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「ここのダンジョンを出るのなら明日はボスの妖石を残しましょう」
「なんでだよ!」
貴重な妖石を経験値石としか考えていないパピは納得がいかないようだった。
「ダンジョン最下層まで到達した証明に必要です。それに何も持ち帰らずに出たらそれはそれで別の騒ぎや疑惑を生むことになります」
美咲が翡翠彫刻を仕上げ神様にお供えしたことを報告すると、ここのボスとの対戦にだいぶ慣れてレベルもかなり上がったらしいグリとパピもダンジョンを出ると決め、そのための算段が始まった。
グリとパピはどうやら作業に夢中になっていた美咲に合わせてくれていたらしいが、美咲の方はグリとパピに付き合って仕方なくダンジョンに籠もっているつもりでいたので話は簡単だった。
意見の相違はあったが出るとなると話が進むのが早く、翌日ボスの妖石を手に入れたらそのまま一気に地上を目指すことになった。今回はなるべく急ぎで行く予定。
手元に残しておきたい翡翠や鉱石をお社の中に隠してもそこそこ提出できるだけの物は集まっているので問題はないだろう。
「またあの面倒な連中を相手しなくちゃならないのか。プライベートダンジョンを展開させたまま出たらどうだ」
「入るところを目撃されているのですからそうもできません」
パピの気持ちがとっても理解できる美咲もグリの意見に反論はできなかった。プライベートダンジョンのことは誰にも知られる訳にはいかないのだから仕方ない。
そして日付が変わると同時に既にプライベートダンジョン内のボスを倒し終わったグリとパピに無理矢理起こされ、美咲が寝起きのはっきりしない意識のままプライベートダンジョンを消すと、グリとパピは現実のダンジョンのボスをサクサクと倒し美咲の手を引きそのまま地上に向かい始める。
帰りはダンジョン内で調査も採掘もする予定はなくグリとパピの無双状態。途中で出会う採掘者達はみな驚いた表情を見せている。どうやらダンジョン内で死んだと思われていたようだった。
そりゃそうだ、単独だと日帰りかまたは無理して徹夜行脚のダンジョン探索が普通のところを半月以上も潜っていたのだからそう思われるのも仕方ないだろう。
しかし採掘者が多くなるにつれ無遠慮に声を掛けてくる者も増え、やはりとても面倒なことになった。
「驚いたな、生きてたのか」
「それで何階層まで行ったんだ」
「何か変わった物は採れたのか」
「今までどうやって生きてたんだ」
「荷物はそれだけか? 俺たちが持ってやろうか」
まるで涌いた魔物をフルボッコにするかのように纏わり付かれ囲まれてしまうと美咲は少々危険を感じて震えてしまう。
「煩い! 触るな!!」
パピの大声とグリの鋭い冷たい目つきが纏わり付く採掘者達を一瞬黙らせた。
「どうしても知りたいというのでしたら情報料をいただきますよ」
「何をふざけたことを、無事にここから出たければ大人しく俺らの言うことを聞くしかないんだよ」
怯んでいたはずの採掘者達が集まり始める。自分の陣地を守り場所を動かない筈の採掘者達がこういう場合は組も関係なく団結するのだと美咲は驚きだった。
採掘者としてのプライドなのか何なのかは理解不能だったが、どうやってでも自分達の意見を通したいようだ。
「数が居れば有利だと思われるとは私達も甘く見られたものですね」
「グリ手加減無しでいいのか?」
(て、手加減無しって何よ。パピが手加減しなかったら死んじゃうじゃない。相手は魔物じゃなくて人間だよ。ちょっとは考えなさいよ)
声に出したかったが美咲の震えは止まらず、ただただグリの影に隠れるしかできなかった。
「無力化するだけで結構ですよ」
「無力化はいいけどコイツら魔物が涌いてもしばらくは戦えなくなるぞ」
グリとパピが物騒な話をしていると美咲には理解できたが採掘者達には分からなかったらしい。
「何をごちゃごちゃと言ってやがる。野郎どもやっちまえ!!」
一斉に襲いかかる採掘者達にグリとパピは慌てる風も見せず、その一人一人の額に人差し指を軽く当てる。
すると人差し指を当てられた採掘者はまるで魂を抜かれたかのようにその場で意識を無くし次々と倒れていった。
二人のその動きが速すぎて美咲の目にはまるで千手観音の動作のように写っていた。
「まだやりますか?」
途中で動きを止め踏みとどまった採掘者達に威圧的または挑発的な視線を送ると、残っていた採掘者達が揃って逃げ出す様子はまるでC級映画でも見ているようだった。
「はぁ~」
何もできずにただ震え事の成り行きを見守っていただけの美咲は腰から崩れ落ち安堵の息を大きく吐いた。
「やはり魔物より人間の方が厄介だな」
「あと少しでここから出られると言うことですよ。このまま行きますよ。きっとさっきの彼らが他の皆さんに触れ回ってくれることでしょうからここからは大丈夫でしょう」
「そんなことよりこの人達は大丈夫なの?」
「眠っているだけです。しばらくすれば目を覚ますでしょう」
グリに優しく手を引かれ立たされると美咲は採掘者達が死んでいないことに安心して手を引かれるままに歩き始める。
そしてグリの推測は正しかったようで、他の採掘者達に出会う度に遠巻きにヒソヒソされ美咲的にはとても居心地が悪かったが、採掘者に絡まれる事もなく無事にダンジョンを出る事ができた。
「おお、生きてたか!」
「それにしても長く潜っていたな。何か良い物は採れたのか?」
美咲達を覚えていたのかダンジョン出入り口を守る番兵にまで声を掛けられた。
「ええ、一応最下層まで行ってきました」
「何っ!?」
「おまえら冗談も大概にとけ、その人数でましてや子供連れで行って帰って来られるなら誰も苦労しねえよ」
「ははは、そりゃそうだよな。一瞬信じちまったぜ」
番兵はまったく信じる様子はなく冗談だと笑い飛ばされるが、グリもパピも別にそんな番兵の態度など気にする風もなかった。
「それで採掘した鉱石などはどちらに提出すればよろしいのでしょう」
「ダンジョン管理課に専門の窓口があるからそこへ行きな」
番兵から番号が書かれた木札を渡される。多分不正持ち出し防止のための策で、ダンジョンから出たら強制的に寄らされるのだろう。
「はい、ありがとうございます」
「随分頑張ったんだ稼げてたらいいな」
グリとパピが背負った鞄の膨らみを見てさらに声を掛けてくれる番兵に見送られ、美咲達はその足でダンジョン管理課へと向かうのだった。




