領内の魔物討伐へ
ミキストリアが子どもたちの訓練で忙しくしていた頃、侯爵領の北部に魔物が出たという知らせが届いたのだった。
ミキストリアが、父ローレンスに呼ばれて執務室に向かうと既に、騎士団の団長エルウィンと、魔法師団団長バートがローレンスと話しているところだった。
ローレンスはミキストリアが帰還し、宮廷魔法師団にも戻らず、辺境伯との話もそれ以外の縁談もなくなり、ミキストリアが侯爵家に残ることが確定した際、侯爵家の魔術師団を魔法師団に格上げしていた。
魔術師が集団になり、討伐や警護などの任務を行うのが魔術師団、魔法、魔道具、魔法薬の研究などを行う部門を併せて持つものが魔法師団と呼ばれる。ミキストリアは魔法研究分隊に祥子とともに所属し、それをもって侯爵は魔法師団への格上げを行ったのである。宮廷魔法師団に続く王国2番目の魔法師団であった。魔術師団団長から魔法師団団長へと自動的に格上げされるバートも大いに喜んでいた。
「ミキストリア、先程早馬で連絡が入ったのだが、シェヴァニー近郊で魔物の群れが出たらしい」
「魔物ですか」
「そうだ。シェヴァニーでも駐在の衛兵と冒険者で対応しているが足りん。騎士団と魔法師団から人を出す」
「お父様、わたくしも参ります」
「そういうかと思って呼んだのだが、まさか即決とはな。参加を許可するがあくまでも主力は騎士団と魔法師団だ。ミキストリアは回復に専念するように」
「承知しております。月組と星組も連れて行きます」
「闇と聖だったかな?」
「はい、その通りです」
「同行は許可するが、ミキストリアと共に後方に位置し、危険な目には合わせないように」
「はい、お父様」
「エルウィン、バート、よろしく頼む。出発は明日早朝。準備にかかってくれ」
「「はっ」」
「はい」
ミキストリアは留守中の土属性の子ども達の訓練についてルーシーと細かく詰めると、翌朝、侯爵邸を出発した。子ども達が行くならと祥子が譲らず祥子も一緒だ。
エルウィンとバートはそれぞれ中隊を引き連れていた。中隊は3つの小隊で構成され、騎士団と魔法師団のそれぞれの小隊を組ませ混成小隊としている。順にアップル、ブラボー、チェリーである。ミキストリア達はブラボー隊に組み入れられていた。移動中はアップル隊とチェリー隊に前後を守られる布陣である。ミキストリアの他には祥子、星組の聖属性の子どもたち4名と月組からは2名フィオーネとジェシカが参加する。侍女のマリア、サマンサ、カーラも帯同している。闇教会のシスター達は教会の仕事もあるので、領都に残ることになった。
星組を連れて行くのは何かと負傷しやすい遠征でヒールを実践使用させ、経験値を上げるためである。星組を連れていくのは道中でサーチの練習をさせるためである。魔物討伐に子どもを帯同するのは非常識であるが、騎士と魔術師の混成中隊に守られてのシェヴァニーまでの移動と考えると逆に安全であるとも言えた。
混成小隊ごとに準備をすると、順に領都を出て北のシェヴァニーに向った。
魔物の群れがミキストリアのサーチ魔法に引っかかったのは、昼食を取りミキストリアを含むブラボー隊が出発して間もなくのころだった。隊を組んでの移動であるため、ミキストリアは防御魔法であるイージスではなく、サーチでの索敵だけを行っていた。イージスを分隊すべてを対象に入れて常時発動するのはまだまだ実践経験が不足しているからだ。その代わりに検索距離を長めにして常時サーチを発動していたのだった。ミキストリアはサーチに魔物のグループがかかったのに気づくと、馬車の御者台につながる戸口から顔を出し、馬車の前で馬を進めている2人の団長に声をかけた。
「エルウィン団長、バート団長、魔物の群れが2組、こちらとチェリー隊に接近しているようです」
「えっ?」
「えっ? ミキストリア様は、どうしてそれが?」
エルウィンが馬を馬車に並べながら聞いてきた。バートもエルウィンと反対側の横に馬を並べてくる。ミキストリアは2人に挟まれた格好になり、左右を見返しながら言った。
「サーチです」
「私のサーチにはまだかかりませんが……」
バートが不思議そうに言ってくる。
「魔物はオーク、3匹がこちら、6匹がチェリー隊に向かっています。距離はこちらがおよそ 1km、チェリー隊のほうも隊から1㎞。チェリー隊はまだ出発準備中なので、支援を送ったほうが良いのではないかと」
「そんな遠くが……」
バートが呆気に取られて固まるものの、エルウィンはハッとするなり自分の前で馬を進めていた伝令を呼んだ。
「伝令! 第3分隊の1、2班はチェリー隊の支援に戻れ! オーク6匹が接近中だ! 馬車の前の第1分隊3班は馬車の後ろの第3分隊に合流。行け!」
伝令は馬を進めて、前の班の長に指示を伝えると馬を返して後方への指示を伝達しに向かった。
エルウィンは隊列の変更が終わると声を張り上げた。
「聞け! オーク3匹が接近中」
エルウィンは支持を出しながらミキストリアに視線を送ってくる。
「オークは左前方」
ミキストリアが視線に答えて言うと、エルウィンは頷いて続ける。
「左前方だ。ここまま移動しながら会敵する。準備開始!」
エルウィンがバートとミキストリアに思案顔を向ける。
「ミキストリア様、バート、このままだとオークをやり過ごすこともできるでしょうが、この際討伐したほうがいいと思います。先頭の班が会敵する位置で前進を止めたいのですがどうでしょう?」
「同感ですな。馬車を停められるところがあったらそこに停めて、迎え撃ちに行くのがよいでしょう」
「第1分隊の2班もあれば3匹なら大丈夫でしょう」
「作戦はエルウィン団長に任せます」
「では」
短く返事をしてエルウィンは馬を前に走らせた。遠くで指示を出す声が聞こえてくる。
「よし、ここに馬車を停める。先頭の2班は森に入ってオークを討伐。残りはここで警戒!」
「「「「はっ!」」」」
「オークは約400m 先、この方向です」
ミキストリアは森の中に入る2班に伝える。
「よし、行け!」
エルウィンの合図で騎士と魔術師が森に入り込んでいった。それを見送ったバートは振り返るとミキストリアに向かって頭を下げた。
「ミキストリア様、子どもたちを集めて魔法の研究、訓練をしていたとお聞きしていましたが、ミキストリア様の能力にも改めて驚きました。私もぜひご伝授していただきたく」
「バート団長! やめてください。頭を上げてください」
「ですが、ミキストリア様、これだけ余裕をもって対応できるのもミキストリア様のおかげ。魔法師団団長としてこのままでは面目が立ちません」
「そんな。いや、ですが……!」
ミキストリアは最後まで言えなかった。
「ミキ!」
(何か来る…… 速い!)
ミキストリアが発動しっぱなしにしていたサーチに異変を感じるのと、何かに気づいた祥子が警告めいた声音で自分を呼ぶのがほぼ同時だった。ミキストリアは左の森の上、騎士や魔術師が入っていった方向のやや先を見上げた。
「ミキストリア様?」
「どうかしましたか?」
「何かこちらに来ます!」
遠くの空を移動する何かがいた。
「何だあれは!」
「ロ、ロックバード!」
小型の馬車くらいの大きさの岩を脚で掴み、運んでいる巨鳥ロックバードであった。
「祥子! 子どもたちを右の森の木が密集しているところへ!」
「くっ。サマンサ、マリア、カーラ! 一緒に来て!」
ミキストリアは、馬車が止まった時にミキストリアと一緒に降りてきていた祥子に叫んだ。祥子が頷いてシスターと子どもたちの乗った馬車に走り寄るのを見たミキストリアはロックバードに向きなおった。
「<イージス>!」
ミキストリアにとっては久しぶりの戦闘場面でのイージス発動である。
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