすがにエリスは詳しい。
「協力者はアメリアの父である公爵に頼もうと思う。王になったらコストについて気にする必要はなくなる。一刻も早くアメリアの理想をかなえてやりたいんだ」
「「「バカかおまえは!」」」
「何年かかると思ってるんだよ!」
「どれだけ反対意見がでると思っているんだ!」
「国庫をよくわからない政策に使って、国民が怒らないわけないだろ!」
ただでさえ、うちの国財はカツカツだ。三者、怒りを露わに叱責する。
「「「バカかおまえは!」」」
「わ、悪いよ、もう言わないよ…」
さすがにここまで言われて目が覚めたらしい。危なかった、幼なじみがこんな考えを持っているなんて知らなかった。もしあのまま政策が進められていたら、国中から批判がおきて下手したらサリィの予知夢の通りになるところだった。
「…まさかとはおもうが、戦争を起こしたりしないだろうな」
「しないよ! アメリアもよけいな戦争はしないほうがいいっていってるし」
こいつの好戦的な性格は侮れない。警戒するに越したことはないだろう。
「結婚式の費用は千ギルまでだからな」
「なにかを発案するときは議長に相談してからにしろよ」
「王政だからって国民を顧みなかったらどうなるか、ちゃんと考えるんだぞ」
「わかったよ、わかったったら」
その日の午後、すっかりげっそりした様子のジョージと一緒に公爵家のアメリア様に話しに行った。
「アメリア様の理想はすばらしいです。でも、叶えられるのはもっと先がいいでしょう」
「今の体制のまま、いい政策をだして、国民にこの人になら国税を使われても良いかなって思われるまで待つんです」
「議会に、古株のいやなおじさんがいなくなったとき、ようやく私たちの活躍できる時代がやってきます」
実際現陛下がいつなくなられるかなんてわからない。明日かも、十年後かもしれない。でも、即位したとたん国から反発を食らったら、こちらの身だって危ないのだ。
アメリア様も納得してくれたようだった。
「ごめんなさいね、変なこといって」と言われた。優秀な彼女は、薄々できそうにないことに気づいていたのだろう。
そして、一週間。
サリィとの約束の日がやってきた。
[セーラ]
エリの隣を歩く。日陰に気を使ってくれるところとか、歩幅をあわせてくれるところとか。さりげない優しさに恋をしている。
少し見上げたところにある綺麗な肌も、柔らかそうなアッシュブロンドの髪の毛も。ため息をつきたくなってしまう。
「そういえば、例の話なんだけど」
「どうでしたか?」
「多分もう心配することないんじゃないかな。いざとなったら、僕らで止めるから」
「ありがとう、信じてくれて。私、自分でもあまり信じられないのに。あ、お菓子を作ってきたの。お礼と言ってはささやかだけど、公園で食べない?」
「嬉しいよ、サリィのクッキーは美味しいから」
「クッキーがよかった? 今日はマフィンにしたんだけど…」
「それも楽しみだ。早くいただこう」
笑う彼の姿を見ていると、やっぱり胸が痛くなる。きっと恋のせいだ。
でも、私たちは友達だもん。今はそれでいいと思っている。だから、いつか彼に恋人ができるか、私が新しい恋をするその日まで、誰にも言わないことにしよう。
予知夢について人に打ち明けたとたんに、また誰にもいえない秘密ができた。
とってもドキドキする秘密。今の私にはこれがなにより幸せなんだ。
ご要望があれば続きも書こうと思います。
最後までみてくださりありがとうございました。
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