第1話「名もない光」
終わったはずの光が、地上でひとつ灯る。
すべての始まりは、まだ名もない“それ”からでした。
プロローグ
遥かな虚空の淵で、銀色の光がひとつ、力尽きるように明滅していた。
一度。
二度。
まるで救いを乞うように弱々しく明滅していたその光は、やがて最後の瞬きを終え、冷たい闇に呑み込まれた。
「……消えたか」
完全な静寂のなか、その独り言だけがかすかに響く。
その声には、諦念と悲壮が深く沈んでいた。
それでもなお、崩れ落ちることだけは自分に許していない気配があった。
背後には、巨大な月を象ったガラス器が静かに浮かんでいる。
「明けの三日月……か」
ガラス器の内側では、わずかに残った赫黒い液体が妖しくきらめいていた。
それは剃刀の刃のように細く鋭く、三日月のかたちにかすかな光を返している。
未来を繋ぐための、小さな犠牲。
私たちはまた、選ばねばならない。たとえ、同じ過ちを繰り返すことになろうとも。
「もう時間がない。……始めよう。」
虚空の銀は潰えた。
そのかわりのように、地上のどこかで、安っぽく青白い光がひとつ灯る。
まだ名もない、誰かの手の中で。
誰に聞かせるわけでもない宣言をしながら、彼は扉の方に歩き出した。
第1話を読んでいただき、ありがとうございます。
次話からは、駒込の四畳半で借金に潰されかけている大学生・直樹の現実が始まります。
月の気配が、どうして彼の手元の青白い光につながるのか。
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