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「この近くにダンジョンがあるらしいぞ。是非行ってみよう!」
漸く大きな街を見つけ休暇のつもりで街を散策していたら、街の傍にダンジョンがあると聞いたパピがすっかり行く気になっていた。それも今すぐにでもダンジョンに入りそうな勢いだ。
「はぁ…。ダンジョンなら毎日嫌というほど入っているでしょう。そんなに急ぐ必要ある?」
「別のダンジョンだぞ。どんな魔物が居るか楽しみじゃないのか!」
「そう言えば美咲のダンジョン以外を私達は知りませんので、他のダンジョンとはどういったものなのか確かに気にはなりますね」
「何よグリまで…」
まさかグリまで他のダンジョンに興味を持つとは思っていなかった美咲は大きく溜息を吐いた。
確かに街全体をプライベートダンジョン化させたらどうなるのか興味があるのと同じく、普通のダンジョンをプライベートダンジョン化させたらどうなるのかも気になる。
だがしかし、興味はあるが毎日魔物の選択をできるプライベートダンジョンで過ごしているのに、わざわざ他のダンジョンへ急いで行きたがる気が知れなかった。
「そう言えばダンジョンの傍に大きな街が作られるという話を聞いたことがあります。ですので私達の居た領都の傍にもダンジョンがあると言うことでしたね」
「なんで今さらそれを言うんだよ。もっと早く知ってたら行けたのに」
「あの時はそれほど興味もありませんでしたし、美咲が狙われているようでしたから安全を考えたらそれどころではなかったでしょう」
パピだけでなく美咲も領都の傍にもダンジョンがあったと聞いて驚くと同時に、それで領都の多くの人達の服装は冒険者風で武器屋の武器も充実していたのかとどこか納得していた。
そして自分があまりにも情報に疎く、その辺のこともすべてグリ頼みにしているのだと気付かされる。
もっとも前世ではネットやテレビで欲しい情報はいつでも仕入れられていたが、この世界にはネットもテレビも無いので他者の話を聞かなくては情報を得ることができない。
美咲はその他者との関わりをまったく持たず、情報を仕入れる心構えさえできていなかったので仕方ないと言えば仕方なかった。
それにもっと重要な事を言えば美咲は、領都を出てからどこへも寄らずに生まれ育った領をいつの間にか抜けていたので、自分が領主に探されていることなど露ほども知らなかった。
「でもそうね。ダンジョンをプライベートダンジョン化したらどうなるのかも気にはなってるし、できるとは聞いていたけど今まで試したことがなかったから良い機会かもね」
「そう来なくっちゃな。じゃあさっそく行くぞ」
「えぇぇっ~、今日は街の散策をするんじゃ無いのぉ? ダンジョンは明日でもいいじゃないよぉ~」
「ダメだ。思い立ったが吉日と言うだろう。今すぐだ!!」
いつものようにほぼ強制的にパピに引きずられるようにして美咲がダンジョンへと連れて行かれると、何と驚いたことに採掘者登録が必要だと追い返された。
この世界のダンジョンは殆ど鉱山になっているらしく、中で採掘される鉱石を持ち帰るのを主流としていて魔物討伐はそのついでみたいな扱いなのだそうだ。それにそもそも美咲の年齢では採掘者登録はできないらしい。
「おい、散歩に来たんならとっとと帰りな」
「こんなガキ連れで簡単に採掘できると思われるとはまったくここのダンジョンも舐められたものだな」
「まったくだぜ。ここは他より少しばかり強い魔物が出ると言われてる第二級難解ダンジョンだぜ。死にたくなければ近寄るんじゃねえ」
「何っ、そんなに強い魔物が出るのか?」
「えっと、その第二級難解ダンジョンとはいったいどのようなものなのでしょう?」
グリとパピが同時に別々の興味を持ち、別々の質問をダンジョンへの出入りを管理しているらしい番兵に投げかけていた。
「……」
しかし当の番兵はすごすごと逃げ帰ると思っていたグリやパピの思わぬ態度に咄嗟に反応できず一瞬固まってしまう。
「おまえ達の知りたいことはダンジョン管理課が詳しく教えてくれるだろうよ」
「そうだそうだ。ダンジョン管理課で採掘者登録してから出直して来な」
番兵はグリとパピを簡単には扱えないと悟ったのか、その対応をダンジョン管理課に丸投げするのだった。
「おし、じゃあ折角だそのダンジョン管理課とやらに行ってみよう」
「そうですね。詳しく教えていただけるのでしたら聞いておかなくてはいけませんね」
「いやいやいや、私は入れないんだからここは諦めるところでしょう」
「美咲、どんな情報も無駄ということはありません。たとえ自分に関係ないと思った情報もいつどこで役に立つか分からないのですよ」
「それに強い魔物と戦えるなら採掘者登録した方がどう考えても得だろう」
グリの意見には素直に賛成できるが、パピの言うどう考えても得の意味がまったく理解できない美咲ではあったが、そこは本当に仕方なくだが大人しく二人に従うことにした。
「じゃぁ次はダンジョン管理課へ行くのね」
ダンジョン管理課はダンジョンの傍に建てられた二階建ての立派なお屋敷の中にあるらしく、冒険者風の人達がやたらと出入りしているのですぐに分かった。
中に入ると土間になっていて銭湯の番台のような受付があり、それを囲むようにいくつかの扉があった。
「採掘者登録をしに来た」
「ダンジョンについて幾つか知りたいことがあるのですが、誰に伺ったらよろしいのでしょう」
「そちらの扉へどうぞ」
またもやグリとパピの同時質問にもまったく動じることなく、受付に座る中年女性はただ坦々と手を差し伸べ答えるので美咲達は次はその示された扉の中へと入る。
中は石を敷き詰めた土間と一段高くなった板の間になっていて、板の間で向かい合い話し込んでいる人達の姿があった。
「ようこそいらっしゃいませ。今日はどういったご用件でしょうか」
美咲達の姿を確認したらしい職員がすぐに駆け寄ってきた。
「採掘者登録をしに来た」
今回はグリも大人しく頷くだけだった。どうやらパピの要件を先に済ませた方が話が早いと悟ったのだろう。
「ご夫婦での登録ですか? しかしお子様連れでは大変危険かと思われますよ」
「承知の上だ。とにかく登録をしてくれ」
パピは美咲達を親子だと暗に認めた形になっているとはきっと気付いてもいないのだろうと、美咲はグリと顔を見合わせた。
(でももしかしたら本当にグリとパピは夫婦なのかしら?)
「大丈夫です。私は留守番をしますので」
強引なパピに対しても営業スマイルを絶やさない若い男性職員に美咲は遠慮がちに伝える。
「まぁ、中には荷物持ちに子供を連れて入る採掘者もいますので無理に反対はいたしませんが、危険が伴うのだけはお忘れ無きようお願いいたします。それでは登録いたしますのでお上がりください」
職員に促され板の間に上がると何故か隅の方の場所に案内された。
結構広い板の間なので他に場所もあっただろうにと考えながら、美咲は傍にまた別の扉があるのに気づき、多分自分達は面倒くさい客認定され、何かあったらすぐに助けを呼ぶためなのだろうとなんとなく一人納得するのだった。
しばらく一週間ごとに更新時間をずらしていく予定です。今週は12:00で来週は15:00を予定してます。少しでも多くの人に読んで欲しいという思いからの姑息な手段ですみません。




