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「できた~! やっと完成したわ!!」
初めて入った第二級難解ダンジョンは全十五階層からなっていて、深部ではミスリルだけでなくルビーやサファイアなどの原石もざくざく採掘できた。
最深部である十五階層は東京ドームのような広い広い洞窟になったボスフロアだったのだが、そのボスフロアにたどり着くのにこのダンジョンに入ってから五日が過ぎていた。
その理由はグリが思った以上に調査に夢中になったからだった。
そして肝心のボスは美咲から見て明らかに強そうな大きな大きな鬼で、その大鬼がまたまた強そうな七人の子分を引き連れたチーム戦だった。
初戦ではさすがのグリとパピも多数対少数という数の違いもあり少々手こずっていて、襲われそうになった美咲は恐怖MAXのパニックから瓢箪を発動させまくりあっけなく終了してしまった。
「美咲、プライベートダンジョンだ!!」
そのせいで再戦を望んだパピの要望からダンジョンに籠もることが決定した。
(どうせ納得するまで何度も戦いたいと望むに決まってるよね。だったら私は何をして時間を潰そうかな)
美咲は再戦に興味などまったく無く、ブツブツと小言を呟きながら東京ドームのようなボスフロアの入り口に移動すると、プライベートダンジョンを展開させ隅にさっさとお社を設置し避難した。
ダンジョン内でプライベートダンジョンを展開させても出現魔物やその数に採掘できる物は変わらないのがここまでの調査で分かっている。
しかし実際のダンジョンで一度戦った魔物もプライベートダンジョンを展開させれば、リポップを待たずして涌いているのが確認できた。
要するにボスは一日に一度しか涌かないが、この方法を使えば一日に二度戦えると知ったパピは再戦を望む敵が現れると美咲にプライベートダンジョンを展開しろと望むようになったのだった。
そしてパピがここのボスと満足するまで戦いたいと言い出すのは分かっていたので、美咲はその間の時間潰しの方法を考え翡翠彫刻に手を出していた。
瓢箪を彫刻するときに使った道具が思いの外良い物だったらしく、試してみたら普通に翡翠を彫刻するのにも使えたのは本当にありがたかった。
やはり初めは勾玉からかとも思ったが、その翡翠の透明度の高い濃い緑があまりにも綺麗だったので、なんとなく高貴なバラをイメージして彫り始めた。
慎重に作業していたのもあるが、まったり時間を削って全集中しても仕上げるのに八日もかかっていた。しかしその代わり仕上がりはかなり満足のいくものだった。
仕上がりを一緒に喜んで欲しかったグリもパピもここボスフロアには今は居ない。今日はもうここには魔物は涌かないと分かっているので二人とも他の階層に出張中だ。
二人が何をしているのかは想像に難くないが、こういう時に一人なのはちょっとだけ寂しさを感じる。
「初めてにしては上出来だよね」
美咲はできあがった翡翠のバラを明かりに透かしてみては、その出来映えの美しさにニヤニヤが止まらずにいた。
「でもこれどうしようか?」
一瞬売るとしたらどの位の値段が付くのかと少しだけ興味が湧いたが、それよりも誰かにプレゼントしたいという思いの方が強くなる。
「折角一生懸命作ったんだし、どうせなら誰かに貰って欲しいよね」
美咲の脳裏には真っ先にグリやパピの顔が浮かんだが、それより先に神様にお供えしてみようかと思い至った。
「食べ物じゃないけど喜んでくれるかな」
簡易お社はプライベートダンジョン内でなくても場所さえあれば設置できる。なので旅に欠かせない快適空間をくれたお礼もあるし、何よりグリとパピという頼もしい守護獣を遣わしてくれた感謝もある。
それに女神様だからもしかしたら宝石の類いも喜んでくれるのではないかと言う考えもあった。
「受け取って貰えなかったらパピにあげるとしよう。うん、そうしよう」
美咲は祭壇の前へ行くとここのボスで作ったお酒と一緒に翡翠のバラをお供えし手を合わせる。
「私が初めて作った彫刻宝石です。どうぞお受け取りください」
そうして心の中で日々の感謝の気持ちを述べていると久しぶりに祭壇が光り輝いた。
「きゃぁぁぁ~、素敵よ。勿論とても気に入ったわ。これは何かお礼をしなくてはいけないわね。いいわいいわお社の機能をもう少し増やしましょう。そうねぇ、お社を広くするのと外にスペースを作るのとどちらがいいかしら…」
美咲は悩んでいる風の神様に咄嗟に叫び声を上げて要求する。
「外にスペースをください! できれば井戸も!!」
お社は今の広さで美咲自身あまり不便を感じていない。と言うか寧ろ狭い方が掃除も管理も簡単で済むのがいい。それよりも外に自由にできるスペースがあればと常々願っていたのだ。
畑を作ったり花や木を植えられるスペースがあればどんなに生活が充実し潤うかと。何より洗濯物を外に干せるようになるのは本当にありがたい。できれば井戸も作ってくれたらもっと便利になるだろう。
「その願い聞き届けましょう」
「やったぁぁー!」
今回はちゃんと会話ができたようで、願いが聞き届けられると知り美咲は心から喜んだ。
「ああ、それとあなたがこれから尋ねる神もきっとこの宝石彫刻を喜ぶはずよ。余裕があるのならまた作るのをお勧めするわ」
神様は言うだけ言うとその気配を消していた。
美咲は神様へのお供えは食べ物でなくてもいいのだと知り、また他にも翡翠彫刻を喜んでくれる神様も居るのだと思うと、このまま翡翠彫刻をコツコツ続けるのも良いかと考えるのだった。




