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セプテンバー・コール・アップ  作者: ヒポポクロス


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ゲーリック・トラバース

 ゲーリック・トラバースはデスクの前に着座した。

 いつもと変わらない風景。使い古した万年筆と、数々の書類。

 処理に難儀することもあるが、それも含めて仕事の一部である。

──今日も、これに向き合わなければいけないのか

 ゲーリックは嘆息たんそくした。


 自分が役目を受けたことに不満はない。ただ、精神的な負担は大きかった。

 今日は病気を押して、マクドナルド監督がチェッカーズのグラウンドに顔を見せる予定である。

 そこで、どんな会話が為されるのか。


 ゲーリックはまた、深く息を吐いた。

 マクドナルド監督の来訪に対してではない。自分がまた噓をつくのではないのか、ということに対してである。


 ゲーリックはひとつの紙束を、机の上に広げた。紙はA4、細かい文字が並んでいる。

 印刷ではなく手書きで書かれた文字列は、後半に行くにつれて、作業に飽きた体を雑な筆跡として残している。

──この文字を書いた奴は真面目じゃないな

 ゲーリックはそう思っているが、文字を確認するのに手間取るほど、乱れているわけではなかった。こういう人間のほうが、仕事ができたりするものだ。


 球団職員としての仕事で、ゲーリックは選手名簿の管理を行っていた。

 誰が入ってきて、誰が抜けたのか。大抵はそれをチェックするだけだが、世情が怪しくなって新たな仕事が増えた。


 兵士として徴収される選手が出た。そのせいで名簿のチェックリストとして「出征中」と「死亡」、そして「行方不明」の列が増えた。

 政府の誰かに言われて、そうしたのではない。選手たちを雇用していた組織の責任として、確認する必要があったのだ。

 そして、それをチェックリストに書き込む役に、ゲーリックは選ばれた。


 ゲーリックは最初、役目を歓迎した。

 ゲーリックは球団本部と、選手たちとを繋げる役目をしていた。

 ただ、これは良く言った場合の言い方で、本当は小間使いに近かった。


 ただ、自分にあった繋がりを生かせる仕事だと思っていた。

 選手の名を言われれば、顔をはっきりと思い浮かべることができるし、声や性格も頭の中にあった。

 自分の中にハッキリと存在している人間の、現在位置を知ることができる。混迷の中にある世情においては貴重な仕事だ。


 ゲーリックはさっそく、名簿を球団から貰い受けて、自分のデスクに見えるように置いた。

 そして、連絡が来るのを待った。

 初めて連絡がきたのは、1930年に入ってからのことである。

 下部組織に所属していた選手が、戦地から無事に帰還したという報せだった。

 ゲーリックは何も考えず「出征中」の欄に入れた丸印に、チェックを入れた。

 丸にチェック。これが戦地から帰還した、ということを表すサインだった。


 そして何人かの無事を確認した後、自分の知っている名前が唐突にそこに名前を出してきた。


「アイク・ウィリアムズ 行方不明」

 ゲーリックにとっては馴染なじみ深い名前である。

 クロークハッチ・チェッカーズに就職して間も無いころ

──彼を球団職員にスカウトしろ

と、上部の人間から言われて、彼に

「実は、球団職員としての才能があると評価されているんだ」

と伝えたことがあった。

 アイクは少し考えた後に、ゲーリックの目を真正面から見て

「俺は選手として、このチームを支えられる人材になりたいんです」

と言った。


 ゲーリックはチェッカーズの上層部の人間が、支配的だったことを思い出して

──これは、まずいことになるぞ

と、身を震わせた。

 入ったばかりの若い自分が、何も成果をもたらせずに()()()()と帰ったところで、球団の本部にいる人間が寛容であるとは思えない。


 アイクも、そのゲーリクの不安を察知したのだろう。同情した表情を見せはしたが、自分の言い分は譲れないと

「とにかく、俺はやらない。上司に伝えてくれ」

と言って、帰された。


 そのあと思った通り、ゲーリックは上司の御冠おかんむりを食らった。

「たかがひとりを誘えんのに、何が繋ぎ役だ!」

 と、ゲーリックのことを責め立てた。

──人の意思は、そんなに思い通りにはならない

 ゲーリックは訴えたかったが、この時期にそんな力は無かった。


 後日、チェッカーズのロッカールームに再び行くと、アイクの方から声をかけてきた。

「用事がないなら、飲みに行こう」

 その言葉の通り、試合後に球場近くの酒場に誘われた。


 酒を飲むと、普段から溜まっていた鬱憤うっぷんが噴出してくるものである。

 慣れない環境で悪戦苦闘と閉口を繰り返しているうちに、ゲーリックは相当溜め込んでいたらしい。自分でも驚くほどに、次から次に愚痴ぐちが飛び出した。

 アイクは何も言わず、それを聞いていた。時にうなずくこともしてくれていた。

 ゲーリックはそのアイクの態度のおかげで、自分を安らげることができた。


 酒場を後にすると、ゲーリックはアイクに対して謝った。

「こんなに付き合って貰えるなんて思ってもみなかった。色々聞きたくないことも聞いただろう、謝るよ」

 アイクは気にすることもなく、ただ自分の思うことを話した。

「人は噓をつくものだよ。みんなそうじゃないか」

 雲を掴むような抽象的な言葉だったが、今の自分に重ねてみると

──確かに、嘘は付き物だな

と思った。


 そういった思い出があるアイクが、行方不明になった。

 混迷期における「行方不明」は、おおよそ「死亡」と同義である。ゲーリックにとって、信じがたい報せだった。

 だが、紙上に書き記すしかなかった。

 これまでが無事を知らせる情報ばかりだったから、ゲーリック自身も油断していたかもしれない。

 木槌で側頭部を叩かれたような衝撃が、確かにあった。

──アイク・ウィリアムス、行方不明

 その言葉を自分の頭の中で繰り返しながら、名前の横に設けられた「行方不明」の欄にチェックを入れた。


──このチェックマークが消える時が来るのだろうか

 ゲーリックは叶いそうにない想いを抱えた。いつか還ってこないかと夢想したが、どうしようもない運命を名簿に記しているとも自認していた。


 それからというもの、定期的に所属していた選手に関して、凶報が舞い込んでくるようになった。

 下部組織に所属している人間もそうだが、自分が顔を見知っていた選手も含まれていた。


 リック・ハートは、「行方不明」ということで処理されていた。時期的に言えば、戦地でそうなったに違いない。

 彼の純粋さを思い浮かべると、なぜそんな目にってしまったのかと思わざるを得ない。


 そして、自分から積極的に出征に向かったロラン・バークライの欄には「死亡」の場所にチェックが入った。

 彼の所属する小隊が、現地のゲリラ部隊に襲われて壊滅したらしい。

 迎えに行った航空隊が、タグなどから実際に確認をしたというから間違いは無い。


 ハリー・ボルドウィンとロールス・エイブラムスの訃報ふほうは、ほぼ同時に届けられた。

 ハリーは手榴弾の誤爆で。ロールスは空襲に襲われて死んだ。

 ハリーは養子として育てられた背景もあってか、人に優しかった。まだ26歳だったはずだ。将来を嘱望しょくぼうされた外野手だった。

 ロールスは、ひと癖もふた癖もある人間だったが、スプリッターが魅力のパワーピッチャーだった。彼は自分の身内のことを話したことがない。彼の死を悲しむ人が居てくれるのか。


 戦時中に葬儀が行われたのは、その中で唯一、マット・テイラーが死んだ時だった。

 彼の遺体は本土に帰ってくるのが早く、そのおかげで葬儀を執り行うことができた。

 そこには、チームに残ったタイラー・オーニールやマクドナルド監督の姿もあった。

 マットの父親の弔辞ちょうじを聞いた時

──この親からなら、マットのような人間が生まれるはずだ

と、思ったのを覚えている。


 そして、今。

 チェッカーズの屋台骨だったマクドナルド監督と、投手として所属しているマイケル・ケイジが、ともに病床にしている。

 世の中に溢れた瘴気しょうきというのは、体をおかしてしまうものなのか。ゲーリックはマクドナルド監督を迎えに行く車の中で、そんなことを考えた。


 マクドナルド監督を車に乗せ、チェッカーズのホームグラウンドの駐車場に停めて、関係者用の通路からベンチにまで徒歩で向かった。

 ベンチに2人して座ると沈黙が続いた。

 マクドナルド監督は、この時間を楽しみたいのだろう。

 その心を尊重しようと、ゲーリックは自分の存在を消した。


 ゲーリックは、耐えられなかった。風がいくつか吹いた後、マクドナルド監督に言葉をかけた。

「監督……」

 マクドナルド監督との付き合いは、かれこれ18年ほどになる。

 気分としてはマクドナルド監督の体調を気遣っていたが、その実は、自分とマクドナルド監督との付き合いの中で出た、甘さだったのかもしれない。

「なに、心配はいらない」

 マクドナルド監督は微笑んだ。

 普通だったら、笑顔を見ると嬉しくなるものである。だがマクドナルド監督の病状を思うと、むしろ悲しいものだった。

「はあ、良いんですか? お医者さんが怒りますよ?」

 そう言ったのは自分の中にある悲しさを、マクドナルド監督の意固地な部分に預けて、霧消させたかったからだろう。

 マクドナルド監督は、意に介さなかった。

「良いんだよ。わたしには、これが最善だ」

 ジョークを言うようだった。マクドナルド監督は、ゲーリックのことを心配させたくなかったのだろう。

 だがゲーリックにとっては言葉遣いに、逆に寂しさを感じた。

──もう、死ぬことが分かっているんだろう

 と、考えてしまう。

 そんなことはないはずだ、まだ生きる執念を持っているはずだ。そう思っても、マクドナルド監督がたたえた笑みには、

──何も思い残すことはない

というメッセージが見えた。


 もういちど、風が吹いた。

「選手たちは、どうなっているんだろうな」

 マクドナルド監督は、ゲーリックに問いかけた。


──まだ、監督はあきらめていない

 ゲーリックは感じ取った。この人は、またグラウンドに活気が戻ってくると信じているのだ。

 むろん、自分もそう思っている。

 だが、そのために戻ってこれる人間は少ない。


 球団本部の方針で、マクドナルド監督には所属選手の安否を伝えないようにしている。

 葬儀を営んだマットの場合は例外だったが、他の選手に関しては、マクドナルド監督は出征に出たことぐらいしか知らない。

 見方によっては残酷な仕打ちだが、全てはチーム運営に注力して貰うという、名分があった。

「私のほうには、まだ何も」

 心が冷えるのが分かった。

 自分は、噓をついた。それも、死をも覚悟しているだろう人に対してである。


──不道徳だ

 だが、ここで真実を話した所で、マクドナルド監督の寿命が延びるとも思わない。

──むしろ、命を縮めてしまうかもしれない

 言い訳をすることが、今の自分にとっては最善だと思った。


「そうか」

 マクドナルド監督は、それ以上のことを言わずに立ち上がった。

 場を立ち去ろうとベンチへの入り口に歩き始めた時、マクドナルド監督が転びそうになった。

「監督」

 ゲーリックはマクドナルド監督の体を支えて、倒れこまないようにした。

「監督、無理をするから──」

 つい言葉の調子が強くなった。マクドナルド監督はゲーリックに手を向けて

──かまうな

という声の代わりにした。

 ゲーリックはマクドナルド監督に、それ以上言葉をかけられなかった。


 2か月後、マクドナルド監督がこの世を去った。

 朝。様子を見に来た看護婦が、座った姿勢のままで事切れていたのを見つけたのだそうだ。


 最期にマクドナルド監督が、何を見ていたのかはわからない。

 ただ、ゲーリックには何となく思える。

 きっと目の前に、グラウンドが見えていたことに違いない。

 たった2か月前に見せていた情熱の欠片を、死の間際になって失うはずがない。むしろ、強く燃え上がらせていたのではないか。


 ゲーリックは夢想しながら、今日も職務に励んだ。

 1934年の秋である。


──・──・──・──


 ある日ゲーリックは、チェックマークが入れられた選手表を見ながら、ふと思った。

──自分が、選手たちを殺しているのではないか

 突拍子とっぴょうしも無かったが、あながち間違いでもないように思った。


 ここに文字として表記されている選手は、いわば記憶の残滓ざんしだ。文字列だけで、その選手との思い出がよみがえる。

 過去のことであっても、過去ではない。

 自身の記憶をよすがとして、確かな存在として表現される。


 しかし「行方不明」だとか「死亡」の欄に、チェックマークが入るとどうなるだろうか。

 記憶が、すべて過去になる。

 記憶が過去になった時、その人物が確かに死んだのだと考えざるを得なくなる。


 自分が死神になったのではないか。そう錯覚したことがある。

 私物の万年筆で印をつけるたび存在が過去のものに、つまり死を迎える。

 そう思うと、自分がかつてなく残酷な行動をしていると思えた。


 表に乗っている人物がたとえ死んでいなくても、チェックマークを付けると死んだ存在として記録される。その行為の、なんと恐ろしいことか。

──もしかしたら、権力とはこういうものなのか

 そう考えたりもしたが、権力者ですら生死そのもので越権することは無いと考えると、冷や汗が出た。


 もしかしたら、心が病んでいたのかもしれない。自分に課せられた責任に対して、耐えることができなくなっていたのだろう。

 それでも、自分が感じていた使命感とに板挟みにあって、辞めることはできなくなっていた。


 マクドナルド監督が亡くなった、ほぼ同じころにマイケル・ケイジが亡くなったと連絡が届いた。

 マイケルはもともと病がちで、チームにとっても管理が難しい選手だったが、出れば確実に戦力になった。ルックスも特徴的で、ファンに愛された選手でもある。


 ゲーリックは、マイケルの横にある「死亡」の欄にチェックを入れようとした。

 ふと、この欄にチェックを入れなかったら生き続けるのだろうか、と考えた。

 そんなはずがない、というのは理解している。

 だが、試してみたい気持ちもあった。枠の中にチェックを入れなければ、永遠に彼は生き続けるかもしれない。

 その考えに従って、その日はマイケルの「死亡」の欄にチェックを入れなかった。


 何日か経って、チェッカーズのロッカールームを訪れる機会があった。

 ロッカーの中には最低限試合ができるだけの選手と、臨時の監督がいた。

 選手たちの中に、タイラー・オーニールがいた。

 戦前からただ1人、嘆願たんがんの署名もあって、このチームに残って腕を振るっている。


 この中では、いちばん付き合いが長い彼に話した。

「実は──」

 ゲーリックの告白を聞いたタイラーは、顔色を一気に変えた。

 次の瞬間、突発的に出たのか、それとも意図してやったのかはわからないが、タイラーはゲーリックを手で押し退けた。

「何をするんだ」

 ゲーリックは困惑しながら、タイラーにその意図を聞いた。

 タイラーは即答した。

「あんたは、仲間の命をもてあそびたいのか?」

 ゲーリックは、はっとした。すぐに

「すまない」

と、謝った。

 自分のしたことが余りに愚かだと、自覚したからである。


 自分にとっては、一時の気の迷いだった。だがタイラーにとっては、同じ景色を見ていた仲間を愚弄したことに他ならなかった。

 ゲーリックはいつの間にか、与えられた役目に溺れていたのである。


 球団の本部に帰ったゲーリックは、すぐさまマイケルの死亡欄にチェックを入れた。

 その日から三日三晩、反省と後悔ばかりが頭を埋め尽くした。

「すまない。臆病だったんだ……」

 ゲーリックは自分の余りな臆病さを、人生で初めて自覚したかもしれない。これまでも

──自分は臆病だ

と思うことはあったが、強烈な自己批判としてそう思ったのは、初めてだった。


──・──・──・──


 戦争が終わって世情が安定してくると、グラウンドにも徐々に活気が戻っていった。

 そうなると自分がチェックを入れた名簿は、資料としての価値しか持ち得なくなっていた。


──これは、彼らが生きた証なんだ

 ゲーリックはそう思っている。

 筆記してあることは、誰が死んだかだけである。だが「死」を表すことによって「生」を、色濃く描写しているのだ。

 身をもって知ったゲーリックは、名簿に強いメッセージ性があると信じて疑わなかった。


 戦場から還ってきた選手たちには、チェッカーズに戻ってきた人間も、戻ってこなかった人間もいた。

 世の中は上手くいかない。

 球団の上層部はチェッカーズに戻って来ると信じていたようだが、全てが狂ってしまった後に、元に戻ることなど無かった。


 ゲーリックはマクドナルド監督が亡くなったあたりから、あるいはそれ以前から

──元には戻らないのだろう

と予感していたから意外には感じなかった。

 だが球団側にはデイブ・リンデンの移籍問題などもあって、相応の衝撃が走った。


 有事から抜け出した世情に慣れ始めた、1942年。

 ひとつの訃報が舞い込んできた。サイモン・ポーリーが亡くなったのだという。

 ゲーリックはその葬儀に参加することになった。

 チェッカーズに在籍した人間で参加したのは、6人だけだった。


「随分、少なくなったな」

 エルヴィス・ホールトンだった。

 ゲーリックは口をつぐんだ。それは他のメンバーも同様だった。きっと全員が、悲しみを表現しかねている。


 ジェフ・オーガスタが、カーター・フレイマンの方を見た。

「なんで、お前がいるんだよ」

 その目は敵意をはらんでいた。

 たしかにカーターは、サイモンを散々にけなしてきた過去がある。カーターは何か思うことがあるのか、言葉を発することはなかった。

「よくも()()()()()()()()と……」

 喧嘩腰になったジェフを、ジェイコブ・フューリーが止めた。

「ジェフ。サイモンが会うことを望んでいたそうだ。だよな? ゲーリック」

 ジェイコブが言う通りだった。


 サイモンは生前、戦争から帰還したあと、すぐに球団本部に来て

「カーターは、カーター・フレイマンはどうしてますか?」

と、球団職員にいて回った。


 なぜそこまで、カーターのことを気に掛けているのかとくと

「彼と、また野球をしようと約束したんです」

と、サイモンは答えた。

 球団職員たちは、彼の純粋なまでの優しさに応えない、ということはできなかった。


 カーターは兵役に出たと伝え、サイモンが場を去ってから8年。

 カーターの帰還という情報を得てから何回も手紙を出して

──サイモンと会ってくれ

ということを頼んだが、カーターは聞き容れなかった。


 サイモンにも、カーターに会えるように連絡先は教えていたが

「彼が会いたがっていない内は、無理に顔を合わせられません」

と言って、自分から会いに行くということを避けていた。

 そうして年月が過ぎ、次に会うのがこんな場だとは想像していなかった。


「だったら、なおさらだ。なんで来たんだよ?」

 ジェフの短気な性格は、ときに人の傷をえぐる。

 カーターの行動が、ジェフにとっては利己的に見えて堪忍かんにんならないのだろう。

「ジェフ、よせ。サイモンが望んでいないのはわかるだろ」

 確かに、そうだ。彼はカーターの事をよく心配していた。

──かつての自分を見ているようで、放っておくことができないんです

 そう打ち明けられたことを、ゲーリックは鮮明に覚えている。


 思えばチェッカーズというチームには、不思議な循環がある。

 うらみやいかりが、なぜかお互いの繋がりを強くしてしまう。

 独立した個々人の関係性というよりも、それぞれが血管と臓器で繋がれているような、そんな生々しさすらも感じる程である。

 お互いが生きるために、お互いがなくてはならない。

 カーターとサイモンの繋がりは、それを象徴しているようにも思えた。


 葬儀が終わりに近づいたころ、ジェイコブがカーターと話しているところを見た。

 深刻で、しかしながら活力を感じるような口調が聞こえてきた。

 ゲーリックは思わず、聞き耳を立てた。

「カーター。自分は待ちすぎていたのかもしれない」

「そうか。俺も感じたよ」

「少なすぎると思わないか。そこまでバラバラだったかな、と思ったんだ」

「……サイモンはどう思っていたんだろうな」

「サイモン・ポーリー……たぶん、純粋に野球を楽しみたいと言う気がする」

「そうかもな……なあ、()()()たちを訪ねられないか?」

「仲間たちを? どういう意味だ?」

「少しな」

「過去にすがりたいのか」

「そうじゃない。ただ、あの時に抱えていた物を思い出したい」

「そうか。……自分も付き合ってみようかな」

 2人がそこまで話した時、ゲーリックはその会話の中に入っていた。


「俺も、協力して良いか?」

 2人は驚いた表情を見せた。

 ゲーリックが唐突に表れたことにではなく、提案に驚いた。

「なんで、そんなことを?」

 2人が質問すると、ゲーリックは目を光らせた。

「生きていた証を、ちゃんとこの目で見届けたいんだ」

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