ゲーリック・トラバース
ゲーリック・トラバースはデスクの前に着座した。
いつもと変わらない風景。使い古した万年筆と、数々の書類。
処理に難儀することもあるが、それも含めて仕事の一部である。
──今日も、これに向き合わなければいけないのか
ゲーリックは嘆息した。
自分が役目を受けたことに不満はない。ただ、精神的な負担は大きかった。
今日は病気を押して、マクドナルド監督がチェッカーズのグラウンドに顔を見せる予定である。
そこで、どんな会話が為されるのか。
ゲーリックはまた、深く息を吐いた。
マクドナルド監督の来訪に対してではない。自分がまた噓をつくのではないのか、ということに対してである。
ゲーリックはひとつの紙束を、机の上に広げた。紙はA4、細かい文字が並んでいる。
印刷ではなく手書きで書かれた文字列は、後半に行くにつれて、作業に飽きた体を雑な筆跡として残している。
──この文字を書いた奴は真面目じゃないな
ゲーリックはそう思っているが、文字を確認するのに手間取るほど、乱れているわけではなかった。こういう人間のほうが、仕事ができたりするものだ。
球団職員としての仕事で、ゲーリックは選手名簿の管理を行っていた。
誰が入ってきて、誰が抜けたのか。大抵はそれをチェックするだけだが、世情が怪しくなって新たな仕事が増えた。
兵士として徴収される選手が出た。そのせいで名簿のチェックリストとして「出征中」と「死亡」、そして「行方不明」の列が増えた。
政府の誰かに言われて、そうしたのではない。選手たちを雇用していた組織の責任として、確認する必要があったのだ。
そして、それをチェックリストに書き込む役に、ゲーリックは選ばれた。
ゲーリックは最初、役目を歓迎した。
ゲーリックは球団本部と、選手たちとを繋げる役目をしていた。
ただ、これは良く言った場合の言い方で、本当は小間使いに近かった。
ただ、自分にあった繋がりを生かせる仕事だと思っていた。
選手の名を言われれば、顔をはっきりと思い浮かべることができるし、声や性格も頭の中にあった。
自分の中にハッキリと存在している人間の、現在位置を知ることができる。混迷の中にある世情においては貴重な仕事だ。
ゲーリックはさっそく、名簿を球団から貰い受けて、自分のデスクに見えるように置いた。
そして、連絡が来るのを待った。
初めて連絡がきたのは、1930年に入ってからのことである。
下部組織に所属していた選手が、戦地から無事に帰還したという報せだった。
ゲーリックは何も考えず「出征中」の欄に入れた丸印に、チェックを入れた。
丸にチェック。これが戦地から帰還した、ということを表すサインだった。
そして何人かの無事を確認した後、自分の知っている名前が唐突にそこに名前を出してきた。
「アイク・ウィリアムズ 行方不明」
ゲーリックにとっては馴染み深い名前である。
クロークハッチ・チェッカーズに就職して間も無いころ
──彼を球団職員にスカウトしろ
と、上部の人間から言われて、彼に
「実は、球団職員としての才能があると評価されているんだ」
と伝えたことがあった。
アイクは少し考えた後に、ゲーリックの目を真正面から見て
「俺は選手として、このチームを支えられる人材になりたいんです」
と言った。
ゲーリックはチェッカーズの上層部の人間が、支配的だったことを思い出して
──これは、まずいことになるぞ
と、身を震わせた。
入ったばかりの若い自分が、何も成果をもたらせずにおめおめと帰ったところで、球団の本部にいる人間が寛容であるとは思えない。
アイクも、そのゲーリクの不安を察知したのだろう。同情した表情を見せはしたが、自分の言い分は譲れないと
「とにかく、俺はやらない。上司に伝えてくれ」
と言って、帰された。
そのあと思った通り、ゲーリックは上司の御冠を食らった。
「たかがひとりを誘えんのに、何が繋ぎ役だ!」
と、ゲーリックのことを責め立てた。
──人の意思は、そんなに思い通りにはならない
ゲーリックは訴えたかったが、この時期にそんな力は無かった。
後日、チェッカーズのロッカールームに再び行くと、アイクの方から声をかけてきた。
「用事がないなら、飲みに行こう」
その言葉の通り、試合後に球場近くの酒場に誘われた。
酒を飲むと、普段から溜まっていた鬱憤が噴出してくるものである。
慣れない環境で悪戦苦闘と閉口を繰り返しているうちに、ゲーリックは相当溜め込んでいたらしい。自分でも驚くほどに、次から次に愚痴が飛び出した。
アイクは何も言わず、それを聞いていた。時に頷くこともしてくれていた。
ゲーリックはそのアイクの態度のおかげで、自分を安らげることができた。
酒場を後にすると、ゲーリックはアイクに対して謝った。
「こんなに付き合って貰えるなんて思ってもみなかった。色々聞きたくないことも聞いただろう、謝るよ」
アイクは気にすることもなく、ただ自分の思うことを話した。
「人は噓をつくものだよ。みんなそうじゃないか」
雲を掴むような抽象的な言葉だったが、今の自分に重ねてみると
──確かに、嘘は付き物だな
と思った。
そういった思い出があるアイクが、行方不明になった。
混迷期における「行方不明」は、凡そ「死亡」と同義である。ゲーリックにとって、信じがたい報せだった。
だが、紙上に書き記すしかなかった。
これまでが無事を知らせる情報ばかりだったから、ゲーリック自身も油断していたかもしれない。
木槌で側頭部を叩かれたような衝撃が、確かにあった。
──アイク・ウィリアムス、行方不明
その言葉を自分の頭の中で繰り返しながら、名前の横に設けられた「行方不明」の欄にチェックを入れた。
──このチェックマークが消える時が来るのだろうか
ゲーリックは叶いそうにない想いを抱えた。いつか還ってこないかと夢想したが、どうしようもない運命を名簿に記しているとも自認していた。
それからというもの、定期的に所属していた選手に関して、凶報が舞い込んでくるようになった。
下部組織に所属している人間もそうだが、自分が顔を見知っていた選手も含まれていた。
リック・ハートは、「行方不明」ということで処理されていた。時期的に言えば、戦地でそうなったに違いない。
彼の純粋さを思い浮かべると、なぜそんな目に遭ってしまったのかと思わざるを得ない。
そして、自分から積極的に出征に向かったロラン・バークライの欄には「死亡」の場所にチェックが入った。
彼の所属する小隊が、現地のゲリラ部隊に襲われて壊滅したらしい。
迎えに行った航空隊が、タグなどから実際に確認をしたというから間違いは無い。
ハリー・ボルドウィンとロールス・エイブラムスの訃報は、ほぼ同時に届けられた。
ハリーは手榴弾の誤爆で。ロールスは空襲に襲われて死んだ。
ハリーは養子として育てられた背景もあってか、人に優しかった。まだ26歳だったはずだ。将来を嘱望された外野手だった。
ロールスは、ひと癖もふた癖もある人間だったが、スプリッターが魅力のパワーピッチャーだった。彼は自分の身内のことを話したことがない。彼の死を悲しむ人が居てくれるのか。
戦時中に葬儀が行われたのは、その中で唯一、マット・テイラーが死んだ時だった。
彼の遺体は本土に帰ってくるのが早く、そのおかげで葬儀を執り行うことができた。
そこには、チームに残ったタイラー・オーニールやマクドナルド監督の姿もあった。
マットの父親の弔辞を聞いた時
──この親からなら、マットのような人間が生まれるはずだ
と、思ったのを覚えている。
そして、今。
チェッカーズの屋台骨だったマクドナルド監督と、投手として所属しているマイケル・ケイジが、ともに病床に臥している。
世の中に溢れた瘴気というのは、体を侵してしまうものなのか。ゲーリックはマクドナルド監督を迎えに行く車の中で、そんなことを考えた。
マクドナルド監督を車に乗せ、チェッカーズのホームグラウンドの駐車場に停めて、関係者用の通路からベンチにまで徒歩で向かった。
ベンチに2人して座ると沈黙が続いた。
マクドナルド監督は、この時間を楽しみたいのだろう。
その心を尊重しようと、ゲーリックは自分の存在を消した。
ゲーリックは、耐えられなかった。風がいくつか吹いた後、マクドナルド監督に言葉をかけた。
「監督……」
マクドナルド監督との付き合いは、かれこれ18年ほどになる。
気分としてはマクドナルド監督の体調を気遣っていたが、その実は、自分とマクドナルド監督との付き合いの中で出た、甘さだったのかもしれない。
「なに、心配はいらない」
マクドナルド監督は微笑んだ。
普通だったら、笑顔を見ると嬉しくなるものである。だがマクドナルド監督の病状を思うと、むしろ悲しいものだった。
「はあ、良いんですか? お医者さんが怒りますよ?」
そう言ったのは自分の中にある悲しさを、マクドナルド監督の意固地な部分に預けて、霧消させたかったからだろう。
マクドナルド監督は、意に介さなかった。
「良いんだよ。わたしには、これが最善だ」
ジョークを言うようだった。マクドナルド監督は、ゲーリックのことを心配させたくなかったのだろう。
だがゲーリックにとっては言葉遣いに、逆に寂しさを感じた。
──もう、死ぬことが分かっているんだろう
と、考えてしまう。
そんなことはないはずだ、まだ生きる執念を持っているはずだ。そう思っても、マクドナルド監督が湛えた笑みには、
──何も思い残すことはない
というメッセージが見えた。
もういちど、風が吹いた。
「選手たちは、どうなっているんだろうな」
マクドナルド監督は、ゲーリックに問いかけた。
──まだ、監督はあきらめていない
ゲーリックは感じ取った。この人は、またグラウンドに活気が戻ってくると信じているのだ。
むろん、自分もそう思っている。
だが、そのために戻ってこれる人間は少ない。
球団本部の方針で、マクドナルド監督には所属選手の安否を伝えないようにしている。
葬儀を営んだマットの場合は例外だったが、他の選手に関しては、マクドナルド監督は出征に出たことぐらいしか知らない。
見方によっては残酷な仕打ちだが、全てはチーム運営に注力して貰うという、名分があった。
「私のほうには、まだ何も」
心が冷えるのが分かった。
自分は、噓をついた。それも、死をも覚悟しているだろう人に対してである。
──不道徳だ
だが、ここで真実を話した所で、マクドナルド監督の寿命が延びるとも思わない。
──むしろ、命を縮めてしまうかもしれない
言い訳をすることが、今の自分にとっては最善だと思った。
「そうか」
マクドナルド監督は、それ以上のことを言わずに立ち上がった。
場を立ち去ろうとベンチへの入り口に歩き始めた時、マクドナルド監督が転びそうになった。
「監督」
ゲーリックはマクドナルド監督の体を支えて、倒れこまないようにした。
「監督、無理をするから──」
つい言葉の調子が強くなった。マクドナルド監督はゲーリックに手を向けて
──かまうな
という声の代わりにした。
ゲーリックはマクドナルド監督に、それ以上言葉をかけられなかった。
2か月後、マクドナルド監督がこの世を去った。
朝。様子を見に来た看護婦が、座った姿勢のままで事切れていたのを見つけたのだそうだ。
最期にマクドナルド監督が、何を見ていたのかはわからない。
ただ、ゲーリックには何となく思える。
きっと目の前に、グラウンドが見えていたことに違いない。
たった2か月前に見せていた情熱の欠片を、死の間際になって失うはずがない。むしろ、強く燃え上がらせていたのではないか。
ゲーリックは夢想しながら、今日も職務に励んだ。
1934年の秋である。
──・──・──・──
ある日ゲーリックは、チェックマークが入れられた選手表を見ながら、ふと思った。
──自分が、選手たちを殺しているのではないか
突拍子も無かったが、あながち間違いでもないように思った。
ここに文字として表記されている選手は、いわば記憶の残滓だ。文字列だけで、その選手との思い出が蘇る。
過去のことであっても、過去ではない。
自身の記憶を縁として、確かな存在として表現される。
しかし「行方不明」だとか「死亡」の欄に、チェックマークが入るとどうなるだろうか。
記憶が、すべて過去になる。
記憶が過去になった時、その人物が確かに死んだのだと考えざるを得なくなる。
自分が死神になったのではないか。そう錯覚したことがある。
私物の万年筆で印をつけるたび存在が過去のものに、つまり死を迎える。
そう思うと、自分がかつてなく残酷な行動をしていると思えた。
表に乗っている人物がたとえ死んでいなくても、チェックマークを付けると死んだ存在として記録される。その行為の、なんと恐ろしいことか。
──もしかしたら、権力とはこういうものなのか
そう考えたりもしたが、権力者ですら生死そのもので越権することは無いと考えると、冷や汗が出た。
もしかしたら、心が病んでいたのかもしれない。自分に課せられた責任に対して、耐えることができなくなっていたのだろう。
それでも、自分が感じていた使命感とに板挟みにあって、辞めることはできなくなっていた。
マクドナルド監督が亡くなった、ほぼ同じころにマイケル・ケイジが亡くなったと連絡が届いた。
マイケルはもともと病がちで、チームにとっても管理が難しい選手だったが、出れば確実に戦力になった。ルックスも特徴的で、ファンに愛された選手でもある。
ゲーリックは、マイケルの横にある「死亡」の欄にチェックを入れようとした。
ふと、この欄にチェックを入れなかったら生き続けるのだろうか、と考えた。
そんなはずがない、というのは理解している。
だが、試してみたい気持ちもあった。枠の中にチェックを入れなければ、永遠に彼は生き続けるかもしれない。
その考えに従って、その日はマイケルの「死亡」の欄にチェックを入れなかった。
何日か経って、チェッカーズのロッカールームを訪れる機会があった。
ロッカーの中には最低限試合ができるだけの選手と、臨時の監督がいた。
選手たちの中に、タイラー・オーニールがいた。
戦前からただ1人、嘆願の署名もあって、このチームに残って腕を振るっている。
この中では、いちばん付き合いが長い彼に話した。
「実は──」
ゲーリックの告白を聞いたタイラーは、顔色を一気に変えた。
次の瞬間、突発的に出たのか、それとも意図してやったのかはわからないが、タイラーはゲーリックを手で押し退けた。
「何をするんだ」
ゲーリックは困惑しながら、タイラーにその意図を聞いた。
タイラーは即答した。
「あんたは、仲間の命をもてあそびたいのか?」
ゲーリックは、はっとした。すぐに
「すまない」
と、謝った。
自分のしたことが余りに愚かだと、自覚したからである。
自分にとっては、一時の気の迷いだった。だがタイラーにとっては、同じ景色を見ていた仲間を愚弄したことに他ならなかった。
ゲーリックはいつの間にか、与えられた役目に溺れていたのである。
球団の本部に帰ったゲーリックは、すぐさまマイケルの死亡欄にチェックを入れた。
その日から三日三晩、反省と後悔ばかりが頭を埋め尽くした。
「すまない。臆病だったんだ……」
ゲーリックは自分の余りな臆病さを、人生で初めて自覚したかもしれない。これまでも
──自分は臆病だ
と思うことはあったが、強烈な自己批判としてそう思ったのは、初めてだった。
──・──・──・──
戦争が終わって世情が安定してくると、グラウンドにも徐々に活気が戻っていった。
そうなると自分がチェックを入れた名簿は、資料としての価値しか持ち得なくなっていた。
──これは、彼らが生きた証なんだ
ゲーリックはそう思っている。
筆記してあることは、誰が死んだかだけである。だが「死」を表すことによって「生」を、色濃く描写しているのだ。
身をもって知ったゲーリックは、名簿に強いメッセージ性があると信じて疑わなかった。
戦場から還ってきた選手たちには、チェッカーズに戻ってきた人間も、戻ってこなかった人間もいた。
世の中は上手くいかない。
球団の上層部はチェッカーズに戻って来ると信じていたようだが、全てが狂ってしまった後に、元に戻ることなど無かった。
ゲーリックはマクドナルド監督が亡くなったあたりから、あるいはそれ以前から
──元には戻らないのだろう
と予感していたから意外には感じなかった。
だが球団側にはデイブ・リンデンの移籍問題などもあって、相応の衝撃が走った。
有事から抜け出した世情に慣れ始めた、1942年。
ひとつの訃報が舞い込んできた。サイモン・ポーリーが亡くなったのだという。
ゲーリックはその葬儀に参加することになった。
チェッカーズに在籍した人間で参加したのは、6人だけだった。
「随分、少なくなったな」
エルヴィス・ホールトンだった。
ゲーリックは口をつぐんだ。それは他のメンバーも同様だった。きっと全員が、悲しみを表現しかねている。
ジェフ・オーガスタが、カーター・フレイマンの方を見た。
「なんで、お前がいるんだよ」
その目は敵意を孕んでいた。
たしかにカーターは、サイモンを散々に貶してきた過去がある。カーターは何か思うことがあるのか、言葉を発することはなかった。
「よくもいけしゃあしゃあと……」
喧嘩腰になったジェフを、ジェイコブ・フューリーが止めた。
「ジェフ。サイモンが会うことを望んでいたそうだ。だよな? ゲーリック」
ジェイコブが言う通りだった。
サイモンは生前、戦争から帰還したあと、すぐに球団本部に来て
「カーターは、カーター・フレイマンはどうしてますか?」
と、球団職員に訊いて回った。
なぜそこまで、カーターのことを気に掛けているのかと訊くと
「彼と、また野球をしようと約束したんです」
と、サイモンは答えた。
球団職員たちは、彼の純粋なまでの優しさに応えない、ということはできなかった。
カーターは兵役に出たと伝え、サイモンが場を去ってから8年。
カーターの帰還という情報を得てから何回も手紙を出して
──サイモンと会ってくれ
ということを頼んだが、カーターは聞き容れなかった。
サイモンにも、カーターに会えるように連絡先は教えていたが
「彼が会いたがっていない内は、無理に顔を合わせられません」
と言って、自分から会いに行くということを避けていた。
そうして年月が過ぎ、次に会うのがこんな場だとは想像していなかった。
「だったら、なおさらだ。なんで来たんだよ?」
ジェフの短気な性格は、ときに人の傷を抉る。
カーターの行動が、ジェフにとっては利己的に見えて堪忍ならないのだろう。
「ジェフ、よせ。サイモンが望んでいないのはわかるだろ」
確かに、そうだ。彼はカーターの事をよく心配していた。
──かつての自分を見ているようで、放っておくことができないんです
そう打ち明けられたことを、ゲーリックは鮮明に覚えている。
思えばチェッカーズというチームには、不思議な循環がある。
怨みや怒りが、なぜかお互いの繋がりを強くしてしまう。
独立した個々人の関係性というよりも、それぞれが血管と臓器で繋がれているような、そんな生々しさすらも感じる程である。
お互いが生きるために、お互いがなくてはならない。
カーターとサイモンの繋がりは、それを象徴しているようにも思えた。
葬儀が終わりに近づいたころ、ジェイコブがカーターと話しているところを見た。
深刻で、しかしながら活力を感じるような口調が聞こえてきた。
ゲーリックは思わず、聞き耳を立てた。
「カーター。自分は待ちすぎていたのかもしれない」
「そうか。俺も感じたよ」
「少なすぎると思わないか。そこまでバラバラだったかな、と思ったんだ」
「……サイモンはどう思っていたんだろうな」
「サイモン・ポーリー……たぶん、純粋に野球を楽しみたいと言う気がする」
「そうかもな……なあ、なかまたちを訪ねられないか?」
「仲間たちを? どういう意味だ?」
「少しな」
「過去に縋りたいのか」
「そうじゃない。ただ、あの時に抱えていた物を思い出したい」
「そうか。……自分も付き合ってみようかな」
2人がそこまで話した時、ゲーリックはその会話の中に入っていた。
「俺も、協力して良いか?」
2人は驚いた表情を見せた。
ゲーリックが唐突に表れたことにではなく、提案に驚いた。
「なんで、そんなことを?」
2人が質問すると、ゲーリックは目を光らせた。
「生きていた証を、ちゃんとこの目で見届けたいんだ」




