修学旅行2日目
泣いて泣いて、顔の色んな所から液体が出てくる。
漫画の主人公のように、目からしか水を出さない便利な補正を、悪役令嬢にも適用してほしい。
「俺の名前は一条 要だ」と頭をポンポン叩きながらヒーローがいう。
「かなめくん?」
「いきなり名前よびするんだ」と笑うのに合わせて胸板が振動している。
「だって、いちじょうは長くて言いにくい」
「雪之丞には負ける」
「かなめくんごめん、後でこのジャージ洗って返す」
「はあ?」
「鼻水ついた」
「お前!それ、汚い!」
「だめ、今離したらすごい顔だから離せない」
「おーい、二人とも生きてるかあ~」と上から担任の声が聞こえた。
「雪之丞さん、大丈夫?」と委員長の声も聞こえる。
梯子が降ろされた。
「絶対に顔を見ないで」と周囲に訴えながら梯子を上がる。
上がったところで女の先生が温かい蒸しタオルをくれた。
タオルで顔を拭いて安心したらまた泣いてしまった。
「雪之丞さんも女の子だったんだね」と委員長が失礼な事を言うのが聞こえた。
断固抗議したいが、今は涙と鼻水と腫れた顔が大変な事になっているから勘弁してあげる。
さんざん泣いた後に、女の先生にお風呂に連れて行ってもらいすっきりする。
部屋に戻った時にはみんな寝ていたので、静かに布団に入る。
あーあ、修学旅行の楽しいイベント、先生の目を盗んで枕投げが出来なかったなあ。
楽しみにしていたのに。
次の日は華厳の滝、立木桟橋、龍頭の滝、遊園地で遊んだ後に帰りのバス、電車の流れになった。
2日目のバスで異変が起こった。私が座っていた席にヒーロー、隣にイケメンサッカー部男子。隣の2席は委員長とモブ男子がさっさと座ったのだ。
昨夜、男子の間でバスの席に対し緊急会議が行われたのか?そうなんだな。
後ろの4席にヒロイン、幼馴染女子、私、モブ女子が座る羽目になった。
めんどくさい!と抗議の視線を送る私を見て、ヒーローがニヤリと笑い狸寝入りを決め込んだ。
私とモブ女子も面倒なので狸寝入りを決め込む。
ヒロインと幼馴染女子の事は知ったこっちゃない。
昨日、さんざん泣いた後に気づいたのだ。
私は私の人生を生きてやれば良いのだと。
少女漫画の世界で脇役だからとおとなしく運命を享受する必要はないのだ。
電車でも男子の結託による強靭なヒーロー包囲網により、席とり合戦は未然に防がれた。
乗るなり狸寝入りを決め込む男子たちを見て、担任がニコニコ笑うのを横目に入れつつ私と隣のモブ女子も狸寝入りを決め込んだ。
家に帰りお土産のお菓子を両親と兄に披露し、お風呂に入った後には早々に布団にもぐった。
机の上に日光東照宮で買った、三猿置物を飾った後にね。




